月報 「聴診器」 2010/06/01
初夏だというのに、なんだか寒々しますね。今年の夏は冷夏でしょうか。
12 血管病変 ③ 閉塞性動脈硬化症
前回は大動脈瘤の話をしました。動脈瘤は血管がふくれたり破けたりする病気です。血管病変では「狭くなる」「つまる」病態も存在します。心臓の血管が狭くなれば狭心症を起こしますし、脳の血管が詰まれば脳梗塞を起こします。手足の血管が狭くなったりつまったりすれば、閉塞性動脈硬化症と呼ばれる病気になります。
足の血管に閉塞性動脈硬化症がおこれば、足が痛くなります。典型的な例では、歩行を続けるうちに足が痛くなり、しばらく休むと痛みがなくなります。病気が進行すれば、痛くなるまでの距離や時間が短くなります。さらに進行した場合には安静時でも痛みが出現します。足の血管が狭くなると、足の筋肉に行く血流が低下します。病気の初期で血流低下がそれほどでもないときには、安静時や少しの歩行で消費する程度の血液は流れています。長く歩くと筋肉がたくさん動き血液がたくさん必要になりますが、血管が狭くなっているので相対的に血液不足なります。このため、足の筋肉が痛くなります。狭窄が高度になるほど血流は不足しますので、短い距離でも症状が出現することになります。狭窄がさらにすすめば、安静時の筋肉を養う程度の血流も確保できなくなり、安静時でも痛みが出現することになります。時には皮膚に潰瘍ができることもあります。血管が完全に閉塞してしまうと、筋肉が死んでしまい真黒になります。これは壊疽と呼ばれます。ただし、大きな血管が完全に詰まっても、細い血管がバイパスとして存在し、細々と組織を養い壊疽とならない場合もあります。痛みはなくとも、足が冷たい、片足だけ白いなどの所見で見つかる場合もあります。手や肩の血管が狭くなることもありますが、足の場合に比べて症状が出にくいようです。
症状から閉塞性動脈硬化症を疑った場合には検査をします。まずは、ABIを計測します。ABIは手足の血圧を同時に測り、血圧の比を調べる検査です。たとえば、右足の血管が細くなっていれば、右足の血圧だけが低くなります。この検査で血管の狭窄が疑われれば血管造影をします。以前はカテーテルでの検査が主流でしたが、今は三次元CTを使うことが多いようです。
血管の狭窄や閉塞が確認されれば治療を行います。基本はバイパス手術を行います。病変部位より心臓に近い血管からバイパス血管をつなぎ、病変部位をとばしてさらに末梢の血管にバイパス血管をつなぎます。最近ではカテーテルでの治療も多くなってきました。心臓の血管の治療と同じように細い風船を血管の狭窄部に通し、圧力をかけて風船を膨らませると血管も膨らみます。ステントという金属の網を使用する場合もあります。血管が完全に閉塞し、組織が壊死していれば末梢部位の切断が必要になります。
閉塞性動脈硬化症は糖尿病、高血圧、高コレステロール血症を持つ人に多く見られます。喫煙も重要な危険因子です。喫煙者では閉塞性動脈硬化症のほかにバージャー病という小さな動脈が閉塞する病気も発症しやすくなります。
薬物での治療では、血液が固まりにくくする薬や、末梢の動脈を拡げる薬を使用します。もちろん動脈硬化そのものの治療が一番大事なので、糖尿病や高血圧の治療もしなければなりません。当然、たばこは禁止になります。
上野循環器科・内科医院 上野一弘