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月報「聴診器」8月号発行しました!

7月28日夕方に熊本県宇城市を震源とする最大震度7の震災が発生しました。10年前の震災からやっと復興が形になった矢先の出来事でした。被害の大きさに言葉がありません。現地では酷暑に迫る暑さの中、停電や断水が続いているそうです。亡くなられた方々のご冥福を願うとともに、家族を亡くされた悲しみを思うと胸がふさがります。

34.書評⑮ デイヴィッド・クアメン著『スピルオーバー』『パンデミックの時、科学は』

今回はデイヴィッド・クアメンの2作品です。クアメン二回目の登場です。

『スピルオーバー』のテーマは人獣共通感染症です。マラリア、エボラ出血熱、HIVといった有名な感染症だけでなく、ヘンドラウイルス、ニパウイルス、マールブルグ病など、日本ではあまり耳にすることのない病原体も数多く登場します。

しかし、本書の主役は病原体ではありません。未知の感染症を追い続ける科学者たちです。危険なジャングルへ分け入り、時には命の危険を冒しながらウイルスを追跡する研究者たち。彼らの研究内容だけでなく、人柄や人生観、生い立ちまで丁寧に描かれており、ノンフィクションでありながら冒険小説を読んでいるような面白さがあります。

本書の原著は2012年、つまりCOVID-19登場以前に出版されました。しかし現在読むと、その内容には驚かされます。野生動物と人間との接触が増えれば、新たな感染症は必ず現れる。しかも次のパンデミックは時間の問題である──。クアメンが十年以上前に発した警鐘は、その後のCOVID-19によって現実のものとなりました。

その「答え合わせ」とも言える一冊が『パンデミックの時、科学は』です。本書では、SARS-CoV-2の発見からゲノム解析、ワクチン開発まで、世界中の研究者たちがどのように協力し、この未知のウイルスに立ち向かったのかが描かれています。

「武漢で原因不明の肺炎」という第一報から、病原体の同定、ゲノム解析までのスピードには当時も驚かされました。私も次世代シークエンサーの進歩がもたらした成果だと思っていました。しかし本書を読むと、その背景には技術だけではなく、世界中の研究者が長年築いてきた信頼関係と、情報を惜しみなく共有する姿勢があったことが分かります。

本書で最も多くのページが割かれているのが、SARS-CoV-2の起源です。自然界から人へ感染したのか、それとも研究施設から流出したのか。当時はさまざまな説が飛び交い、中には陰謀論めいた主張も少なくありませんでした。現在でも決着がついたとは言えず、議論は続いています。

クアメンは、まず公開されているデータや論文を示し、その上で、それぞれの科学者がどのような根拠で主張しているのかを丁寧に紹介します。読者は結論を与えられるのではなく、自ら証拠を読み、考えることを求められます。

感染症は今後も繰り返し人類を襲うでしょう。しかし、そのたびに私たちを救うのは、地道にデータを積み重ね、世界中で知識を共有しながら真実を探し続ける科学者たちです。COVID-19を経験した今だからこそ、多くの人に読んでほしい二冊です。

                    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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