月報 「聴診器」 2004/12/1
先日、子供の誕生日に許斐山に登ってみました。景色がよく、とても気持ちよかったのですが、翌日は筋肉痛に苦しみました。診察では、「運動不足はいけませんよ」と言っていたのに、自分の運動不足を大いに反省しました。
3.心筋梗塞
前回までは、狭心症の病態、治療について話をしてきました。狭心症の治療では、狭い血管を広げたり、血が血管に詰まるのを予防したりします。狭心症の治療はつまるところ、心筋梗塞の予防にあるわけです。
心臓の周りには冠動脈という血管があります。この血管が心臓自身に血液を供給し、心臓は動いています。とても大事な血管です。冠動脈は右に一本、左に二本、計3本あります。それぞれの血管は栄養をおくる心臓の場所が決まっています。右冠動脈は心臓の下側に、左前下行枝は心臓の前側に、左回旋枝は心臓の後ろに血液を送っています。この冠動脈が狭くなると狭心症となり、詰まってしまうと心筋梗塞を起こします。冠動脈は心臓の筋肉に栄養(血液)を送っていますので、この血管が詰まってしまうと、その先の心臓の筋肉に栄養が行かず心筋が、一部死んでしまいます。たとえば、左前下行枝は心臓の前の部分に栄養を送っていますが、この血管が詰まると心臓の前の部分が動かなくなってしまいます。
冠動脈が詰まると、心臓への血液が途絶えます。すると、心臓の筋肉は栄養不足となり心臓の内側から壊死を始めます。心臓の壊死は血管が詰まって、だいたい30分後から始まり、8時間ぐらいかけて完成します。最初は小さな範囲の筋肉が死んでしまうのですがそれが徐々に広がっていくのです。その後、様々な、細胞の働きで壊死した筋肉が取り除かれ、固い繊維に置き換わります。赤身の肉がスジに置き換わるのです。しかし、繊維は筋肉ではありませんから、心筋梗塞になった部分は再び動き出すことはありません。一度、死んでしまった心臓の筋肉は元には戻らないのです。つまり、心筋梗塞を一度起こしてしまえば、完治はしないのです。
昔は、心筋梗塞の急性期の死亡率は40%と言われていました。治療法がすすんだ現代でも急性期の死亡率は10%程度と考えられています。心臓は、体全体に血液を送っている体のエンジンです。そのエンジンのパワーが急に落ちるのが心筋梗塞です。たとえば、1500ccの自動車が、車体は変わらないのにエンジンだけ660ccになってしまうようなものです。体が必要とするだけの血液が供給されませんので、少し動いても息切れがしたり、足や顔がむくんだりするようになります。ひどい時には、心臓や肺もむくんでしまい、呼吸困難になることもあります。また、心臓の一部が死んでしまうと、心臓の中の電気の流れが悪くなり、さまざまな不整脈も出現します。特に、心筋梗塞には「心室頻拍」や「心室細動」などの致死性不整脈が合併しやすいので注意が必要です。さらに、急性期の心筋梗塞ではダメージを受けたばかりの心筋がぶよぶよしていますので、そこが破けることもあります。
上野循環器科・内科医院 上野一弘