月報 「聴診器」 2024/12/01
急に寒くなり、季節は一気に冬になりました。「秋」はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。寒くなると同時に感染症が増えています。医師会からの報告ではインフルエンザが多く、特に子供たちの間で流行し学級閉鎖も出ているようです。報道などではマイコプラズマ肺炎が流行しているそうです。当院では、肺炎が増えた印象があります。マイコプラズマ肺炎は時々いますが、通常の肺炎のほうが多い印象です。
33 最近の話題 ③バイオ製剤の続きの続き 免疫療法など
すいません、バイオ製剤の話がもう少し続きます。
2018年に本庶佑先生がノーベル賞を受賞したことを覚えていらっしゃるでしょうか。「免疫チェックポイント阻害因子の発見」に対して贈られたものでした。免疫細胞は自分と他人を見分けられるセンサーを持っていて、体中をパトロールしています。よそ者を発見すると、実行部隊細胞に排除命令が下されて侵入者は撃退されます。癌細胞は正常細胞ではないので、本来ならば免疫が働いて排除されてしまいます。しかし、癌細胞ではこのパトロールの目をごまかすことができます。前述の「自分と他人を見分けられるセンサー」に「僕は仲間だよー」と信号を送りだますことができます。ずる賢いですね。本庶先生たちは免疫細胞(T細胞)の表面にあるPD-1という分子がセンサーの役割をしており、癌細胞の表面のPDL-1という分子がPD-1に結合し免疫をだましている機構を解明しました。その後、長年かかってPD-1を阻害する抗PD-1抗体製剤、ニボルマブが開発されました。ニボルマブはこれまで治療が難しいといわれていた悪性黒色腫に対して大きな治療効果を上げ、世界にインパクトを与えました。その後、ほかの癌に対しても効果があることが分かり適応が広がっています。また、ニボルマブ以外にも免疫チェックポイント阻害薬が開発され、癌治療の重要な部分を占めるようになっています。
癌に対する免疫治療ではCAR-T細胞療法というものもあります。免疫攻撃部隊の細胞が異物を攻撃するときには、自身の細胞表面に敵を認識する特異的分子を発現させています。ところが、癌になっても癌細胞は免疫機構をすり抜けるため、攻撃細胞の表面に癌攻撃用の分子が十分発現していません。そこで、この攻撃細胞を体からとってきて、バイオテクノロジーを駆使して攻撃細胞表面に癌細胞を攻撃するマーカーを発現させます。その後この人造免疫細胞を増殖させ、体に戻すと癌細胞を攻撃し治療につながるわけです。治療が難しい血液癌などに使用され目覚ましい効果を上げています。
上記二つは、時代を変えた免疫療法でした。長年、癌に対する免疫療法は研究されていましたが本当に効果のあるものはありませんでした。「がん免疫療法は無駄だ」というような雰囲気でしたので、この二つの免疫療法の成功はインパクトがありました。しかし、ほかの免疫療法は効果がはっきりしていません。日本では自由診療として多くの免疫療法がおこなわれていますが、標準治療に勝るものはないようです。中には詐欺まがいの物があったり、重大な副反応を起こしたものもあるようです。もし、癌免疫療法に興味がある方がおられたら、まずは今治療中の主治医に確認して慎重に判断したほうが良いと思います。
上野循環器科・内科医院 上野一弘