月報 「聴診器」 2022/05/01
毎年、春は寒暖差が激しく体調を崩す方が多いのですが、今年は特に寒い日と暑い日の差が激しい気がします。長期予報では5月の気温は平年並みかやや暑く、降水量は平年並みだそうです。穏やかな気候ならよいですね。
29 脂質異常症2 ⑥治療 薬
今回は、脂質異常症の治療について説明します。
- スタチン系
高コレステロール血症に対して使用する薬の代表です。ロスバスタチン、アトロバスタチン、などがスタチン系の薬です。HMG還元酵素というコレステロール合成にかかわり酵素の働きを邪魔することで悪玉のLDLコレステロールを減らします。高コレステロール血症の人にスタチンを投与すると、心筋梗塞の発症を半分程度に抑えられます。また、心筋梗塞を起こした人にスタチンを投与すると寿命を延ばすことが分かっています。
スタチンには皮疹や肝障害といった一般的な副作用以外に「横紋筋融解症」という特有の副作用があります。手足の筋肉が壊れて、全身がだるいような痛みが出てきます。重症の場合には尿が赤黒くなります。採血検査ではCPKという筋肉に含まれる酵素が異常に高くなります。発生率は1000人に一人程度とかなり低いのですが、重篤な副作用なので定期的に採血検査をして早期発見に努めています。なお、世界初のスタチンは日本人の遠藤先生が開発されています。
- フィブラート系
中性脂肪を下げる薬です。ペマフィブラートなどがこれにあたります。中性脂肪を下げると同時にHDLコレステロールを増やします。動脈硬化の進行を遅らせる働きがあり、スタチンと同じように予後を改善します。副作用はやはり「横紋筋融解症」が特徴的です。特に、スタチンと併用すると横紋筋融解症が発生しやすくなり、特に腎機能が低下した方には注意が必要になります。
- エゼチマイブ
LDLコレステロールを下げる薬です。単剤の商品名はゼチーアですが、最近はスタチンとの合剤も発売されています。肝臓はコレステロールを合成しますが、一部のコレステロールは胆汁から十二指腸に分泌され、さらに肝臓に再吸収されます。エゼチマイブは腸管で働いてコレステロールの再吸収を抑制します。効果は弱めで、スタチンほどコレステロールは下がりませんが、スタチンと併用するとかなりの上乗せ効果が期待できます。単独投与での予後の改善効果は十分には検討されていませんが、スタチンとの併用で冠動脈疾患の再発抑制効果が確かめられています。重篤なものではありませんが、便秘や吐き気といった消化器症状の副作用が多いのが特徴です。
- PCSK9阻害薬(エボロクマブ)
LDLコレステロールを下げる薬で注射薬になります。商品名はレパーサです。LDLコレステロールはLDL受容体を介して肝臓に取り込まれます。このLDL受容体の発現が少ないとLDLコレステロールの取り込みが低下し、LDLコレステロールが多くなってしまいます。PCSK9はこのLDL受容体の分解にかかわる酵素です。エボロクマブはPCSK9の働きを邪魔することでLDL受容体を増やし、LDLを劇的に下げることができます。通常の治療ではコレステロール値が十分に下がらない場合などに使用し、虚血性心疾患の再発を防ぐことができます。
上野循環器科・内科医院 上野一弘