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聴診器

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  • 月報 「聴診器」 2007/6

    月報 「聴診器」 2007/6/1

     

    先日、沖ノ島参拝に随行医師として行ってきました。沖ノ島は島そのものがご神体で、女人禁制の島として知られています。一般人も通常は立ち入り禁止ですが、毎年5月27日だけ参拝が許されています。島は古木にあふれ、儀式は簡素ながらも荘厳なものでした。

     

    8 高血圧⑤ 高血圧と脳

    今回は、高血圧と脳疾患について説明します。脳疾患の中でも、脳卒中つまり脳血管障害は血圧と密接な関係があります。脳卒中の一番の原因は高血圧なのです。以前、脳卒中は日本人の死因の一位でした。癌や心筋梗塞よりもはるかに大きな問題だったんですね。これは、東アジアに特有の現象で、欧米とは大きく異なる点でした。この原因が、高血圧にあると考えられ、国を挙げて高血圧の治療を行いました。その結果、脳卒中は激減しましたが、依然その発症率は高く、高血圧の主要な合併症として警戒が必要です。

    脳卒中は、「脳血管傷害」といいます。脳の血管になんらかの傷害が起こり、脳自体に害が及ぶ状態です。具体的には、血管が破けることによる「脳出血」と血管が詰まることによる「脳梗塞」があります。

    脳出血では、血管が破けもれ出た血液が、血腫という血の塊を作ります。脳は、頭蓋骨に囲まれた狭い場所にあるため、頭蓋骨の中に血腫ができればその圧力はどこにも逃げ場はなく、やわらかい脳を押しつぶします。脳のダメージが限局的であれば、麻痺やめまいが出現します。しかし、出血が多くダメージが、脳全体や生命維持を担当する部位に及ぶと死亡します。正常な血管は300mHg程度までの血圧に耐えられるといわれていますが、長年、高血圧にさらされた血管は動脈硬化が進みもろくなってきます。血圧が140mmmHg以上であれば脳出血を起こす可能性が高くなってきます。血圧を120mmHg以下にコントロールできれば、脳出血の可能性はかなり低くなります。なお、くも膜下出血は、血圧が低くても起こることがあり、血縁者にクモ膜下出血の方がいれば、脳ドックでの動脈瘤のチェックをお勧めします。

    脳梗塞は血管がつまり、脳が血液不足になるために起こる病気です。脳の血管の一部が詰まると、それから先には血液が届かなくなります。血液が届かなくなれば、その脳細胞は死んでしまいます。死んだ脳細胞が右手を動かす細胞であれば右手が動かなくなり、口を動かす細胞が死んでしまえばうまくしゃべれなくなります。生命維持部位に脳梗塞が起こったり、脳の腫れがひどい場合には死亡することもありますが、脳出血と比べると死亡率は低いようです。血管が詰まる原因には、動脈硬化による場合と心臓から血液の塊が飛んでくる場合があります。血圧が高くなれば、動脈硬化が進み詰まりやすくなります。また、高血圧によって心臓の負担が増えれば不整脈が出現し血栓を作りやすくなります。どちらのタイプの脳梗塞も、予防には血圧のコントロールが大事になります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/5

    月報 「聴診器」 2007/5/1

     

    皆さん、連休はどのように過ごしましたか。僕は子供たちをつれて城山に登りました。沢山の巨木を見ながらの散策でとても楽しく登ることが出来ました。山道もきれいに整備されていて、その心遣いに感銘を受けました。

     

    8 高血圧④ 高血圧と腎臓

    前回は、高血圧による心臓の障害を説明しました。しかし、高血圧は心臓だけに障害を与えるわけではありません。心臓と同じぐらい高血圧と関係がある臓器が腎臓です。腎臓病は高血圧によって引き起こされることがありますし、逆に腎臓病によって血圧が上がる場合もあります。

    腎臓は背骨の両脇にある、こぶし程度の大きさをした臓器です。血液の老廃物を尿として排出している臓器です。しかし、単なる濾過装置でなく、血中のイオンバランスを調節したり、血圧をコントロールする大切な働きもしています。腎臓には動脈から血液が流れ込み、いくつにも枝分かれし、最終的には糸球体という、血管が毛玉のように固まった構造物に行き着きます。糸球体は大変小さなもので、ひとつが0.2mm程度しか有りません。ひとつの腎臓にはこれが100万個ほど詰まっています。血液がこの糸球体に入ると、老廃物や不必要な水分などが血管の外に押し出され、原尿となります。原尿は大変薄いもので1日100リットルも作られます。その後、原尿は尿細管という細い管を通り濃縮され、いわゆる尿と成ります。糸球体での濾過、尿細管での尿濃縮が腎臓が尿を作るための大切な機序なのです。血圧が高くなれば、糸球体に高い圧力がかかります。高い圧力がかかれば、糸球体はつぶれてだめになってしまいます。一度つぶれた、糸球体は二度と元に戻りません。それだけでなく、糸球体の数が減ってくると、腎臓は血圧を上げるホルモンを放出します。このため、高血圧による腎不全が始まると、益々血圧が上昇し、上昇した血圧が更に腎臓を傷害する悪循環に陥ります。最終的には、腎臓が全く働くなり尿毒症をおこしたり、全身や肺がむくんで死亡します。現代では、この段階で人工透析が開始されます。

    この悪循環を断ち切るためには、血圧を下げることが一番になります。血圧を下げることで、糸球体にかかる負担を減らしてあげるのです。このとき、糸球体内の圧力をより下げることの出来る薬を使用したほうが、腎臓を守る作用が強くなります。腎臓障害は初期には大変わかりにくく、採血検査ではかなり進まないと異常値が出ません。ただし、初期でも尿に蛋白がでるようになりますので、検尿の結果は大変参考になります。

    もちろん、高血圧以外の原因でも腎臓は悪くなります、糖尿病性腎症、多嚢胞性腎臓、腎血管狭窄症、急性腎炎、慢性腎炎などの病気になれば腎臓が障害を受け、血圧も上昇していきます。このような場合でも、血圧をコントロールすることで腎臓障害の進行を遅らせると考えられています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/4

    月報 「聴診器」 2007/4/1

     

    今年は、思わぬ時期にインフルエンザが流行して大変でしたね。だいぶん下火になってきましたが、まだまだ完全には沈静化していないようです。十分に気をつけてください。

     

    8 高血圧③ 高血圧と心臓

    血圧が高い状態が続くと様々な臓器が障害を受けます。脳、血管、心臓、目、腎臓などがダメになってしまいます。まず、心臓について考えてみましょう。心臓は体中に血液を送っている大切な臓器です。心臓は筋肉で出来た袋になっていますが、心臓自ら収縮して血管に血液を送っています。このとき、心臓は血管の抵抗に対抗する形で血液を押し出しています。高血圧の人では血管の圧力が高いため、心臓は強い力で血液を押さなくてはなりません。また、循環血漿量が増えていますので、一回に沢山の量の血液を送り出さなければなりません。このため、高血圧症の初期では、少し心臓が大きくなってきます。普通、心臓の内径は男性で45-50mmぐらい、女性で40-45mmぐらいです。それが、5-10mmほど大きくなります。強い力で押し続けているため、心臓の筋肉が痛んできます。心臓の筋肉が痛んでくると、まず心臓が硬くなってきます。心臓は血液を送り出している臓器ですが、全身からの血液が流れ込む臓器でもあります。心臓が硬くなれば、血液が帰ってきにくくなり、少しの負担で体がむくんだり、息切れがしたりするようになります。更に高い血圧が続けば心臓の筋肉が厚くなってきます。正常では心臓の筋肉は8-10mm程度の厚さですが、15-25mm程度になってしまいます。心臓の筋肉が厚くなると、更に心臓が硬くなります。また、心臓の中での電気の流れがおかしくなり不整脈がおきやすくなったりします。その後、心臓の収縮が徐々に衰えてきます。心臓の収縮が衰えてくると、心臓は更に拡張してきます。さらに、全身に必要とされる血液が送れなくなってしまい、慢性心不全となります。慢性心不全になると、歩いたり階段を登ったりすると息苦しくなるため、ゆっくりしか動けなってしまいます。また、肺がむくみやすくなるため、夜中に胸が圧迫されるようになったりもします。ここまでくると、予後は非常に悪く、5年後の生存率は、肺癌よりも悪いといわれます。

    また、心臓の栄養血管である冠動脈も血圧の影響でボロボロになっていきます。高血圧では動脈硬化が進行するため、冠動脈のあちこちが細くなってしまいます。冠動脈が非常に細くなれば、労作時に十分な血液を送ることが出来なくなり狭心症を起します。血管が詰まってしまえば、心臓の筋肉に血液が流れなくなり心筋梗塞を起します。心筋梗塞が起これば、さらに心機能が悪化し、予後が悪くなってしまいます。

    高血圧による心臓の障害は一方通行です。いったん悪くなった心臓はなかなか元に戻りません。しかし、心臓の障害はかなりすすまないと自覚症状が出現しないため、どうしても遅れがちになってしまいます。このため、定期的に心エコーや心臓のホルモン(BNP)を測定する必要があります。

     

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/3

    月報 「聴診器」 2007/3/1

     

    花粉症の季節になりましたね。今年は花粉の飛散量は少ないといわれていましたが、症状の激しい方が多いようです。症状軽減のための基本は、花粉を身につけないようにすることです。たとえば、服装は毛の立ったものは避けて、表面が滑らかなものの方が良いでしょう。帽子をかぶって外出するのも効果があるようです。うがい、手洗い、洗顔はインフルエンザの予防もかねてお勧めです。

     

    8 高血圧②

    前回から高血圧の話を始めていますが、ところで血圧って何でしょう?血圧は一般に動脈の圧力をさしています。血液が動脈壁を押している圧力のことです。動脈を切った場合、血が激しく噴出します。黒澤明の映画で、決闘で血が高く噴出すシーンがありますが、あれを想像してください。この血液が噴出す高さは血圧に比例します。血圧が高ければ、血液はより高く噴出します。血圧が高い場合には、高い圧力で動脈の血管が押されているわけです。

    血圧は、心臓から送られる血液の量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)で決まります。電圧と抵抗と電流の関係(オームの法則)とおなじですね。心臓の動きが正常の場合、心拍出量は全身の血液量で決まります。たとえば、多量に出血をして、血液量が減ると急激に血圧が下がります。逆に過剰に塩分を投与すると、血液量が増え血圧が上がります。血管抵抗は抹消の血管抵抗がそのほとんどを占めます。たとえば、敗血症という病気では末梢血管が細菌の毒で開いてしまい、末梢血管抵抗が低くなり、血圧が下がってしまいます(いわゆる敗血症ショックです)。

    塩分の過剰摂取によって血圧が高くなれば、動脈硬化が進み、血管抵抗が高くなってきます。すると、さらに血圧が上がっていく悪循環に陥ってきます。血圧が高い状態が続くと、血管に細かい傷がついてきます。この細かい傷に反応して、動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりします。これが動脈硬化です。動脈硬化が進んだ血管では、血管が狭くなり、血流不足が起こります。これが心臓の結果に起これば狭心症になります。動脈硬化を起した血管の内面は血液が引っかかりやすくなり、詰まることもあります。これが、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。また、動脈硬化が進んだ血管では血管が膨れたり、破れやすくなったりもします。脳出血や動脈瘤の原因になるわけです。

    血圧の影響は、血管だけに出るものではありません。高い血圧が続けば心臓に負担がかかり、心不全を起します。腎臓でも、機能が低下し透析が必要になることもあります。網膜がだめになって、失明することもあります。ただし、これらの合併症はかなり進行してからしか症状がでません。症状の無いうちに、予兆を見つけ、的確な降圧をすることが大切です。

     

     

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/2

    月報 「聴診器」 2007/2/1

     

    「あるある大辞典」が話題になっていますね。今回は捏造が発覚したとのことで槍玉にあがっているようです。それでも、類似の番組は大人気のようで、なんだか不思議に思います。こうした、健康番組は話半分に聞いておくのがいいのではないかと思います。万病を防ぐすばらしい食品というものは存在しませんが、食品はそれぞれ体に必要なものを含んでいます。バランスよく、適量を食べていただくのが一番だと思います。

     

    8 高血圧①

    さて、今回からは高血圧です。当院でも多くの方が高血圧で通院されています。日本全国では3500万人の高血圧患者さんがいるといわれています。実に、国民の4人に1人が高血圧症と考えられています。なぜ、高血圧患者さんはこんなに多いのでしょう?それは塩分のためと考えられています。

    生命は今から約35億年前に海で誕生したといわれています。海には塩分が豊富にあり、生物はこの塩分を使って生命を維持し活動してきました。それは、単細胞生物から、魚のような複雑な生物になっても続いていました。この時代の生物は、海水から塩分を十分に摂取でき、そのまま排泄していました。ところが、生物が陸上に上がってくると事情が少し違ってきます。陸上には酸素は十分にありましたが、塩分はほとんどなかったのです。そこで、生物は塩分を大切に使う仕組みを発達させたと考えられています。本来腎臓から出て行く塩分を途中で再吸収する仕組みです。少量の塩分摂取で生きられるようになった陸上生物は、その後大繁殖をします。

    しかし、我々人類が誕生し文明を生み出すと事情が異なってきました。確かに、塩分は生物にとって大切なものです。いくら再吸収する仕組みが合っても、塩分が全く手に入らなければ生物は死んでしまいます。生物は必要なものをおいしく感じるようにできています。当然、塩分は大変おいしく感じます。お肉でも、野菜でも、穀類でも塩をかけるととてもおいしくなります。おいしいものは沢山欲しくなります。文明は欲しいものを大量に作ることが出来ます。人類は多量の塩分を手に入れることができましたが、体の仕組みは動物と同じようなものです。つまり、少量の塩分摂取を前提した体であるのに、多量の塩分を摂取することとなってしまいました。過剰な塩分は、循環血漿量の増加となり、血圧の上昇をもたらしてしまいました。逆にニューギニアの奥地などで文明の恩恵を受けていない集団では、塩分摂取量が極端に低く、高血圧症もほとんどいないといわれています。

    文明が発達した現代では、いまさら塩分の少ない生活には戻れません。しかし、世界的にみて日本の塩分摂取量は高くなっています。ヨーロッパでは1日6-7g、アメリカでは8-10gの塩分摂取量ですが、日本では平均で12gも摂取しています。厚生省は1日の塩分摂取量を10g以下にするように奨励していますが、なかなか進んでいません。

     

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/1

    月報 「聴診器」 2007/1/1

     

    新年明けましておめでとうございます。昨年はどんな年でしたか。今年は、健康で明るい年にしたいですね。

     

    7 先天性心疾患⑤

    前回までは、先天性心疾患の代表的なものを数種説明してきましたが、先天性心疾患はほかにも多くの種類があります。ただし、ひとつずつは非常にまれでもあります。今回は残りの疾患をできるだけ説明します。

    完全心内膜欠損症:心房と心室に大きな穴が開いている病気です。右心房右心室から左心房左心室へ大量の血液が流れてしまいます。

    総肺静脈還流異常症:左心房につながるべき肺静脈が、上大静脈などにつながってしまう疾患。

    三尖弁閉鎖:右心房と右心室の間に三尖弁という弁があります。この弁が、生まれつき閉じている病気です。右心房から右心室に血液が流れませんのでこのままでは生存は不可能です。多くは、心房中隔欠損症と心室中隔欠損症を合併しており、この穴を通じて血液がなんとか流れている状態になります。

    エブスタイン奇形:三尖弁の一部が右心室に偏っている病気です。三尖弁がずれているため、大きな逆流があります。また、右心房が非常に大きくなるため、特徴的なレントゲン写真になります。心房頻拍症やWPW症候群などの不整脈を合併することでも知られています。

    ファローの四徴:大動脈騎乗(大動脈が右心室と左心室にまたがっている状態)、心室中隔欠損症、肺動脈もしくは右室流出路狭窄、右室肥大の四つの奇形が合併する疾患です。幼少時から強いチアノーゼが出てきます。また、心房中隔欠損症を合併したものはファローの五徴と呼ばれます。

    両大血管右室起始:大動脈と肺動脈が右心室から出る疾患。チアノーゼ、右室不全を呈します。

    大血管転位:大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から出ている病気です。生後数日は動脈管を介して血液が流れますが、動脈管が閉じてしまうと急速に悪化します。早めの手術が必要とされます。

    単心室症:大きな心室がひとつしかない病気です。静脈血も動脈血もこの心室に注ぎ込まれます。大動脈も肺動脈もこの心室から出ていきます。

    右胸心:心臓の位置が左右逆になっている状態です。内臓も左右逆になっている場合もあります。気道粘膜の異常を合併する場合もありますが、全く不都合なく生活できる場合もあります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/12

    月報 「聴診器」 2006/12/1

     

    比較的暖かい日が続いていますが、徐々に寒くなってきていますね。冬は確実に近づいているようです。冬は、血圧が高くなったり、糖尿病が悪化したり、心不全や喘息が出てくる時期でもあります。気をつけてください。

     

    7 先天性心疾患④ 動脈管開存症

    胎児の循環は、成人とは大きく異なっています。これは、胎児が母親の胎盤から酸素と栄養をもらっているためです。胎児の循環は大まかには胎盤>>臍帯(臍静脈)>>静脈>>右心房>>卵円孔>>左心房>>左心室>>大動脈>>全身となっています。しかし、右心房に入った血液の一部は右心室から肺動脈に流れます。その後さらに二つに分かれ、大部分は動脈管を通って大動脈に合流し、残りは肺に流れ、左心房に還ってきます。動脈管は生後数時間で閉じます。長くても2週間くらいで閉じます。動脈管は血液の酸素が多くなると血管の筋肉が縮んで、内腔が閉じるためです。成人では動脈管は動脈管索として名残をとどめています。

    まれに、この動脈管が開いたままになっていることがあります。これが、動脈管開存症です。胎児の時には、肺動脈から大動脈に血液が流れますが、誕生後は大動脈のほうが肺動脈より圧力が高いため、動脈管が開いていると、血液が大動脈から肺動脈に流れます。このため、大きな動脈管開存があると肺の血流が異常に増えて、肺うっ血を起します。また、感染症に弱く、感染性心内膜炎になりやすくなります。

    開存が小さい場合には、自然に閉じたり、経過観察でもよい場合があります。しかし、開存が大きく、心不全などを起す場合は外科的治療を行います。手術は、動脈管を外から糸で縛る方法が一般的です。最近はカテーテルでコイルを入れて、動脈管を詰まらせる方法も選択できます。

    動脈管開存症自体は比較的予後のよい疾患です。しかし、ほかの様々な先天性心疾患と合併することもあります。他の、先天性心疾患の欠点を動脈管開存が補っている場合もあります。このような場合は、逆に動脈管を閉じないような処置がとられることもあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/11

    月報 「聴診器」 2006/11/1

     

    11月から診療時間が少し変わります。木曜日は11時まででしたが、少し余裕が出てきたので12時半まで行います。また、駐車場の拡張工事も終わりましたので、どうぞご利用ください。

     

    7 先天性心疾患③ 心室中隔欠損症

    前回は心房中隔欠損症について説明しました。右心房と左心房のあいだの壁に穴が開いている病気です。心室中隔欠損症では右心室と左心室の間の壁に穴が開いている病気です。

    正常では、酸素の少ない静脈血は右心房に還り右心室に入ります。隣の左心室には肺で酸素をもらった動脈血が満ちています。極端に言えば、上水道と下水道のようなものです。この二種類の血液が混じらないように、右心室と左心室の間に壁があります。この壁が「心室中隔」です。胎児の心臓には最初この心室中隔はありません。胎児期のおわりごろに徐々に壁ができてきます。ところがこの壁が不十分なまま生まれてくる場合があります。これが「心室中隔欠損症」です。心室中隔欠損症では右心室と左心室の間の壁に穴が開いていますので、両方の血液が混じってしまいます。普通は左心室のほうの圧力が高いので、左心室から右心室に血液が流れます。右心室には全身から還ってきた静脈血と左心室からの動脈血が流入します。右心房の入る血液量が正常より増えるわけです。増えた血液は右心室から肺へ流れ左心房に還ってきます。左心房に還ってきた血液の一部は再び右心室に流れ、残りの血液は大動脈に出て行きます。このため、肺の血流量は増大し血管がいたんだり、肺の血圧が高くなったりしてしまいます。また、体をめぐる血液量はやや減少するため、心不全を起こしたりします。ただし、心室中隔欠損症があれば必ず、心不全や肺高血圧を来たすわけではありません。穴が小さい場合は、少量の血液しか左心室から右心室に流れませんので、肺や全身への負担は小さくなります。自然に閉じて、治癒してしまうこともあります。一般的には肺血流量が2倍以上あれば積極的な治療を勧めます。

    新生児や幼児で、心雑音がしたり心電図や胸部レントゲン写真で異常があったりすれば、先天性心疾患を疑います。心エコーを行い、心室中隔に穴を認めたり、血流検査で左心室から右心室への血流が確認されれば心室中隔欠損症の診断がつきます。その後、カテーテル検査などを行い、心臓の状態を正確に調べます。治療は、手術をして心室中隔の穴を閉じるのが一般的で確立された手技です。最近ではカテーテルを使って、より簡単な方法での治療も開発されつつあります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/10

    月報 「聴診器」 2006/10/1

     

    日中はまだまだ暑い日がありますが、朝晩はかなり寒くなりましたね。寒暖の差が激しく風邪がはやってくるころです。夜は少し厚着をしてすごしてください。

     

    7 先天性心疾患② 心房中隔欠損症

    前回は成人と胎児の血液循環について説明しました。今回からは、具体的な先天性心疾患について説明していきます。先天性心疾患は沢山の種類がありますが、比較的よく見るものもあれば、非常に珍しい世界でも数例というものもあります。心房中隔欠損症は、比較的よくある先天性心疾患のひとつです。

    正常では、酸素の少ない静脈血は右心房に還り、隣の左心房には肺で酸素をもらった動脈血が満ちています。極端に言えば、上水道と下水道のようなものです。この二種類の血液が混じらないように、右心房と左心房の間に壁があります。この壁が「心房中隔」です。胎児の心臓には最初この心房中隔はありません。胎児期のおわりごろに徐々に壁ができてきます。ところがこの壁が不十分なまま生まれてくる場合があります。これが「心房中隔欠損症」です。心房中隔欠損症では右心房と左心房の間に穴が開いていますので、両方の血液が混じってしまいます。普通は左心房のほうの圧力が高いので、左心房から右心房に血液が流れます。右心房には全身から還ってきた静脈血と左心房からの動脈血が流入します。右心房の入る血液量が正常より増えるわけです。増えた血液は右心室から肺へ流れ左心房に還ってきます。左心房に還ってきた血液の一部は再び右心房に流れ、後の血液は左心室から大動脈に出て行きます。このため、肺の血流量は増大し血管がいたんだり、肺の血圧が高くなったりしてしまいます。また、体をめぐる血液量はやや減少するため、心不全を起こしたりします。ただし、心房中隔欠損症があれば必ず、心不全や肺高血圧を来たすわけではありません。穴が小さい場合は、少量の血液しか左心房から右心房に流れませんので、肺や全身への負担は小さくなります。自然に閉じて、治癒してしまうこともあります。一般的には肺血流量が2倍以上あれば積極的な治療を勧めます。

    新生児や幼児で、心雑音がしたり心電図や胸部レントゲン写真で異常があったりすれば、先天性心疾患を疑います。心エコーを行い、心房中隔に穴を認めたり、血流検査で左心房から右心房への血流が確認されれば心房中隔欠損症の診断がつきます。その後、カテーテル検査などを行い、心臓の状態を正確に調べます。治療は、手術をして心房中隔の穴を閉じるのが一般的で確立された手技です。最近ではカテーテルを使って、より簡単な方法での治療も開発されています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/9

    月報 「聴診器」 2006/9/1

    暑かった夏もそろそろ終わりそうですね。朝晩はだいぶ涼しくなったような気がします。気がするだけかもしれませんけど。この時期、クーラーをつけっぱなしにして寝ていると、思わず風邪をひいてしまうことがあります。ご注意ください。

     

    7 先天性心疾患①、正常の血液循環

     

    今回からは、先天性心疾患について書いてみます。先天性心疾患は、生まれたときから心臓の構造に欠陥がある病気です。心臓には四つの部屋がありそれぞれ右心房、右心室、左心房、左心室と呼ばれています。血液は体に酸素を送り届けたあと、二酸化炭素を回収して、静脈血となり右心房に戻ってきます。右心房から三尖弁を通って右心室に流れ、右心室から肺動脈を通って肺に行きます。肺で、二酸化炭素と酸素を交換し動脈血となったあと肺静脈から左心房に還ってきます。その後僧帽弁を通って左心室に運ばれ、大動脈から全身に血液が送られます。ここで大事なのは、右心房、右心室、肺動脈と言った「右心系」と、肺静脈、左心房、左心室、大動脈と言った「左心系」はそれぞれ独立していることです。右心系と左心系は同じ心臓でも、役割や血液の正常が大きく異なります。右心系では血液は二酸化炭素が多く、酸素が少ない、比較的暗い色をした静脈血が流れています。また、右心系の圧力は15-30mHg程度までしかありません。これに対して、左心系では、酸素が豊富で二酸化炭素が少ない、真っ赤な動脈血が流れており、圧力も100-150mmHgぐらいあります。この、二つの血液の流れが混じらないように、心房と心室には左右を区切る壁があり、大動脈と肺動脈もくっつかないようになっています。

    ただし、これは成人の話です。発生の段階からいきなり、ちゃんとした構造が出来上がるわけではなく、生まれてくる直前まで、胎児の心臓は大人とは異なっています。おなかの中で赤ちゃんの心臓は血管からできてきます。血管の一部が膨らんで、部屋を作ります。そのうち、左右の心房心室を分ける壁ができてきます。生まれる直前には心臓はほぼ成人と同じような形なりますが、肺動脈と大動脈はつながっています。誕生前には、胎児は空気のない環境で暮らしています。そこで、必要な酸素は肺からではなく、胎盤から臍帯をとおして取り込んでいます。この臍帯血が胎児のおへそから入ってきて、静脈に合流します。ここで、酸素濃度が上昇した血液は右心房から右心室を経て肺動脈にいきます。胎児では、肺動脈と大動脈の間をつなぐ「動脈管」という血管がありますが、肺動脈に行った血液の大部分は動脈管から大動脈に流れ、全身に運ばれます。誕生後に産声を赤ちゃんが上げると、肺が広がります。このときに、動脈管も閉じて肺動脈と大動脈は分離されます。右心系と左心系がそれぞれ独立し、成人と同じ血液循環になるのです。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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