月報 「聴診器」 2006/3/1
ようやく、暖かさの兆しが見えてきましたね。その代わり、花粉が飛び始めました。今年は去年ほどの飛散量は無いそうですが、症状のつらさは変らないようです。花粉症は、花粉の量だけでなく、排気ガスの量や体調にも左右されるようですね。
6 心不全②心不全の症状
前回は、大まかに心不全の病体について説明しました。では、心不全のときにはどんな症状が出てくるのでしょう。心不全には二つの病態が潜んでいます。拡張不全によるうっ血と、拍出量不足による組織の血流不足です。したがって症状も二種類に分けて考えられます。うっ血のほうでは、症状はむくみとなって現れます。足がむくむとき、顔がむくむときは心不全を疑います。足のむくみは「靴下の痕がはっきり残る」「足が重たい」などの訴えとなることが多いようです。顔のむくみは本人は気がつかないことが多く、家族や医師から指摘されることが多いようです。僕は、診察中には必ずまぶたを見るようにしています。肺がむくめば、酸素を上手に取り込めなくなり息苦しくなります。肺は小さな泡が集まったような構造をしていますが、酸素はこの泡の壁の部分から吸収されます。まず、この壁の部分むくみが始まり、酸素の吸収が低下するのです。むくみが進めば気管支や肺の外側にも水がたまります。
最初は、無理な運動をすると息苦しく感じますが、心不全が進めば少しの動作で息苦しさを感じるようになります。やがて、じっとしていても息が苦しくなります。心不全のときには寝ると息苦しさが悪化するのが特徴です。これは、寝ることで足の静脈血が胸に帰りやすくなり、結果的に肺のむくみが増悪するからです。このとき、血液中の酸素が低下するため、爪や唇がどす黒くなります。このとき、肺胞から水が染み出してきて痰が多くなりますが、典型的には水っぽいピンク色の痰が出ます。ここまで進めば、救急車で即、入院です。
また、心不全では心拍出量が減り、全身の臓器に血液が不足します。四肢の血流が不足すれば、手足が異常に冷たくなって色が悪くなります。頭の血流が不足すればフラフラします。腎臓の血流が不足すれば尿が少なくなります。ひどい場合には、冷や汗が出て身の置き所の無いきつさに襲われます。心拍出量の不足によって腎血流が低下すれば、尿が減り、うっ血がひどくなります。また、うっ血がひどくなれば心臓の負担が増え、心拍出量が更に低下します。むくみと、血流不足の悪循環が存在するのです。
もともと心臓が悪い人が無理をすると、心不全が増悪しやすくなります。たとえば、いきなり力仕事を沢山するとか、感染症にかかるとか、塩分の多い食事をするなどのきっかけで、症状が悪化することが多いようです。症状が軽度の心不全でも、無理が重なれば悪循環が始まれば、瞬く間に増悪していきます。実際、こちらがヒヤリとすることもしばしばです。疑わしい症状があれば、無理せず安静にして早めに受診してください。
上野循環器科・内科医院 上野一弘