月報 「聴診器」 2015/10/01
今年の9月は大型連休でしたね。イベントがあった方も多かったのではないでしょうか。我が家は久しぶりに家族が集まれたので、たまっていた庭仕事をこなしました。おかげで、しばらく筋肉痛でした。
20 狭心症2 ④狭心症の治療 薬物
前回までは、狭心症の検査の話をしていました。さて、狭心症の診断がつけば治療が大事になります。治療は大きく、薬物治療、カテーテルでの治療、バイパス手術と分かれますが、薬物治療はすべての治療の基本であり、他のふたつの治療とも併用します。
薬物治療の目的は、狭心症症状の緩和と長期予後の改善があります。長期予後の改善のためには動脈硬化進行の抑制と血栓の防止が必要です。動脈硬化進展抑制のために最も大事なのがコレステロールのコントロールです。コレステロールにはHDL-コレステロールという動脈硬化を予防するコレステロールとLDLコレステロールという動脈硬化を進行させるコレステロールがあります。通常はLDLコレステロールの基準は140mg/dlですが、狭心症の患者さんでは100mg/dl以下が推奨されています。研究によっては70mg/dl以下がよいとの報告があり、70mg/dlを目標とすべきだと主張する医師も多いようです。LDLコレステロールを下げる薬は多々ありますが、これまでの研究ではスタチンと呼ばれるグループの薬が一番すぐれているといわれています。余談ですが、この薬の基本は日本人の遠藤先生が発明しています。そのうち、ノーベル賞を受賞するのではないかといわれています。HDLコレステロールは40mg/dl以上がよいといわれています。また。LDLコレステロールとHDLコレステロールの比が1.5以下を目指したほうがいいとも言われます。しかし、HDLコレステロールを上げるのはなかなか難しいことろがあります。以前に海外の製薬会社が「HDLコレステロールを上げる薬」を開発して臨床試験まで行いました。しかし、残念ながら思ったような効果が出らず、販売をあきらめています。おかげで、この会社の株は大幅に下がったそうです。フィブラートという中性脂肪を下げる薬はHDLコレステロールを少し増やす効果があります。どうしても必要なときはこの薬を使用しますが、スタチンとの併用では副作用が強く出たり、腎機能の悪い方には使いにくい面もあります。EPA製剤もややHDLコレステロールを増やす働きがあります。正直なところ効果は微妙なのですが、副作用が少なく使いやすいため人気の薬になっています。
抗血小板薬はほとんどの症例に使用します。血小板は様々な刺激に反応して凝集し血栓を作ります。抗血小板薬は血小板の機能を抑制して、固まりにくくする薬です。この薬を飲むことで血管が詰まってしまうのを防ぐことができます。
血管拡張剤はよく使用されますが、必須ではありません。海外のデータでは長期予後を改善する効果はわずかです。しかし、日本人では血管がきゅっと縮むタイプの狭心症を合併しやすいので効果があるといわれています。少なくとも、症状の緩和には有効と思います。
症例によってはβブロッカーを使用することもあります。βブロッカーは心拍数を落としたり、血圧を下げる効果があります。心臓を休ませる効果もあるので、狭心症の予後を改善する効果があるといわれています。ただし、血管が縮むタイプの狭心症では発作を誘発しやすくなります。
当然ですが、禁煙は必ずしなければなりません。
上野循環器科・内科医院 上野一弘