月報 「聴診器」 2012/06/01
院内の設備もだんだんとデジタルものが増えてきました。電子カルテをはじめ、FAXや心電計もデジタル式でネットワークでつながっています。ところが、僕はパソコン関係に疎く人任せで設定しています。基本的なことがわかっていなくて、問題がある時に困ってしまいます。現在、暗中模索で勉強中です。文明についていくのは大変ですね。
15 医師列伝①
現代の医療はたくさんの偉大な医師によって作られました。僕たちは巨人の背中に乗って仕事をしているようなものです。今回からは、医者の間で有名な先生を紹介してみます。
ジェームズ・パーキンソン:19世紀初めのイギリスの医師です。「パーキンソン病」の発見者として有名です。パーキンソン病は手足が震え、姿勢が悪くなり、動きが緩慢になる疾患です。モハメッド・アリなどが有名ですね。昔から同様の症状を呈する人はたくさんいたはずですが、だれも病気だとは気づきませんでした。パーキンソン先生は、注意深い観察によって、これは複数の症状を特徴とする一連の病気だと報告したのです。パーキンソン先生の報告が出ると、多くの医師が「確かにこうした特徴をもつ患者はたくさんいる」と納得をしました。当時は日本ではまだ江戸時代。世界的に見ても臨床神経学はまだ確立されていない時期です。しかもパーキンソン先生は大学の研究者や大病院の医師ではなく、一介の開業医です。自分の能力だけで医療の歴史を変えたことには深い感銘を受けます。なお、パーキンソン先生は多彩な方で、化石の収集や社会評論でも有名だそうです。
ジャン・マルタン・シャルコー:19世紀後半のフランス人医師です。前述のパーキンソン先生の功績を再発見したことでも知られています。「パーキンソン病」と名づけたのもシャルコー先生です。筋委縮側索硬化症や多発性硬化症などの神経難病を数多く発見しています。神経所見の細かな観察と解剖の結果を照らし合わせて体系的に臨床神経医学を確立しています。シャルコー・マリー・トゥースという病気は漫画ブラックジャックにも出てきます。
ロベルト・コッホ:みなさんご存知のドイツの医師です。炭疽菌、コレラ菌、結核菌の発見者です。それまで、なぜ病気が起きるのかがわかっていませんでしたが、コッホの発見によって細菌が病気を引き起こすことがわかったのです。細菌学の始まりです。このことによって、感染防御の概念が生まれ、後の世代には抗生剤やワクチンの発明につながっていきます。ただし、コッホの弟子たちは細菌病因説にとらわれすぎて、脚気や黄熱病の原因を見誤ったこともありました。脚気はビタミン不足、黄熱病はウイルス感染症ですね。
ウィリアム・オスラー:19世紀中ごろに生まれたカナダの内科医です。のちにペンシルバニア大学やオクスフォード大学の教授を歴任しています。多くの病気を発見し、オスラー先生の名前の付いた所見や病気もあります。史上最高の内科医と称賛する人もいます。聖路加の日野原先生が師事したことでも有名ですね。医学的功績も素晴らしいのですが、優れた思想家でもあり数々の名言があります。例えば「診断は患者が教えてくれる。」診断に迷った時には思い出すようにしています。もう一つ「たいていの人は剣よりも、飲みすぎ食べ過ぎによって殺される。」耳が痛い人も多いのではないでしょうか。
上野循環器科・内科医院 上野一弘