月報 「聴診器」 2014/01/01
新年あけましておめでとうございます。昨年は超音波検査器、呼気ガス測定器などの設備の充実を実現できました。スタッフのレベルアップも著しく、医療のレベルアップができた一年だったと思います。今年は十分な医療資源をもとに、より一層皆様のお役にたちたいと思います。
17 心エコー⑥ トラッキング技術
これまでは従来の心エコーについて説明してきました。今回はエコーの新しい技術のついての説明です。数年前からトラッキングという技術が開発され、心エコーの進歩をもたらしています。
最近のカメラでは当たり前のようにデジタル手振れ補正や顔認識機能がついています。これらはパターンマッチングという機能を応用したものです。超音波検査でもこの技術が応用され始めました。画像のパターンを認識し、ある特定の部位の心筋がどの方向にどれぐらい移動したかを追いかけることができるようになりました。これがトラッキング技術です
正常心筋は拡張と収縮を繰り返しています。直感的には心筋は中心方向に向かって収縮し移動しているように感じますが、実際には心尖部を頂点にねじるような動きをしており、長軸方向、回旋方向、単軸方向に移動しています。心筋トラッキングを利用すれば、それぞれの方向に対して心筋の移動割合やゆがみの程度を計測することができます。これは心筋ストレインレートと呼ばれます。どの方向のストレインが一番良いかが議論されていますが、最近は長軸方向のストレインが有用といわれているようです。
これまで、超音波で計測する心機能は容積の変化に注目した、いわば間接的なものでした。また、局所の動きは検査をする人の主観で決めていました。心筋ストレイン計測では心筋の収縮そのものを評価できることができます。また、局部の動きについても数値化できるメリットがあります。各部位のストレイン値を地図のように表示したり、全体の平均値を出すこともできます。また、各部位の心筋ストレインの詳細な検討も可能なのでわずかな収縮のずれなども計測することができます。
これらの技術は、心機能の把握だけでなく、今までエコーではわかりにくかった心疾患の検査にも有用と期待されています。例えば、心筋の動きにずれが生じると心機能が低下し心不全が悪化することが知られています。この治療のため両心室ペーシングという方法がありますが、どの症例に両心室ペーシングを行えばよいかがはっきり分かっていません。トラッキング技術を使用すれば、どのような症例に対して両心室ペーシングを行えば有効かがわかるのではないかと期待されています。狭心症では非発作時は、心電図でも心エコーでも異常を認めません。発作時や、遅くても発作直後1-2分程度でないと異常所見は認めません。近年、狭心症の発作後1日程度は心筋収縮にわずかな異常が続くことがわかってきました。通常の心電図や心エコーではこの微小な変化をとらえることは不可能ですが、ストレイン法では可能ではないかと期待されています。収縮の微妙な遅れや、拡張能の低下をとらえる試みがなされています。
当院ではストレイン解析機能を携えた機器を昨年導入しました。確かに狭心症症例で、ストレイン解析での異常を認める場合があります。先日、心臓病のカンファレンスで報告しましたが、ほかの医師も興味津々でたくさん質問をいただきました。ただし、ストレイン解析は機械だけではうまくいきません。確実な検査手技があって初めて有用な方法です。日々の鍛錬が大事ですね。
上野循環器科・内科医院 上野一弘