月報 「聴診器」 2010/03/01
自分では、健康で元気と思っていましたが、最近健康診断での異常値が目立つようになってきました。過食、飲酒、運動不足などなど、思い当たることは多々あります。言うはやすく、行うは難しいですね。
11 脳卒中⑨ 脳梗塞の予防
前回は脳梗塞の急性期の治療について説明しました。今回は予防の話です。脳梗塞には大きく二種類あります。脳血管の動脈硬化が原因で血管がつまるものと、心臓が原因で血管が詰まるものです。
脳血管の動脈硬化が原因の場合は、再発予防のために抗血小板剤という薬を飲んでもらいます。血液は血管の中で流れているときには固まることはありません。しかし、異物があったり、流れがよどんだりすると固まる性質があります。動脈硬化を起こした血管では、血管の壁にコレステロールの塊がこびりついています。血液は、このコレステロールの塊を異物と認識し、血小板が固まり、血栓を作ります。抗血小板薬はこの血小板が固まる性質を阻害するものです。
抗血小板薬の投与とともに大事なのは、動脈硬化そのもののコントロールです。進んでしまった動脈硬化はもとには戻りませんので、動脈硬化の進行を抑えるのが治療の目的となってきます。動脈硬化は、加齢・喫煙・高血圧・糖尿病・高コレステロール血症で進みます。このうち、加齢についてはできることはありません。残りの因子のうちで、重要なのは血圧のコントロールと禁煙です。昔は、「血圧の下げすぎはよくない」との説がありましたが、今ではこの説が間違っていたことが証明されています。130/80mmHg以下でコントロールできれば、脳梗塞の再発が減ることが分かっています。タバコは当然、やめてください。
動脈硬化がとても強く、大きな血管が詰まりそうな時には手術を勧める場合もあります。血管壁にこびりついたコレステロールの塊を除去する手術がよく行われます。最近では、ステントという金網を使用して血管を広げる方法もとられます。エコーなどで検査して、血管の断面の75%以上が詰まってくれば、手術を検討します。
心臓が原因で血管が詰まる場合は、心房細動という不整脈がある場合や弁膜症の手術をして機械弁が使用されている場合です。静脈からの血栓が心臓の穴をすり抜けて脳梗塞を起こす「奇異性塞栓」もこのグループに入ります。この場合の治療はワーファリンという薬を使用します。抗血小板薬と同じように血液が固まるのを抑える薬ですが、凝固因子というたんぱく質の働きを阻害します。発作性心房細動では、薬で心房細動を抑制しても、ワーファリンを飲んでいないと脳梗塞を起こすことが分かっています。発作性心房細動の患者さんの予後を改善するためには不整脈の薬でなく、ワーファリンが必要なのです。抗不整脈薬は動悸などの症状をコントロールする目的のみで使用します。
ワーファリンによる脳梗塞の予防は、効果が大きく、副作用が少ないのが特徴です。ただし、少しばかりの面倒くささが伴います。まず、投与量が人によってまちまちです。ある人は一錠でも十分な効果がありますが、ある人は6錠ぐらい飲まないと効果がない場合があります。ワーファリンの効果は、採血検査をしないと分かりません。したがって、ある患者さんにどれぐらいのワーファリンが必要なのかは、ワーファリンの量を変えながら、頻回に採血をして決めるしかありません。同じ人でも体調などによってワーファリンの効き方は変化します。このために、定期的に採血検査をする必要があります。また、ワーファリンは食事や他の薬の影響を受けやすい薬です。ワーファリンはビタミンKから凝固物質が作られるのを阻害することで、血液が固まりにくくする薬です。このため、ビタミンKが多量にあると、ワーファリンの効き目は弱くなります。ビタミンKは野菜などに含まれますが、目立って多いのは、納豆・クロレラ・青汁です。ワーファリンを飲むのであれば、これらの食品は食べないようにしてください。ただし、これらの食品自体が血液を固まりやすくするわけではありませんので、ワーファリンを飲んでいない方は、安心して納豆を食べてください。
上野循環器科・内科医院 上野一弘