月報 「聴診器」 2011/06/01
いつの間にか梅雨入りですね。この季節にはおなかを壊す人が多くなってきます。冬にも下痢を起こす感染症がはやりますが、冬の下痢の多くウイルス性で自然に治癒します。しかし、梅雨の季節の下痢は、細菌が関与し、重症化する場合があります。手洗いや調理用具の衛生を心掛けてください。
13 検査 ⑥放射線検査 X線写真
病気にはいろいろな見方があります。病気の構造的異常に注目して行う検査が画像診断です。放射線検査、核医学検査、MRIなどがこれに当たります。放射線検査で、一番なじみが深いのはX線検査です。レントゲン検査とも言います。ご存知の方も多いと思いますが、X線は1985年、ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンによって発見されました。レントゲン博士が放電管の実験中に偶然放射線の存在に気が付いたといわれています。レントゲン博士はこの功績により第一回ノーベル賞を授与されています。
X線は放射線の一種です。1pm-10nmの波長の電磁波で、電子軌道の差によって発生したものを意味します。なお、同じ波長の電磁波でも核反応によって発生したものはガンマ線と呼ばれます。放射線にはそのほかにも粒子線と呼ばれる、アルファ線、ベータ線、中性子線などがあります。粒子線は検査に使用することはあまりありませんが、がんの治療に使用することがあります。
X線検査装置では、電子を金属にあててX線を発生させます。X線発生装置とフィルムの間に対象物をおき、X線を照射後にフィルムを現像します。X線が当たった部分のフィルムは感光し黒くなります。このため、X線を通しやすいものは黒くなり、あまり透さないものは白くなります。空気はX線を通しやすく、肉や水はX線を少しだけ遮ります。骨や金属はX線をあまり透しません。たとえば、胸のX線写真を撮ると体の外は真っ黒に写ります。肺は空気が多いので黒く写ります。心臓や血管は灰色に写り、腹部はかなり灰白色となります。背骨などはかなり白く写ります。
胸部X線写真では肺、心臓、大血管などを見ます。向かい合わせの状態で写真が出来上がります。両側に右肺と左肺が観察できます。真ん中に背骨と大血管が見えて、心臓は少し左寄りにあります。横隔膜から下は腹部になり白っぽく写ります。横隔膜の左下に黒っぽい影が見え、よく「これは癌じゃありませんか?」と聞かれます。これは胃の中の空気が写っているもので、心配はいりません。
肺炎では、肺胞の中に膿がたまりX線の透過性が低下し、白く写ります。肺炎の部位が心臓や横隔膜に接していれば、心臓や横隔膜の境界線がぼやけます。医者はこれを「シルエットサイン」と呼んでいます。肺気腫では肺全体が過膨張するので、肺が縦に間延びし横隔膜が平坦になります。 また、含気量が多くなるので肺全体が暗く写ります。間質性肺炎では肺全体にカスミがかかったように白っぽく写ります。胸水がたまると、肺の外側に白い部位が見れるようになります。心不全では心臓が拡張したり、肺がむくんだ所見が見れます。大動脈瘤では大動脈が膨れて見えます。腹部X線写真では腸管ガスや腸腰筋の異常などを見ます。整形外科ではX線検査は多用され骨や、関節の異常のチェックに使用されています。
腸管や尿管などをはっきり見たい場合は造影剤を使用します。撮影する時間をかえたり、連続的に撮影することで詳細な情報が得られます。連続的にX線で検査する方法は「透視」と呼ばれます。
上野循環器科・内科医院 上野一弘