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  • 月報 「聴診器」 2009/03

    月報 「聴診器」 2009/03/01

     

    ようやく、寒さも緩んできましたね。インフルエンザなどの感染症も減ってきています。しかし、去年と一昨年は、3月からまた寒くなりました。一度、緩んだ後の寒さは格別に体にこたえます。用心しましょうね。

     

    10 脂質異常症③  動脈硬化-2

    前回は、脂質異常による動脈硬化の進行を説明しました。動脈硬化は、年とともに進行し、LDLコレステロールが高値であればさらに進行が早まります。しかし、LDLコレステロール値が一緒でも、全員が同じように動脈硬化が進むわけではありません。動脈硬化を進めるのは、脂質異常症以外に糖尿病、高血圧、喫煙、遺伝的要因があります。このため、同じLDLコレステロール値でも、糖尿病があるほうが動脈硬化が進みますし、高血圧があればさらに進みます。逆に言えば、糖尿病や高血圧があればより厳格に脂質管理をしなければ動脈硬化がかなりのスピードで進みます。これらの動脈硬化の促進因子を、「危険因子:risk factor

    」と呼びます。

    脂質異常症のガイドラインでは、治療の目標値が決められています。一般的にはLDLコレステロール160mg/dl以下、中性脂肪 150mg/dl以下、HDLコレステロール 40mg/dl以上が目標値になります。しかし、①高血圧、②糖尿病、③加齢、④冠動脈疾患の家族歴、⑤喫煙などの危険因子うち一つでもあればLDLコレステロールの目標値は140mg/dl以下になり、三つ以上あればLDLコレステロールの目標値は120mg以下になります。特に糖尿病は、特別に2ポイント分の危険因子として考えますので、加齢と糖尿病があるだけでLDLコレステロールの目標値は120mg/dlになります。また、すでに動脈硬化が進み心筋梗塞や狭心症を発症してしまっている人はさらに厳しく考え、LDLコレステロール100mg/dl以下が目標になります。

    これらの目標値はなんとなく決められたものではありません。コレステロール治療の様々な研究結果を参考に決められたものです。もともと、コレステロールが高いと心筋梗塞が多いのは分かっていました。しかし、コレステロールを下げたら本当に心筋梗塞の発生が減り、寿命が長くなるかどうかは分かりませんでした。一部では「コレステロールを下げると癌が増えるのではないか」などの心配をする医師もいたのです。そこで、数万人規模でコレステロールを下げた人と下げない人の経過を比べてみる研究が行われました。すると、コレステロールを下げた人のほうで、心筋梗塞や脳梗塞の発生が圧倒的に減りました。一方、癌を含めた他の病気の発症に差は無く、結果としてコレステロールの治療により寿命が延びることが確認されました。同じように、様々な危険因子をもつ患者さんに対して、いろいろな目標値を設定して研究をした結果も分かってきました。いまでは、危険因子が多い場合は、目標値をより下げたほうが寿命は延びることが分かっています。これは単に長生きをするだけでなく、入院や手術を受けなくていい、いわゆる健康寿命が延びることも確認されています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2009/02

    月報 「聴診器」 2009/02/01

     

    インフルエンザが流行しています。最近はタミフルが効かないタイプも出現しているようです。ただし、インフルエンザそのものはあまり危険な病気ではありません。もともと、元気な人であれば、タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬を使用しなくても3-4日寝ておけば治ります。抗インフルエンザ薬を使用すると1-2日早く治ります。いずれにしても、しっかり寝ることが一番の薬です。

    もっとも、高齢の方や心臓や肺が悪い患者さんがインフルエンザになった場合には危険が高くなります。この場合には、抗インフルエンザ薬を使用したほうがよいと思います。

     

    10 脂質異常症②  動脈硬化-1

    前回から脂質異常症について説明しています。脂質異常症とはLDLコレステロールが増えたり、中性脂肪が増えたりする病気です。脂質異常症だけでは、症状は何もありません。よく、「コレステロールが高くなると、血液がドロドロになって頭が重くなる。肩こりがする。」といいますが、そんなことはありません。これは、健康食品屋さんが作った宣伝文句です。脂質異常症では全身の血管に動脈硬化が進みます。動脈硬化が進めば狭心症や脳梗塞を起こし、この時点で初めて症状が出ます。ただし、この時点で脂質異常症の治療を開始しても動脈硬化自体が改善することはありません。

    肝臓から血液に放出されたコレステロールは、LDLコレステロールの形で末梢の血管まで届けられます。そこで臓器に取り込まれホルモンや細胞構造の部品になります。血管に届けられるLDLコレステロールが多すぎると、LDLコレステロールは血管壁にもぐりこみます。血管は水道管のような構造をしていますが、その壁は内側から内皮、平滑筋、外膜の三層で構成されています。LDLコレステロールはこの内皮に取り込まれます。ここで、マクロファージという白血球の仲間がやってきます。マクロファージはLDLコレステロールをどんどん食べます。LDLコレステロールをたっぷり食べてパンパンに太ったマクロファージはそのまま、血管内皮で死にます。すると、血管内皮の中にコレステロールの塊が出来ることになります。これを繰り返していくと、血管壁に柔らかいぶつぶつが出来るようになります。このぶつぶつはお粥の粒のようにみえるので「粥状動脈硬化」と呼ばれます。このぶつぶつは時間とともに大きくなっていきます。大きくなったぶつぶつを、僕たちは「プラーク」と呼んでいます。プラークが血管の大半を占めるようになると、血流が悪くなります。例えば、心臓の栄養血管(冠動脈)で動脈硬化が進行し血管が狭くなると、狭心症を発症します。

    プラークの中は脂が詰まっています。急な血圧の上昇などの血管にストレスがかかると、このプラークが破けます。プラークが破けると、脂と血液が直接触れ血液の塊が出来ます。血液は、血管以外のもの触れると固まる性質があるのです。この血液の塊を血栓と呼びます。血栓が血管を閉塞すると、そこから先に血液が行かなくなります。これが、心臓に起これば心筋梗塞であり、脳に起これば脳梗塞になります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2009/01

    月報 「聴診器」 2009/01/01

     

    明けましておめでとうございます。毎年、お正月を過ぎると、体重が増加したり血圧が上がったりする人が多くなります。お餅やご馳走の食べすぎですね。僕もよく食べました。お互いに節制を心がけましょうね。

     

    10 脂質異常症①  脂質代謝

    今回からは脂質異常症について説明していきます。脂質異常症とは聞きなれない名前だと思いますが、もともとは「高脂血症」と呼ばれていました。平成19年の動脈硬化疾患予防ガイドラインから脂質異常症と呼ばれるようになっています。まぁ、「コレステロールが高い」とか「中性脂肪が高い」とかいうやつですね。脂質異常症には高LDLコレステロール血症、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症が含まれます。

    コレステロールや中性脂肪は食事から摂取されますが、体内でも合成されます。体内での合成は主に肝臓で行われます。合成された、もしくは食事から吸収された中性脂肪やコレステロールは血液を介して全身に運ばれます。もともとコレステロールは体にとって大切なもので、細胞の構造部品になったり、ホルモンの原料になったりします。中性脂肪はエネルギー源として活用されます。ただし、コレステロールや中性脂肪が多すぎると動脈硬化が進み様々な病気を引き起こします。

    健康診断などでは総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪などを測定します。ここで出てくる、HDLやLDLは、高密度リポ蛋白(high Density Lipoprotein: HDL)と低密度リポ蛋白(Low Density Lipoprotein: LDL)の略です。コレステロールや中性脂肪は、つまるところ脂ですので水や血液には溶けません。そこで、リポ蛋白を乗り物として輸送されています。この、リポ蛋白に何種類かあってそれぞれに役目があり、その中の一つカイロミクロンは腸管で吸収された中性脂肪を肝臓まで運ぶ役目をしています。LDL は肝臓で合成されたコレステロールを末梢に運ぶ役目をしています。このため、血管にコレステロールをためこみ、動脈硬化を促進させる原因となります。LDLがコレステロールと合体した状態をLDLコレステロールと表現し、LDLの役目をふまえて「悪玉コレステロール」と俗に呼んでいるのです。逆にHDLは末梢から肝臓までコレステロールを運ぶ役目をしています。このため、血管からコレステロールを引き上げ、動脈硬化にたいして抑制的に働きます。HDLがコレステロールと合体した状態をHDLコレステロールと表現し、リポ蛋白の役目を考えて「善玉コレステロール」と呼ばれます。コレステロール自体はHDLコレステロールもLDLコレステロールも同じもので、コレステロールそのものに悪玉や善玉の区別はありません。総コレステロールは、コレステロールの総量です。総コレステロールの中にはHDLコレステロール、LDLコレステロールが含まれ、中性脂肪の値も影響します。最近は総コレステロール値は重視されず参考程度です。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/12

    月報 「聴診器」 2008/12/1

     

    最近はインフルエンザの予防接種などで患者さんが大変多くなっています。待ち時間が長くなり、皆様には大変ご迷惑をおかけしています。基本的には番号順に診察を行っていますが、重症が疑われる場合は早めに診察をするようにしています。症状が重い方はスタッフに申し出てください。

     

    9 糖尿病⑦ 糖尿治療薬 インスリン

    皆さんは11月14日が何の日かご存知でしょうか。国連と世界糖尿病連合が制定した「世界糖尿病デー」です。イメージカラーのブルーに合わせて、世界各地でブルーのライトアップが行われることが有名です。日本でも東京タワーや鎌倉大仏などが青く染められました。11月14日はインスリン発見者のフレデリック・バンディング氏の誕生日から決められました。バンディングは膵臓からインスリンを抽出し、糖尿病の治療に使用しました。それまで、糖尿病は不治の病でしたが、インスリンの使用により飛躍的に寿命が延びました。この功績によりバンディングは1923年のノーベル賞を受賞しています。今日では様々な糖尿病治療薬が登場していますが、それでもインスリンは最も大事な薬です。

    治療に使用するインスリンはいくつか種類があります。作用時間で分類すると、超速攻型、速攻型、中間型、持続型などがあります。また、速攻型と中間型を混ぜた混合型インスリンもあります。超速攻型では皮下注射後15分で効き始め、一時間前後でピークを迎えます。速攻型では2時間前後がピークになり、中間型では6時間前後がピークになります。混合型では2時間前後と6時間前後にピークがあります。持続型では1時間後ぐらいから効き始めますが、ピークは作らず24時間程度作用が持続します。

    いつの時点の血糖値を下げたいかでインスリンの種類や打つタイミングを決めます。一番生理的条件に近く、厳格な血糖コントロールが得られるのが四回打ち法です。一日一回、持続型のインスリンを投与し、毎食前に速攻型もしくは超速攻型のインスリンを打つ方法です。食事の時間がずれても対応できますし、低血糖発作が比較的少ない方法です。ただし、一日に4回もインスリンを打つのは手間がかかり、患者さんの負担は大きくなります。混合型インスリンを使って一日2回打つ方法もあります。混合型インスリンはピークが二つあるので、朝一回投与しても、昼食時にもう一回ピークがくるようになります。入院中のように定期的に決まった量の食事を取れる場合はよい方法だと思います。ただし、食事が不規則になると低血糖発作を起こしやすくなるので、あまり厳格な血糖コントロールは得られなくなります。

    持続型インスリンは内服薬との併用でも使用されます。内服の血糖降下薬で十分なコントロールが得られない時に、一日一回持続型インスリンを打つと劇的に改善されることがあります。この方法はBOT(Basal supported Oral Therapy)と呼ばれ、外来でもインスリンの導入が可能です。欧米のガイドラインではこの方法が奨励されています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/11

    月報 「聴診器」 2008/11/01

     

    最近は風邪の人も増えてきました。帰ったあとは手洗いとうがいをしてください。

     

    9 糖尿病⑥ 糖尿治療薬 内服薬

    前回は糖尿病の治療薬について、大まかに説明しました。大切なのは、薬物療法を始めても食事療法は続けなければならないことです。これは、しっかり覚えておいてください。今回は、それぞれの薬ついて説明していきます。

    1. SU薬 スルフォニル・ウレアーゼの略です。膵臓を刺激してインスリンを分泌させて血糖値を下げる薬です。一番多く使用されている経口血糖降下薬です。ダオニールやアマリールなどがこれに当たります。長所は血糖を下げる効果が強いこと、比較的安価なことです。一方、短所としては、低血糖発作が多い、食欲が出る、太るなどがあります。僕の考えとしては、非常に有用な薬ではありますが、長期予後を考えて、必要最小限の使用にしたいと思っています。
    2. グリニド SU薬と同じように膵臓を刺激してインスリンを出させる薬です。ただし、SU薬と比べて作用時間が非常に短く、内服して30分-60分程度しか効きません。この薬は、食事前に服用し、食後の血糖値を抑える効果があります。グルファストやスターシスなどがこれにあたります。食後高血糖タイプの糖尿病の治療に優れており、低血糖も比較的少ない印象です。作用時間が短いので空腹感や肥満も出にくくなっています。短所としては、毎食前に内服しなければならないので面倒くさいことです。また、重傷の糖尿病にはあまり効果がありません。
    3. α-GI 腸管に作用し、糖の吸収を抑える薬です。ベイスンやグルコバイがこれに当たります。食後の血糖上昇を穏やかにする効果があります。長所は低血糖発作がないことです。膵臓に負担をかけないことを考えても、非常に理屈にあった薬です。ただし、やはり毎食前に内服しなければならないこと、お腹が張ったりガスが多くなることがあります。血糖降下作用は弱く、軽症に使用するか、補助薬として使用します。
    4. メトフォルミン 肝臓でのグリコーゲンからブドウ糖を作るのを抑える薬です。また、筋肉に作用してインスリンの効きをよくする働きもあります。血糖降下作用はそれほど強力ではありませんが、肥満気味の方にはよく効きます。低血糖発作も少なく長期予後を改善する効果もあります。以前、類似薬で副作用が多く出たことがあり、高齢者、肝障害、腎機能低下があると使ってはいけないとのルールがあります。非常によい薬なのにルールが厳しすぎて使用できないのがつらいところです。
    5. ピオグリタゾン 一番新しい薬です。筋肉に作用してインスリンの効果を増強します。低血糖が少なく、長期予後も改善するとの研究結果も出てきました。血糖降下作用は穏やかで、むくみなどの副作用があります。 上野循環器科・内科医院  上野一弘
  • 月報 「聴診器」 2008/10

    月報 「聴診器」 2008/10/1

     

    あっと言う間に涼しくなりましたね。この時期、風邪や肺炎の人が急激に増えてきます。朝方は思ったよりも冷えるようですので、寝るときは少し多めに着込んでください。

     

    9 糖尿病⑤ 糖尿病の治療

    前回は糖尿病の食事療法について龍官さんから説明してもらいました。食事療法は、糖尿病治療の基本であり、軽症から重症までどの段階の治療においても大切なものです。今回は、内服薬について説明しますが、糖尿病体質そのものを変えるのは食事療法だけです。食事療法をせずに、薬物療法だけを行うと、血糖値は一時的には下がるものの、一年もすれば再度悪化していきます。血糖コントロールを薬だけに頼れば、薬の必要量はどんどん増えてゆきますし、合併症も多くなります。「糖尿病だけど薬を飲んでいるから、甘いものを食べても大丈夫」といわれる方がいますが、そんなことをしていれば確実に合併症が進みます。また、薬物療法で血糖コントロールが改善したり、低血糖症状が出たりすると、食事量を増やす方もいます。このときは薬物の量を減らすべきで、食事療法は継続しなければなりません。

    薬物療法の前に、体内で糖がどんな風に処理されているかをおさらいしておきましょう。糖は口から食物の形で摂取されます。食物は消化管内で細かい分子に分解され、グルコースの形で小腸から吸収されます。吸収された糖は門脈という特別な血管を通って肝臓に運ばれます。ここで、糖の一部はグリコーゲンの形で肝臓に蓄えられます。一部の糖はそのまま、血中に移行します。血中の糖は、インスリンの働きで細胞に取り込まれます。インスリンは膵臓という肝臓と胃のそばにある臓器から放出されます。インスリンは常時微量に放出されていますが、食後は多量に放出され、血糖値を低下させます。糖尿病の薬は、糖の代謝のそれぞれのレベルに作用して、血糖値を抑えます。

    糖尿病の薬は、内服薬とインスリン(皮下注射)に分かれます。内服薬は大きく3種類ほどに分かれます。糖の吸収を抑える薬、膵臓を刺激してインスリンを出させる薬、細胞に作用してインスリンの作用をよくする薬などがあります。内服薬沢山使用しても思ったように血糖値が下がらないときや、他の病気で血糖コントロールが不安定なときはインスリンを使用します。なお、I型糖尿病では原則的にインスリンを使用します。

    薬物療法の目的は血糖値の正常化です。ただし、薬を使用することによって低血糖などの副作用が出現することがあります。また、薬を長期に使用することで、膵臓が疲れてしまい薬が効かなくなることもあります。最近では、なるべくインスリンを出させないような薬のほうが予後が良いといわれています。薬物の種類や量は①血糖値の正常化、②副作用、③長期的な効果を考えて選びます。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/8

    月報 「聴診器」 2008/8/1

     

    暑いですね。もう、一ヶ月ぐらい雨が降っていない気がします。水不足は大丈夫なんでしょうか。

     

    9 糖尿病④ 糖尿病の治療

    今回からは糖尿病の治療について説明します。ただし、I型糖尿病は原則的にインスリン治療が第一選択なので、II型糖尿病の治療についての説明になります。

    糖尿病治療目標は高血糖の改善です。このために、食事療法、運動療法、薬物療法があり、薬物療法の中に経口薬治療とインスリン治療があります。これらの治療法を組み合わせながら、血糖を正常化していきますが、血糖値正常化には3つの数値目標があります。①空腹時血糖120mg/dl以下、②食後最高血糖値 180mg/dl以下、③HbA1c 6.4%以下となっています。これらの数値目標は、高血糖の先にある合併症の予防を目指して設定されました。糖尿病患者さんの経過を長年観察すると、上記の目標が達成できている人と達成できていない人の間で、合併症の発症率が大きく異なったのです。つまり、数値目標よりも血糖値が高い場合は、失明や人工透析導入、脳梗塞の発症などが多く、寿命も短くなります。

    食事療法はすべての患者さんで基本となる治療です。II型糖尿病は摂取カロリーが消費カロリーを大きく上回るために発症します。まずは、このアンバランスを改善することが大切です。本来必要な摂取カロリーは、その人の身長と活動性から算出します。基本的に体重は無関係です。太った人でも、やせた人でも身長と活動性が一緒ならば、必要なカロリーは同じと考えるのです。

    運動療法は、運動にてカロリー消費を促すものです。しかし、運動だけで多量のカロリーを消費するのは大変です。例えば、100kclを消費するためには30分は 歩かなければいけません。アイスクリーム1カップ、200kcalを食べたら1時間歩かなくては消費できない計算になります。運動療法は、食事療法をしながら行うべきです。よく、「沢山運動したから、好きなだけ食べていいと思った」との話を聞きますが、運動療法が食事療法をしないことの言い訳にはならないことはよくわかっておいてください。ただし、消費カロリーが十分確保できなくても運動療法には意味があります。運動をすることで基礎代謝が上がり心肺機能の向上が得られます。また、インスリン抵抗性を改善することで、インスリンが効きやすい体に変えることができます。運動療法は、一回30分以上、一日2回、週3日以上が望ましいとされています。僕はそこまで出来なくても、「何もしないよりはマシ」と、ちょっとでも良いから体を動かすようにしたほうがよいと思います。

    薬物療法は生活習慣の改善でも治療効果が見られない場合や、緊急処置が必要な場合に行われます。薬物療法は即効性があり、効果も確実です。しかし、低血糖を起こしたり、空腹になったり、肥満になったりします。合併症の予防を考えても食事療法に勝る治療はなく、薬物治療は必要最小限で行うべきだと思います。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/7

    月報 「聴診器」 2008/7/1

     

    なんだか、肌寒い天気が続きます。空もどんより暗く、雨も降ったりやんだり。今年は梅雨が長いようです。

     

    9 糖尿病③ 糖尿病の検査

    糖尿病は血糖値が高くなる病気です。そのため、糖尿病の診断は高血糖を証明することでなされます。ただし、血糖値は状況によって大きく変化するものです。ご飯を食べていなければ血糖値は低くなり、ご飯を食べれば血糖値は高くなります。熱がでたり、大きな怪我をしたりしたときにも血糖値は上がります。正常では空腹時血糖は110mg/dl未満、食後の一番高いときで140mg/dl未満とされています。日本糖尿病学会の基準では空腹時血糖126mg/dl以上、食後血糖値が200mg/dlを越せば糖尿病と診断されます。その間、空腹時血糖110~126mg/dl、食後血糖140~200mg/dlの場合は「境界型糖尿病」として扱われます。俗に言う「糖尿病予備軍」のことで、放置しておくと糖尿病移行することが多い方々です。血糖値が高いといわれると「今、ご飯食べたばかりだから。」といわれる方も多いのですが、正常であれば140mg/dlを超えることはありません。どんなに甘いものを食べていたとしても、140mg/dlを超えていれば糖尿病予備軍であり、200mg/dlを超えていれば糖尿病です。

    上述のように血糖値は食事によって変動します。しかし、平均的に血糖値が上がっているのか、正常範囲なのかも重要な情報です。ここで、HbA1cというものを測定します。HbA1cは、測定時からさかのぼること一ヶ月間の平均血糖を反映します。平均血糖が高ければHbA1cは高値になり、平均血糖が低くなればHbA1cも下がります。たとえば、日ごろは甘いものをよく食べていて、受診日だけ粗食にして来院される場合があります。このような時には、血糖値が低くてもHbA1cが高くなります。HbA1cの正常値は5.8%未満です。HbA1c 6.5%以上であれば、糖尿病と診断されます。ただし、HbA1cが6.5%未満でも糖尿病は否定できません。

    空腹時血糖やHbA1cが正常値に近くても糖尿病の場合があります。食事をした後にだけ血糖値が上昇するような場合です。このような場合には、十分な量の糖分を摂取後、血糖値の一番高い時に測定する必要があります。これを「糖負荷試験」といいます。一般に行われている方法では、75gのブドウ糖の入ったジュースを飲んだ後、30分後、60分後、90分後、120分後に血糖値をチェックして行います。正常型では120分後の血糖値は140mg/dlを肥えません。120分後血糖値が200mg/dlを越していれば糖尿病と診断します。140~200mg/dlでは境界型と診断します。ただし正常型であっても1時間後の血糖値が180mg/dlを超えていれば、糖尿病に移行する可能性が高いため、境界型として扱います。

    膵臓からインスリンがちゃんと出ているか、逆にインスリンが効きにくい体になっていないかをチェックするためにインスリン値も測定します。全身状態の把握のために腎機能、肝機能などの血液検査や心電図、レントゲンなども行います。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/6

    月報 「聴診器」 2008/6/1

     

    歩いて通勤をしていると、よくヘビを見かけるようになりました。途中の池ではカタツムリが大発生していました。子供たちの足はますます臭くなってきました。梅雨の始まりですね。

     

    9 糖尿病③ 糖尿病のタイプ

    血糖値が高くなる病気が糖尿病です。血糖値が高くなる原因はいろいろあり、原因によって糖尿病のタイプも分かれます。

    1. I型糖尿病。以前はIDDM(Insulin Dependent Diabetes Mellitus)と呼ばれていました。日本語では「インスリン依存性糖尿病」との意味です。これは、膵臓からインスリンが出なくなる病気です。膵臓にはランゲルハンス島とういう組織があり、そこにはβ細胞というものがあります。このβ細胞からインスリンは出ていますが、I型糖尿病ではβ細胞が障害を受け、インスリンが出なくなってしまっています。このため、糖を臓器に取り込むことが出来ずに、血糖値が上昇します。治療にはインスリンが不可欠なので「インスリン依存性」と呼ばれていました。β細胞が障害を受ける原因は長い間不明でしたが、最近は自己免疫によるものと考えられています。β細胞を攻撃するような抗体を自分の体がつくり出してしまう病態です。I型糖尿病は、若年者に多く、ある日突然発症します。発症原因として、食生活や生活習慣の影響は全くありません。多い疾患ではありませんが、生活習慣が原因となるII型糖尿病とは病因全く異なることは、もっと知られるべきだと思います。
    2. II型糖尿。以前はNIDDM(Non Insulin Dependent Diabetes Mellitus)と呼ばれていました。日本語では「非インスリン依存性糖尿病」との意味です。I型糖尿病がインスリンの絶対的不足によって引き起こされるのに対して、II型糖尿病はインスリンの相対的不足によって引き起こされます。カロリーが体内に取り込まれ血糖値が上昇し始めると、インスリンが分泌されて血糖値が正常化します。しかし、正常の膵臓でもインスリンの分泌能には限界があるので、過食などにより多すぎるカロリーが体内に入り、インスリンの処理能力を上回ってしまうと、血糖値が異常に上昇します。血糖値の上昇が続けば、高血糖によりインスリンの効きが弱くなったり、インスリンの分泌が低下したりします。このため、更に血糖値は上がり病態を悪化させていきます。病因としては、遺伝的背景の影響もありますが、主たるものは過食や運動不足による生活習慣の悪化です
    3. 続発性糖尿病。ほかの病気や、薬によって引き起こされる糖尿病です。クッシング病などの病気では血糖値を上げるホルモンが多量に分泌されるために糖尿病を発症します。重症膵炎では膵臓からインスリンが分泌されなくなり血糖値が上がります。ステロイドホルモンを多量に長期間摂取すると糖尿病を発症しやすくなります。 上野循環器科・内科医院  上野一弘
  • 月報 「聴診器」 2008/5

    月報 「聴診器」 2008/5/1

     

    急に暑くなってきましたね。天気がいいことはうれしいのですが、確か去年は黄砂がひどく、のどを痛めた方が多かったように思います。今年は、まだ光化学スモッグは確認されていないようですが、警戒をしなければなりませんね。

     

    9 糖尿病② 糖の代謝

    前回から、糖尿病の話を始めています。糖尿とは血液中の糖が多くなりすぎる病気です。血液中の糖分が多すぎると、動脈硬化が進行したり、免疫が弱ったりするので、さまざまな合併症に苦しむことになります。しかし、本来糖分は体にとって必要なものです。臓器が活動するためにはエネルギーを消費しますが、このエネルギーの供給源の大部分は糖分が占めています。特に脳は、糖分のみをエネルギー源としています。多すぎる糖分は問題ですが、糖分自体は生存に不可欠な栄養素です。

    糖は炭水化物の一種で、炭素と酸素、水素によって構成されています。「糖」にはさまざまな種類があります。糖を構成している炭素の数で「5炭糖」「6炭糖」と分けたり、結合している分子の数によって単糖や多糖とわけたりします。さらに、それぞれに分子的特徴の差によって多くの名前がつけられています。グルコース、フルクトース、ガラクースなどが有名ですね。このうち、エネルギー源として重要なのはグルコース(ブドウ糖)です。一般に生体で「糖」という言葉を使う場合は、グルコース(ブドウ糖)のことをさすと思ってください。

    糖は口から食物の形で摂取されます。代表的なものは、でんぷんとショ糖です。でんぷんは、ブドウ糖が3000個ぐらいつながっている多糖類です。ショ糖は、グルコースとフルクトースがつながっている2糖類です。食物は消化管内で細かい分子に分解され、グルコースの形で小腸から吸収されます。吸収された糖は門脈という特別な血管を通って肝臓に運ばれます。ここで、糖の一部はグリコーゲンの形で肝臓に蓄えられます。一部の糖はそのまま、血中に移行します。血管を流れて臓器に運ばれますが、そのままでは糖は臓器内に入って行きません。臓器は細胞の集まりでできていますが、細胞には細胞膜があるため、自然に糖がしみこんではいかないのです。細胞膜に多種の穴が開いています。その中には、糖を通す穴もありますが、この穴は普段は閉じています。ここに、インスリンというホルモンがやってくると、穴が開いて糖が細胞に取り込まれるのです。細胞に取り込まれた糖はさらに分解され、水と二酸化炭素になりますが、その過程で多量のエネルギーを放出し、細胞の活動を支えるのです。

    インスリンは膵臓という肝臓と胃のそばにある臓器から放出されます。インスリンは常時微量に放出されていますが、食後、門脈の糖分が多くなると、多量に放出されます。インスリンは、細胞に糖分を取り込ませて、血糖値を下げる働きがあります。インスリンは、糖の代謝に重要な働きをしますので、糖尿病の病態に密接に関わってくるホルモンです。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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