月報 「聴診器」 2006/2/1
寒さも一段楽したようですね。でも、去年はここから寒さがぶり返していましたね。皆様も気を抜かずに体調管理に勤めてください。
6 心不全①心不全とは
これまで、いろんな心臓の病気の話をしてきました。心筋梗塞や弁膜症、心筋症でさまざまな症状が出ます。その中で特に問題となるのは心不全と突然死です。今回からはまず、この心不全について説明していきます。
心臓は筋肉で出来たポンプになっています。このポンプは二つの重要な役割をしています。ひとつは静脈から帰ってきた血液を受け取る役割です。もうひとつは、心臓から全身に血液を送り出す役割です。血液は心臓から全身に送られ、全身から心臓に帰ってきます。血液は体に栄養や酸素を届けた後、静脈を通って心臓に帰ってきます。心臓では右心房にまず血液は集められ、ついで右心室に運ばれます。血液は右心室から肺動脈を通って肺に届き、肺で酸素をたっぷり吸って肺静脈から左心房に帰ってきます。そして左心房から左心室に行き、左心室から全身に送られます。
心臓の働きが悪くなれば、この血液の流れに支障が出ます。心臓が血液を受け取る役目が衰えてくると、肺や全身の血液が心臓に帰ってきにくくなります。静脈が拡張し圧力も高くなってきます。すると、血管から水分が回りに染み出してきます。顔や足に水分が染み出せば、「むくみ」となります。肺に染み出せば「肺水腫」となります。肺水腫になれば、肺に酸素があまり入らなくなり、しかも血液が酸素を取り込みにくくなります。非常に息苦しくなるわけです。肺水腫では寝ると息苦しさが悪化するのが特徴です。これは、寝ることで足の静脈血が胸に帰りやすくなり、結果的に肺のむくみが増悪するからです。これらを「うっ血性心不全(Conjunctive Heart failure: CHF)」と言います。
心臓が血液を送り出す力が弱ると、全身の臓器に血液が不足します。四肢の血流が不足すれば、手足が異常に冷たくなって色が悪くなります。頭の血流が不足すればフラフラします。腎臓の血流が不足すれば尿が少なくなります。ひどい場合には、冷や汗が出て身の置き所の無いきつさに襲われます。これらを「低心拍出量症候群(Low Output Syndrome :LOS)」といいます。
正常な心臓でも、処理すべき水分量が過量だとうっ血が起こり、水分量が少なすぎると低心拍出量となります。ただし、正常な心臓では処理可能な水分量の範囲が広く、少々のことではどうもありません。一方、病的な心臓では適正な水分量の範囲が狭く、容易に心不全を起こします。病態に応じた適切な水分量を考えて治療を行っていきます。うっ血性心不全と低心拍出量症候群は別々に起きる場合もありますが、同時に起こることもあります。この場合は治療に大変苦労します。
上野循環器科・内科医院 上野一弘