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聴診器

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月報「聴診器」6月号発行しました!

5月はなぜか不整脈や心筋梗塞の方が多かった気がします。一般的に心疾患は寒いときのほうが多いといわれているので、暖かくなってきたこの時期に患者さんが増えたのは奇異な感じがしました。友人でもある飯塚病院の松川先生の論文によると大気汚染の程度と心疾患の発生率には有意な相関があるそうです。確かに、5月は黄砂がひどくPM2.5の飛散も多かったようです。そういえば「福岡の謎の風邪」も多かった気がします。

34.書評⑬ デイヴィッド・クァメン著『生命の〈系統樹〉は絡み合う』

前回はニック・レーンの著作で細胞内共生説に触れましたが、本書ではそのテーマがさらに深く掘り下げられています。加えて、遺伝子の水平伝播という現象にも光を当てることで、私たちが漠然と思っていた「生命の系統樹」というイメージそのものに修正を迫ります。

本書はまず、ダーウィン以来の進化論と従来の系統樹の考え方を整理したうえで、分子系統学によって見えてきた新たな生命世界の姿を提示します。その鍵となるのがリボソームの解析です。リボソームはタンパク合成にかかわる重要なタンパク質で、ほぼすべての生物が有しています。このリボソーム遺伝子の類似性を比較することで分子系統的に生命の進化が解析されるのです。そこから、細菌・真核生物という二つのドメインとは独立した、古細菌という生物のグループの存在が明らかになります。さらに本書は、細胞内共生説を通じて、私たち真核生物が古細菌に連なる存在であることを描き出します。ミトコンドリアや葉緑体は、かつて独立した細菌だったものが細胞内に取り込まれ、共生することで誕生したというのです。生命は単純な枝分かれだけで進化したのではなく、異なる生物同士の融合によって新たな存在を生み出してきた。この発想は非常に刺激的です。

さらに遺伝子の水平伝播が加わることで、一度は枝分かれしたはずの生命の系統樹が、あちこちで再び結びつき、複雑に絡み合っていることが示されます。通常、遺伝子は細胞分裂や生殖を通じて広がっていきます。しかし、わずかながら環境や感染によって遺伝子が取り込まれることが分かってきたそうです。生命の歴史は、整然とした一本の樹というより、網目状のネットワークに近いのかもしれません。

クァメンの作品はどれも重厚で、綿密な科学的事実をこれでもかと積み上げることで圧倒的な説得力を生み出しています。一方で彼は、登場する科学者たちの生い立ちや人間も丁寧に描きます。そして、科学とは、一人ひとりの人間の情熱や執念の積み重ねであることを思い出させてくれます。

本書最大のスターは、細胞内共生説を提唱したリン・マーギュリスでしょう。天文学者カール・セーガンの元妻としても知られる彼女ですが、その学説は当初ほとんど相手にされませんでした。しかし後に、ミトコンドリアや葉緑体が独自のDNAを持つことなど、多くの証拠が集まり、現在では生物学の基盤理論のひとつとなっています。

 前回のニック・レーンに劣らず重厚な本書ですが、意外に読みやすく知的興奮を堪能できます。

               上野循環器科・内科医院  上野一弘

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