月報 「聴診器」 2023/07/01
6月は雨はあまり降りませんでしたが、ムシムシする日々が続きましたね。湿度があると熱が体にこもりやすくなり、あまり気温が高くなくても熱中症になることがあります。また、暑くなり始めの時期は体がうまく順応していないので、やはり熱中症になりやすくなります。実際、6月の後半から「だるい」「体がしゃっきりしない」と訴える人や、点滴が必要になる人が増えてきました。体が慣れるまでは、適宜エアコンを使用して、水分摂取を多めにしてください。そうそう、ご高齢の方の中には蒸し暑い日でも厚着をしている人を見かけます。温度感覚が鈍くなっているのかもしれませんので、意識して涼しい恰好をしてください。
31 血管病変2 ④ 静脈瘤
血管には動脈と静脈の二種類があります。心臓から出てきた血液を末梢の臓器まで運ぶ血管が動脈です。血液は各臓器に酸素と栄養を届け、二酸化炭素と老廃物を受け取ります。これが静脈血となり、静脈をとおって心臓まで運ばれます。動脈血は、心臓の収縮する力で押し出されそのまま動脈を流れます。そのため動脈はただの管でも血液が流れます。しかし、静脈までは心臓の収縮力は伝わりません。その代わりに静脈では骨格筋を利用して血液が流れています。静脈の周りには筋肉がありますが、筋肉が収縮すると静脈を外から押す形になります。このままでは、血液は前後に動くだけですが、静脈には動脈には無い「弁」が付いています。この静脈弁があるために血液は、一方向に流れることができます。
静脈弁の閉まり方がわるいと、静脈血はスムーズに心臓に向かって流れなくなります。足の静脈弁がうまく閉じなければ、血液は静脈に溜まってしまうことになります。この結果、足がむくむことになります。この状態を、深部静脈弁不全症と言います。また、静脈圧が高くなれば、血液は表層の細い血管を流れていくようになります。本来、足の静脈血の大部分は足の奥のほうにある深部静脈を流れます。しかし、静脈弁の閉まりが悪い場合には、表面の細い静脈にも多くの血液が流れます。血流が多くなれば、血管はふくれます。表面の静脈は本来網目状になっていますので、拡張した血管はとぐろをまいた蛇のようになります。これが、静脈瘤です。
静脈瘤ができると、いろいろな症状が出てきます。静脈の流れが悪く、筋肉の老廃物がうまく流されませんので、足がつりやすくなります。血栓もできやすくなります。静脈瘤で血栓ができれば、痛みをともなう「血栓性静脈炎」となります。深部静脈で血栓ができれば「深部静脈血栓」となり、さらに足が腫れ、赤黒くなります。深部静脈血栓症では、血栓が移動して心臓をとおって肺動脈に詰まることがあります。これは、肺塞栓と呼ばれ命にかかわる病気です。長時間の座位や手術後の長期臥床などで深部静脈血栓症ができやすくなり、肺塞栓を起こすことも多くなります。
静脈瘤の治療は、できた静脈瘤を抜き取ったり薬剤で固める手術をします。最近では、レーザーで手術を行うこともあります。ただし、深部静脈弁不全症事態の根本治療は難しいようです。軽症では弾性ストッキングなどを使用します。
深部静脈弁不全症や下肢静脈瘤は女性に多いようです。また、遺伝性もあり家族内発生も多く見られます。ちなみに、僕も結構立派な静脈瘤を持っています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘