月報 「聴診器」 2007/10/1
空も高くなり、朝夕はずいぶん涼しくなってきました。過ごしやすくなってきましたが、その分、食べすぎで体重が増えたり、血糖値が上がったりする方が多いようです。気持ちは良くわかりますが、お互い気をつけましょう。
8 高血圧⑨ 高血圧の薬物治療 アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬
前回は降圧薬の大まかな分類とカルシウム拮抗薬について説明しました。今回はアンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬について説明します。ちょっと、名前が長いので、アンギオテンシン変換酵素阻害薬を「ACE阻害薬」、アンギオテンシン受容体拮抗薬を「ARB」と表記します。
血圧は様々なホルモンでコントロールされています。そのうち、代表的なもののひとつがレニン・アンギオテンシン系です。レニンは主に腎臓で作られるホルモンです。これが、アンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンIに変えます。次にアンギオテンシン変換酵素(ACE)がアンギオテンシンIをアンギオテンシンIIに変えます。アンギオテンシンIIは直接血管を収縮させて血圧を上げますが、腎臓の細胞に働きアルドステロンというホルモンを増やします。アルドステロンは、腎臓での塩分と水分の再吸収を増加させ血圧を上げます。また、アンギオテンシンIIとアルドステロンは直接心臓や腎臓に作用し、臓器を障害します。
ACE阻害薬はこのレニン・アンギオテンシン系を阻害する薬です。レニベースやタナトリルなどの商品名がこれにあたります。ACE阻害薬はアンギオテンシンIがアンギオテンシンIIになるのを抑え、血中のアンギオテンシンIIを減少させ血圧が下げます。また、アンギオテンシンIIやアルドステロンの臓器障害作用を邪魔することで、臓器を保護する作用も持っています。高血圧や弁膜症で心臓の機能が衰えると心不全を発症します。心不全は予後不良の疾患の一つですが、このACE阻害薬は心不全の人の寿命を延ばすことが知られています。また、腎臓内の血圧を下げる作用が強いため、腎不全の予後改善効果も期待されています。したがって、心機能が低下している症例や高血圧性腎臓病がある場合には積極的に投与を検討します。ただし、血中カリウムが上昇したり、咳が出るなどの副作用があります。特に咳は良く見る副作用で、この薬の最大の問題です。
ARBもやはりレニン・アンギオテンシン系を阻害する薬です。ブロプレス、ニューロタン、ミカルディスなどがこれにあたります。ARBはアンギオテンシンIIが作用するのをブロックする薬です。アンギオテンシンIIの濃度自体は変わりませんが、アンギオテンシンIIが血管や腎臓に作用するのを邪魔しますので血圧が下がります。ACE阻害薬と同様に、臓器保護作用がありますので心不全や腎不全の予後改善効果が期待できます。やはりカリウムが上昇するなどの副作用がありますが、咳の副作用はほとんどでないため、大変使いやすい薬となっています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘