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月報「聴診器」8月号発行しました!

月報 「聴診器」 2025/08/01

とにかく暑いですね。梅雨明けは早かったし、後3か月もこの暑さが続くそうです。熱中症での搬送数も全国的に増えているようです。入院までいかずとも点滴が必要な程度も熱中症の方は当院でも増えているのを実感しています。熱中症は発症したときだけでなく、数日間は体調不良が続きます。熱中症になれば数時間は意識して、熱所を避け、食事と睡眠を十分とるようにしてください。もちろん、熱中症にならないようにするのが一番ですけどね。

今年の暑さには恐怖を感じるほどですが、さらに恐ろしいのは年々暑さがひどくなっていることです。来年はどうなってしまうのでしょうか。

 

  • 書評 ③『妻を帽子とまちがえた男』オリバー・サックス著

皆さんは『レナードの朝』という映画をご存じでしょうか。嗜眠性脳炎という病気を扱った作品で、ロバート・デ・ニーロが患者を、ロビン・ウィリアムズが医師役を演じています。この映画の原作者が、神経内科医であり作家のオリバー・サックスです。彼は診療で出会った患者の症例を単に紹介するのではなく、彼らの人生や内面世界に深く分け入り、温かいまなざしで描くことで知られています。その代表作の一つが、今回取り上げる『妻を帽子とまちがえた男』です。

本書には、サックスが臨床現場で出会った24人の患者の物語が収められています。表題作は、視覚失認を患う音楽家が、自分の妻の頭を帽子と勘違いしてしまうエピソードです。奇妙な響きのタイトルに惹かれて本を開いた読者は、やがてこの話が単なる珍事件ではなく、人間の知覚や認識がいかに脳の精緻な働きに依存しているかを示す象徴であることに気づきます。

しかし、この本が単なる“面白い症例集”にとどまらないのは、サックスの書き方にあります。彼は症状や診断名を羅列するだけではなく、その患者がどんな人生を歩み、病によって世界の見え方がどう変わったのかを丹念に綴ります。ある人は病のために能力を失いながら、別の感覚を研ぎ澄ませて新たな才能を開花させる。ある人は奇妙な症状に翻弄されながらも、ユーモアを失わず懸命に生きる。そこにあるのは単なる医学的事例ではなく、ひとりの人間の「物語」です。

本書を読むと、自分が自分だと感じる感覚すら、脳という器官の働きに支えられた脆い構造物であることを思い知らされます。ひとつの疾患で、世界の見え方も自我の輪郭も大きく揺らいでしまう。しかし患者たちは、その揺らぎの中でなお自分なりの世界を築き、必死に生き続けるのです。その姿を見つめるサックスの視線はあくまで優しく、医師としての誠実さと作家としての洞察力が融合しています。

サックスはその後も、『火星の人類学者』や『色のない島へ』など、神経疾患をテーマにした数々の名著を世に送り出しました。ときにはミクロネシアの島へ出かけ、全色盲の人々の暮らしを記録し、またある時はトゥレット症候群や自閉症の患者の世界を描きました。それらはすべて、医学書を超えて、人間の存在や自我の意味を考えさせる本です。『妻を帽子とまちがえた男』は、そんなサックス文学の原点であり、読む者を深く揺さぶる一冊と言えるでしょう。医学や生物学に興味ない方にもおすすめです。

 

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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