月報 「聴診器」 2019/10/01
長崎で心リハ学会九州地方会が開催されました。当院からは僕と看護師さんが発表演題に選ばれました。発表は土曜日でしたので、診療を11時で終了させていただき、車で急いで向かいました。途中で渋滞があり、間に合うかどうかひやひやしましたが、何とか滑り込みセーフでした。自分たちの発表はスムーズに終わり、他の施設の報告などを聞きましたが、とても勉強になりました。
当院は、地方会での演題発表は第1回から5回連続の皆勤賞です。特に今回の看護師さんの発表は説得力があり、大学病院の発表よりも優れ、大変わかりやすかったと思います。最近は、学会での発表を目にした方から声をかけられることも多くなりました。学術的な活動で得られた知見を現場にも応用できるよう頑張ります。
27 高血圧2-②
前回から高血圧の話を始めていますが、ところで血圧って何でしょう?血圧は一般に動脈の圧力をさしています。血液が動脈壁を押している圧力のことです。動脈を切った場合、血が激しく噴出します。黒澤明の映画では、決闘で首が切られ血が高く噴出すシーンがあります。あれは首が切られても心臓が動いている少しの間は、血圧が維持されていることを考えての演出でしょう。間違ってないと思います。血液が血管壁を押す力が解放されると重力に拮抗して血圧が吹き上がるわけです。この血液が噴出す高さは血圧に比例します。血圧が高ければ、血液はより高く噴出します。血圧が高い場合には、高い圧力で動脈の血管が押されているわけです。
血圧は、心臓から送られる血液の量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)で決まります。血圧=心拍出量✕血管抵抗です。電圧と電流と抵抗の関係(オームの法則)とおなじですね。心臓の動きが正常の場合、心拍出量は全身の血液量で決まります。たとえば、多量に出血をして、血液量が減ると急激に血圧が下がります。逆に過剰に塩分を投与すると、血液量が増え血圧が上がります。血管抵抗は抹消血管抵抗がそのほとんどを占めます。末梢血管抵抗が上がれば血圧も上がりますし、末梢血管抵抗が下がれば血圧は下がります。たとえば、敗血症という病気では末梢血管が細菌の毒で過剰に拡張してしまい、末梢血管抵抗が異常に低くなるため、血圧が下がってショック状態になります(いわゆる敗血症ショックです)。
血圧が高い状態が続くと、血管に細かい傷がついてきます。この細かい傷に反応して、動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりします。これが動脈硬化です。動脈硬化が進んだ血管では、血管が狭くなり、血流不足が起こります。これが心臓の結果に起これば狭心症になります。動脈硬化を起した血管の内面は血液が引っかかりやすくなり、詰まることもあります。これが、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。また、動脈硬化が進んだ血管では血管が膨れたり、破れやすくなったりもします。脳出血や動脈瘤の原因になるわけです。
血圧の影響は、血管だけに出るものではありません。高い血圧が続けば心臓に負担がかかり、心不全を起します。腎臓でも、機能が低下し透析が必要になることもあります。網膜がだめになって、失明することもあります。ただし、これらの合併症はかなり進行してからしか症状がでません。血管も破けるか詰まるまで症状は出ません。症状の無いうちに、リスクを判断し、的確な降圧をすることが大切です。
上野循環器科・内科医院 上野一弘