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月報「聴診器」7月号発行しました!

月報 「聴診器」 2025/07/01

梅雨に入ったと思ったら、早々と梅雨明けです。暑い日は6月なのに30度を超えており、今後の暑さが心配になります。

34 書評 ②『コード・ブレイカー 遺伝子編集の革命と生命の未来』ウォルター・アイザックソン著

僕の子供は分子生物学の研究をしていますが、彼から勧められた本です。皆さんは数年前にノーベル賞を受賞した「CRISPR-Cas9」のことを御存じでしょうか。遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」は、生命科学の常識を塗り替えた発見と言っても過言ではありません。ウイルスに対する細菌の自己防衛システムの研究から発展したこの技術は、DNAを狙った場所で正確に切断し、改変することを可能にしました。『コード・ブレイカー』は、この技術の発見に深く関わった科学者ジェニファー・ダウドナの軌跡を中心に、科学者たちの競争と協力、そして遺伝子編集のもたらす倫理的・社会的課題を描いたノンフィクションです。

CRISPRとは、細菌のゲノムにある繰り返し配列(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)のことで、そこにはかつて感染したウイルスのDNA断片が記録されています。この情報をもとに、細菌は「ガイドRNA」と呼ばれる分子を作り、Cas9という酵素を導いて再び侵入してきたウイルスのDNAを精密に切断します。これを人工的に改変すれば、特定の遺伝子を自在に編集できるツールとして応用できるのです。

この技術がどのようにして発見され、いかに迅速に研究競争が展開されたかが、本書では丁寧に描かれています。特に印象的なのは、分野を超えたコラボレーションと、科学者同士の出会いがもたらす化学反応です。たとえば、ヨーグルトの製造に使われる乳酸菌がファージ(細菌ウイルス)によって壊される問題に悩んでいた食品会社の研究者が、CRISPR配列にウイルスの痕跡を見つけたこと。あるいは、RNA生物学者であるダウドナと細菌遺伝学者シャルパンティエが国際会議で出会い、手法を融合させたこと。どれも偶然と情熱、そしてオープンな対話が生んだ成果であり、科学の本質的なダイナミズムを感じます。

また、本書ではCRISPRの応用範囲の広さも紹介されています。基礎研究の加速にとどまらず、遺伝性疾患の治療、がん免疫療法、HIVへのアプローチ、さらにはCOVID-19の検出法開発にも貢献しています。しかし同時に、遺伝子改変による「デザイナーベビー」や倫理的境界の曖昧化といった深刻な問題も浮上しているようです。本書の後半では、科学者たちがその“力”をどうコントロールし、社会と向き合おうとしているかが克明に描かれています。

ジェニファー・ダウドナという人物も、科学者の枠を超えて強く印象に残ります。ハワイで育ち、十代で『二重らせん』を読んで生物学に目覚め、女性が少ない科学の世界で数々の偏見と障壁を乗り越えていきます。彼女の人生は、アメリカという社会が持つ自由と多様性、そして挑戦への肯定的な態度を体現しているように感じました。

『コード・ブレイカー』は、科学の世界が持つワクワク感、自由な発想、オープンな議論の文化がいかに創造的で前向きなものであるかを、読者に存分に伝えてくれています。ライフサイエンスや医学に興味を持つ高校生・大学生にとって、そして科学と社会の接点を見つめ直したい大人にとっても、本書は刺激的な一冊です。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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