月報 「聴診器」 2025/01/01
急に寒くなりました。ここまできちんと寒い冬は久しぶりかもしれません。年末には劇的にインフルエンザが増えました。インフルエンザだけでなくCOVID-19や他の風邪も流行っているようです。インフルエンザは高熱が出てつらい病気ですが、基本的には自然軽快する良性の疾患です。発熱を呈する疾患には、肺炎や胆嚢炎、心内膜炎など予後の悪い病気はたくさんあります。熱が出た場合に心配なのは、むしろインフルエンザではなかった時かもしれません。
33 最近の話題 ④医療とAI
近年、発展が著しいのはバイオテクノロジーだけではありません。コンピューターの発展がもたらした人工知能=AIの利用が広がっています。Chat GPTや画像生成AIの話は聞いたことがある方も多いと思います。
医療の分野でもAIの利用が話題になっています。いろいろな分野での利用が検討されていますが、まずは画像診断でのAI利用が始まっています。胸部レントゲン写真やCTの画像は医師がいくつかのルールに従って読影し、「異常っぽさ」を判断しています。基本的には絵画の鑑賞と似ています。絵画を鑑賞できるAIはすでに開発されています。例えばモネの絵をたくさん見せてAIに学習させると、初めて見る絵でもモネの絵かどうか判断できるようになっているそうです。「モネっぽさ」をコンピューターが学習できるのですね。AI画像診断でも、基本的なルールを教えた後は、「この画像は正常」「この画像は異常」との学習を繰り返してAIの経験値を上げていきます。市販されている製品もかなり精度が上がってきていて、頼もしい助手程度にはなっています。同様の手法はCTやMRIの画像診断でも開発されており、最近ではエコーの動画でもAI診断の利用が始まっています。
病理診断にもAIの利用が検討されています。病理診断は、病気の組織を採ってきて、標本にして顕微鏡で細胞の形などを見る検査です。これも、一種の「絵」ですので、AIである程度の判断ができるかもしれません。手術の際に切り取った端や近くのリンパ節に癌細胞が残っていないかどうかを調べる必要があります。この時に、迅速病理検査が行われます。しかし、病理診断をできる人材が豊富にあるわけではないので、いつでもどの病院でも迅速診断ができるわけではありません。こんな場面などにAI診断が有用ではないかと考えられています。
AI画像診断ではさらに興味深い試みもされています。これまでは、人間の判断代わりをAIにやってもらおうという利用方法でしたが、人間以上の能力も可能かもしれません。心房細動は、脈がばらばらに打つ病気で、動悸や心不全の原因になります。特に怖いのは脳梗塞です。脳梗塞を発症した後に心房細動が分かるケースも多々あります。発作中に心電図で心房細動の診断をすることは比較的容易です。むつかしいのは、発作時の心電図が撮れない場合です。非発作時の心電図所見から心房細動を隠し持っているかどうかを判断するのは不可能に近いと思います。そこで、AIに発作性心房細動を有する患者さんと正常の患者さんの心電図を多量に読み込ませて、非発作時の心電図から発作生心房細動を持っているかどうかを判断させよう、という研究が行われています。まだ、方法や精度にばらつきがありますが、有望な報告も増えてきています。近い将来には、非発作時の心電図で「発作生心房細動を有する可能性が高い」と判断されれば、脳梗塞の予防薬を飲んでもらったり、さらに精度の高い検査を行うようになると思います。
上野循環器科・内科医院 上野一弘