月報 「聴診器」 2010/01/01
新年明けましておめでとうございます。昨年は、当院の新診療所を完成させることができました。移転にはトラブルも予想されましたが、スタッフの努力もありスムーズに行えました。新診療所はやはり仕事がしやすいと思います。複数の患者さんの処置も行えますし、感染症の患者さんを別室で診ることもできます。
新診療所は皆様のおかげでできた建物です。また、皆様のためになるように作った建物です。皆様にも待合室やトイレが使いやすいとの評判をいただいているようで、非常にうれしく思っています。今年も、よりよい仕事ができるように頑張ります。
11 脳卒中⑦ 脳出血の治療
前回は脳卒中の検査の話をしました。検査で診断がつけば治療に入ります。今回は脳出血の場合の治療について説明します。どの病気もそうですが、脳出血の治療も急性期と慢性期で異なります。脳出血の急性期の治療の中心は外科になります。まずは、出血を止めることが最優先になります。そのために、血圧をまず下げます。クモ膜下出血などで動脈瘤があれば、開頭し動脈瘤にクリップをかけて止血します。止血していても、血腫という血液の塊が大きく、脳を強く圧迫していれば生命の危険があります。このときは、血腫を除去する手術をします。
ある程度の降圧が得られ、止血も確認し、血腫の処置が終われば、脳浮腫対策と全身管理が必要となります。脳出血では血腫が脳を圧迫しますが、脳は障害を受けると腫れる性質があります。他の臓器も炎症を起こすと腫れますが、スペースにゆとりがあるのであまり問題にはなりません。しかし、脳は頭がい骨に囲まれていますので、腫れると骨に圧迫されてダメになってしまいます。特に後頭部の骨に脳が圧迫されると生命維持ができなくなります。このため、急性期の治療ではグリセオールなどの脳浮腫治療薬を使用します。脳は全身のコントロールを行っていますので、脳にダメージがあれば全身に影響が出てきます。体温や血圧が変動したり、感染症に弱くなったりします。時々、心臓が悪くることがあります。脳からの刺激がおかしくなり、心臓の一部が止まってしまうことがあります。ひどい場合には心不全をおこします。心臓の一部が動かない様子が、タコつぼのようなので「蛸壺心筋症」と呼ばれています。脳の状態が落ち着けば、心臓の動きはもとにもどります。
急性期を乗り切れば退院して慢性期の治療に移行します。慢性期の治療の中心は再発防止と機能回復です。再発防止のためには血圧の管理が重要です。130/80mmHg 以下にコントロールする必要があります。出血しやすい場合には110/70mmHg以下を目指す場合もあります。機能回復のためにはリハビリが大切です。脳細胞は一回障害を受けると二度と元に戻りません。しかし脳の異なる部位が、障害を受けた部位に代わって働くことができます。リハビリはそのために行います。ただし、脳が新しい機能を獲得するのは大変です。赤ん坊が歩けるようになるまでより時間がかかります。リハビリの成果はすぐには出ませんので、粘り強い努力が必要となります。
上野循環器科・内科医院 上野一弘