月報 「聴診器」 2013/07/01
6月はさすがにじめじめした天気が続きましたね。毎年のことですが、この時期には熱中症が増えます。そんなに気温が高くなくても、体が準備できていないと脱水などになりやすいためです。また、湿度の高さも影響します。我々は汗をかいて、汗が蒸発するときの気化熱で体を冷やしています。湿度が高すぎると、汗が蒸発しにくく、熱が放散しにくくなります。人間は生きているだけで熱を作りだしていますので、熱を放散し続けなければなりません。このため、気温がそんなに高くなくとも、湿度の高いときには熱中症になりやすくなります。
16 不整脈2 ⑩心臓電気生理学的検査
前回はいろいろな心電図の話をしました。どれも基本的には体の外で記録するものです。しかし、心臓の電気活動を直接心臓で検査したほうがよく分かります。心臓を刺激する方法も含めて心臓電気生理学的検査と呼ばれます。足や手から電極の付いたカテーテルという細い棒を血管に入れます。血管に沿わせて心臓までカテーテルを進め、心房のいろいろな位置で電気を記録します。例えば心房にカテーテルを置くと大きな心房電位が記録できますし、心室におけば心室電位が記録できます。体表面心電図では記録できない微細な電位を記録することもできます。房室結節にカーテルを置くと、心房波と心室波の間にシャープな電位を記録できます。ヒス束電位と呼ばれ房室結節部の電位を表すと考えられています。また、障害心筋をゆっくり流れる異常電位もカーテルを使用すると直接記録することができます。
電位が時間的にも1000分の1秒単位で正確に記録されますので、電気がどのように流れているかを詳しく解析することができます。A B Cの電極で、電位がABCの順に記録されれば電気はABCの順に流れていると理解できます。電極が多いほうが電気の流れがよく分かりますので、一本のカテーテルに10以上の電極がついているものが使用されます。このカテーテルを2-4本ぐらい入れますので、合計40-60の電位を記録し解析を行うこととなります。例えば、心房粗動という不整脈では三尖弁の周りを反時計方向に電気が旋回しています。これは三尖弁輪部に沿って置いたカテーテルの電極で順番に電位が記録できます。モニターで見ると電位が斜めに移動する様子が観察できます。
心臓電気生理学的検査では記録だけでなく、心臓を直接刺激することができます。人工的に脈を速くしたり、不整脈を起こすことが可能です。このため、房室結節の伝導性をチェックしたり、不整脈の起きやすさを把握することができます。頻拍の誘発も行えます。頻拍中に刺激をすることで、回路の同定も可能です。刺激と頻拍電位との時間を測ると回路の出口を調べることも可能です。これらの手技を駆使し、頻拍回路の同定ができると、治療することができます。回路の必須部位に特殊なカテーテルで小さなやけどを作ると電気が流れなくなります。回路が遮断されますので頻拍の根治療法が可能になります。この治療法はカテーテルアブレーションと呼ばれています。
電気生理学的検査は有用な手技ですが、解析が困難です。透視で見た二次元の画像から頭の中で三次元の位置を構成し、そこに電位の情報を置いていくわけです。最近では磁石の力を利用してカテーテルの位置を把握して、コンピュータ内の三次元マッピングに電位情報を投射する方法も確立されています(CARTO system)。網目状のカテーテルを入れて、抵抗値などから三次元マッピングを構成する方法(Ensit system)もあります。
上野循環器科・内科医院 上野一弘