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聴診器

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月報 「聴診器」 2009/05

月報 「聴診器」 2009/05/01

 

春になっても寒い日が多いですね。しかし、毎年連休明けから一気に暑くなるようです。WBC、日本代表チームが優勝できてよかったですね。テレビに釘付けだった人も多いのではないでしょうか。特に原監督の采配はすばらしかったですね。我慢と信頼はどの分野でも大切だな、と感じました。

 

10 脂質異常症⑤  治療

今回は、脂質異常症の治療について説明します。脂質異常症の治療の基本は食事療法と運動療法です。脂質異常症は糖尿病と同じく、文明の発達とともに急増した病気です。前回は、脂質異常による動脈硬化を説明しました。今回は脂質異常症の検査を説明します。脂質異常症の検査は、血液検査と動脈硬化の検査に分けられます。血液検査では中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールを測定します。また、糖尿病の有無は治療目標値に影響を与えますので血糖値やHbA1cも測定します。二次性高コレステロール血症のチェックも必要です。代表的なものは甲状腺機能低下症なので、甲状腺機能を測定します。ネフローゼ症候群という腎臓の病気でもコレステロールが上がります。このため、検尿をして蛋白尿のチェックをすることもあります。

脂質異常症の問題は、つまるところ、動脈硬化の問題です。脂質異常症といわれた場合に、大切なのは今の動脈硬化の程度を把握することです。当院では脈波測定と頚動脈エコーを利用して、動脈硬化の検査を行っています。動脈硬化が進めば、動脈は硬くなり、内腔が狭くなります。脈波測定は手足の血圧を同時に測定し、動脈の硬さと詰まり具合を調べる検査です。手足の血圧と同時に心臓の音も調べ大動脈弁が閉まる音が手足の血管にどれぐらいの速さで伝わるかを調べます。動脈が硬ければ音は早く伝わるし、柔らかければゆっくり伝わります。当院の機械では動脈の硬さはCAVIという指標で表されますが、CAVIが9以上で「硬い」と判断されます。血管の硬さは年齢に比例しますので血管年齢も分かります。この検査では手足の血圧を同時に測定します。動脈硬化が進行して、手や足の動脈が狭くなっていれば、狭くなった部位の血圧が下がります。手足の血圧を同時に測定することで、手足の動脈の狭窄がチェックできます。

当院では頚動脈エコー検査も取り入れています。動脈硬化が進めば動脈の壁が厚くなっていきます。エコー検査では首の動脈を観察して、壁の厚さを測定します。正常では動脈の壁は0.8mm程度ですが、動脈硬化が進行すれば厚くなってきます。患者さんによっては、一部だけボッコリ肥厚しています。このボッコリをプラークと呼びますが、エコーではプラークの形や大きさ、破れやすさなどを調べます。中には血管が詰まりそうになっている方もいて、びっくりすることもあります。

症例によっては、運動負荷心電図をする場合もあります。狭心症のチェックのためです。心臓の血管・冠動脈に動脈硬化が進めば狭心症を引き起こします。狭心症は普通に心電図をとっても分からないことが多い病気です。運動をすると心臓の必要血流が増大しますが、狭窄があれば血流が不足するので心電図に変化が出てきます。

これらの検査は体に負担をかけずに出来る検査です。経過観察のために、採血と同じように繰り返しできるところが便利ですね。

10 脂質異常症⑤  治療

今回は、脂質異常症の治療について説明します。脂質異常症の治療の基本は食事療法と運動療法です。教科書的には卵や動物性脂肪などを減らし、毎日1万歩以上歩くことが勧められています。脂質異常症は、糖尿病と同じく文明の発達とともに急増した病気です。理屈の上では、100年前の社会のような生活をすれば脂質異常症の大部分は治癒するはずです。しかし、身近に食べ物があふれ、便利な交通手段がある現代社会で文明の恩恵を拒否し続けるのは、大変困難だと思います。

糖尿病の治療では「食事療法に勝る治療なし」と言われますが、脂質異常症については薬物療法でも長期予後の改善が十分得られます。脂質異常症の治療に関する研究は数多く行われてきていますが、脂質異常症を持つ人は5年間で40%の人が心筋梗塞や狭心症を発症することがわかっています。薬物療法を行えばこの確率を10%程度に抑えられます。また、最近では糖尿病や高血圧など、他の動脈硬化促進因子がある場合にはより厳格に治療をすることで、さらに予後が改善することがわかっています。

薬物療法によって心筋梗塞などの病気が減ることはわかりましたが、薬物療法自身の弊害は無いのでしょうか。薬物療法の弊害は①薬自身の副作用、②コレステロールを減らすことによる弊害の二つが考えられます。薬の副作用は、薬の種類にもよりますが、重篤なものは1000人に一人程度発生します。残念ながらゼロではありません。しかし、薬物を飲まない場合に起こる疾病の可能性に比べれば非常に少ない確率です。どの患者さんに副作用が起こり、どの患者さんに病気が起こるかわからない段階では、薬物療法を選択したほうが安全といえます。

昔はコレステロールを減らしすぎると、癌が増えるとか、脳出血が増えるとかが心配されていました。実際、統計では癌や脳出血の患者さんのコレステロールが低いことがわかっています。ところが、薬物療法でコレステロールを減らした患者さんを長年観察しても、癌や脳出血が増えないことがわかってきました。これは、原因と結果を混同させたことによる思い込みが原因でした。癌により栄養不足になり、結果としてコレステロールが減ることはよくあります。この場合、低コレステロール血症は癌の原因ではなく、結果だったのです。

薬物療法を薦める際に、「薬を飲みはじめたら、すっと飲み続けなくてはいけないんでしょう?」と聞かれることがよくあります。これは、半分正しく半分間違えです。薬を飲んでコレステロールが下がっても、内服をやめると再び高値になります。ただし、投薬前の値に戻るだけで投薬前よりも上がるわけではありません。もとに戻るだけです。また、短い期間でも脂質代謝を正常化しておくほうが、血管が痛まず臓器障害も進みません。簡単にいえば、副作用が起きない限り、薬を長く飲めば飲むだけ寿命が延びるのです。

上野循環器科・内科医院  上野一弘

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