月報 「聴診器」 2006/8/1
長い梅雨がやっと終わりましたね。しかし、突然の暑さは身にしみます。朝から、灼熱の日差しが容赦なく照り付け、冷房に慣れている体には「つらい」の一言です。文明に甘えていては、弱るばかりですね。
6 心不全④不全の治療:先端医療など つづき
血管新生療法:心不全になる多くの原因は心筋梗塞のなどの虚血性心疾患です。心臓の栄養血管である冠動脈が細くなったり、詰まったりしたために心臓の筋肉がだめになってしまう病気です。通常は、カーテルによる風船治療や、外科的なバイパス術などの血行再建術を行いますが、どうしても血行再建ができない症例があります。このような症例に対して血管新生療法が考えられています。血管新生の方法は、いくつかの案があります。
レーザーを利用した方法(PMR)は、血流が不足している部位にレーザーで小さな穴を開ける方法です。当初は大きく期待されましたが、いまひとつ効果が上がらずいまではほとんど行われていません。
体外衝撃波を利用した方法もあります。体の外から特殊な音波をあてて、心臓に小さな穴を開ける方法です。九大病院の循環器内科が行っています。
再生治療も研究されています。血管内皮前駆細胞(EPC)や骨髄間葉系幹細胞などの細胞を使った方法と、血管内皮成長因子(VEGF)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのサイトカンを利用したものがあります。この治療法は、心筋以外の血流障害、たとえば下肢の動脈閉塞などに対しては効果があることがわかっています。しかし、心臓については評価が分かれており、まだ確立されたものではありません。
心筋再生療法:上述した血管新生療法に似ていますが、目標が心筋細胞そのものになります。心筋梗塞や心筋症でだめになった心臓の筋肉は二度と元に戻りません。心筋再生療法はバイオテクノロジーを利用して、新しい心臓の筋肉を作ろうとする方法です。これにも骨髄間葉系幹細胞を使用したり、骨格筋芽細胞や胚性幹細胞を使用したりします。こちらも、まだまだ研究段階の治療法ですが、大きな期待がもたれています。
全置換型人工心臓:人工心臓には二種類あります。前号で紹介しVASは補助的人工心臓と呼ばれ、弱った心臓に付け加える形で使用します。実際上、補助的人工心臓は一定期間しか使用できませんが、全置換型人工心臓は心臓そのものと交換する形で恒久的な使用を目指しています。アメリカが1950年代から開発を始め、Jarvik 7やAbioCorなどは臨床応用もされました。しかし、血栓症や感染症のために十分な生命予後が得られていません。日本や韓国でも開発が続けられています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘