月報 「聴診器」 2012/02/01
あっという間に二月ですね。年の初めは暖い日が続きましたが、1月下旬からは寒くなりましたね。地球温暖化が指摘されていますが、10万年単で見るとそろそろ氷河期に入る時期だそうです。本当でしょうか?
14 雑談 ③大規模臨床試験
医学は日々進歩し、世界中で新しい治療や研究がされています。「この病気に対して、こういった治療をすればきっとよくなる。」と治療法が提唱されます。では、新しい治療方法はすべて素晴らしいのでしょうか?これは、すぐにはわかりません。新しい治療が、従来の治療より悪いことも多々あります。新しい治療が実際に使用できるようになると、まず、少ない症例で試してみます。その結果、成功することが多ければ多くの症例で効果を確かめます。たとえば、心臓病の新しい治療法を考えたとします。様々な実験や会議を経て臨床への応用が許可されます。まずは、どうしてもこの新しい治療が必要な患者さんに協力してもらい、新しい治療を試してみます。効果があれば、心臓病の人を一万人ぐらい集め、患者さんを二つのグループに分けます。ひとつのグループでは従来の治療を行い、もう一つのグループでは新しい治療を行います。新しい治療をおこなったグループのほうが長生きをすれば、新しい治療がすぐれているとわかるわけです。これが大規模臨床試験の概要です。
説得力を持った結果をだすためにはいくつかの注意点があります。まず、試す治療法以外の条件をおなじにすることです。例えば、新しい治療を行うグループのほうが、年齢が低くければ、長生きするのは当然の結果となります。二つのグループの年齢は同じ程度にしなければなりません。そのほか、男女比、血圧、喫煙率、心機能なども同じ程度にしなければなりません。
人間には思い込みというものがあります。効くと信じて薬を飲めば、ただの小麦粉でも効果が感じられますし、悪くなると思って薬を飲むと無害なものでも体調を崩すことがあります。これはプラシボ効果といわれます。ある薬が本当に効くかどうかを確かめるためには、このプラシボ効果を考慮する必要があります。正確な研究では患者さんに本当の薬と、本物そっくりな偽薬を飲んでもらいます。患者さん本人は自分がどっちのグループに割り振られているか、飲んでいる薬が真薬か偽薬かわかりません。こうすれば、プラシボ効果は結果に影響しないと考えられています。また、思い込み効果は医者にもありますので、さらに精度を高めるためには、医者にも偽薬か真薬かわからないようにします。これを二重盲検化と呼んでいます。
結果を検討する際にも注意が要ります。何となく印象で決めてはいけません。これには統計学を使用します。平均値を求めて差を見るは当然ですが、結果のばらつき程度を考慮しなければなりません。二つのグループの差が、バラつきで想定できる範囲であれば意味がある差とは認められません。バラつきから想定される範囲以上の差をつけた結果が得られれば、優れている治療といえます。これは有意差と呼ばれています。
医療において、最初に統計学を使用して治療法を検討したのはあのナイチンゲールだったそうです。イギリスでは統計学の先駆者として有名だそうです。白衣の天使として看護師さんの開祖となっていますが、近代医学の創始者の一人でもあったわけですね。
上野循環器科・内科医院 上野一弘