月報 「聴診器」 2006/7/1
暑くなったのに、風邪がはやっていますね。天候のせいでしょうか。
6 心不全④不全の治療:先端医療など
前回まで心不全治療についてのお話をしてきましたが、先端治療にも触れたほうがいいでしょう。ACE阻害剤やベーターブロッカーの導入で心不全の治療は劇的に改善しました。しかし、どんなに薬をつかってもニッチもサッチもいかない症例もあります。こんなときに先端治療を考慮します。
両心室ペーシング:心臓が弱ってくると、心臓内での電気の流れが悪くなります。このため、心臓病が進むと心臓の収縮にばらつきが出てきます。収縮にばらつきが出ると、心筋のパワーを効率よく心拍出量にすることができなくなります。両心室ペーシングは右心室と左心室に電線を入れることで、収縮のばらつきをなくす方法です。特殊な治療なので限られた施設でしか実施されていません。ちなみに、熊本県で最初にこの手術をしたのは僕でした。
バチスタ手術:最近は、ドラマや小説で触れられているのでご存知のかたも多いかもしれません。ブラジルのバチスタ先生が始めた治療法で「左室縮小形成術」とも呼ばれます。心臓の筋肉が弱り、心臓が異常に大きくなってしまうと、大きいためにさらに機能が低下する悪循環が起こってきます。バチスタ手術は大きくなりすぎた心臓の一部を切り取り小さくする手術です。効果については賛否両論分かれています。すべての症例に効果があるわけではありませんが、劇的改善する症例があることも事実です。日本では葉山ハートセンターや京都大学が有名です。
VAS:植え込み型の補助ポンプを使用する方法です。いろんな機種がありますが、多くは左心室にパイプをつけて血液を抜き、ポンプで大動脈に戻す方法です。血液は全身>右心房>右心室>肺>左心房>左心室>補助ポンプ>大動脈と流れます。この方法はポンプに血栓がつきやすく、また感染症のコントロールも大変です。おもに心臓移植までの待ち時間を乗り切るために使用されています。
心移植:心臓そのものを取り替えてしまう方法です。生体間移植、異種間移植が不可能なので、日本ではまだまだ一般的にはなっていません。倫理的な問題、拒絶反応、感染の問題など、未解決な問題が多い方法ですが、根治的な方法でもあります。以前、友人が受け持っていた患者さんが心臓移植を受けましたが、劇的な改善にびっくりしました。九大でも昨年移植手術の第一例目が行われましたね。
もう少しつづきます。残りは来月に。
上野循環器科・内科医院 上野一弘