月報 「聴診器」 2014/08/01
7月中旬までは雨が多くて比較的涼しかったのに、いきなり暑くなりましたね。熱中症も急増しているようです。エルニーニョ現象で冷夏だとかの話はどこに行ったのでしょうか。
18 生活習慣 ⑦アルコールによる感情障害など
「なぜ、酒なんかのむの?」と、王子さまはたずねました。
「忘れたいからさ」と、呑み助は答えました。
「忘れるって、なにをさ?」と、王子さまは、気のどくになりだして、ききました。
「はずかしいのを忘れるんだよ」と、呑み助は伏し目になってうちあけました。
はずかしいって、なにが?」と、王子さまは、あいての気もちをひきたてるつもりになって、ききました。
「酒のむのが、はずかしいんだよ」というなり、呑み助は、だまりこくってしまいました。
-「星の王子様」から
アルコールは服用すると一時的に気分の高揚や多幸感をもたらします。しかし、場合によっては孤独感や絶望感が増すことがあります。泣き上戸、怒り上戸という言葉もあるぐらいです。また、飲酒習慣が続くと非酩酊時にも気分障害が出ることがあります。些細なことで気分が沈んでしまったり、怒りっぽくなったりすることがあります。感情が抑制できなくなる人も多いようです。
アルコールとうつ病は密接な関係があるといわれています。アルコール依存症では、うつ病の発症リスクが4倍程度に跳ね上がるそうです。ただし、その機序はよく分かっていません。最近では脳の海馬の萎縮が関係しているのではないかといわれています。
また、アルコールは自殺とも関係があるといわれています。自殺した人の37%からアルコールが検出されています。自殺未遂で救急外来を受診した人の40%からアルコールが検出されます。つまり、自殺する直前にアルコールを飲んでいることが多いのです。自殺することを決めてから、死の恐怖を消すためにアルコールを摂取することもあるようですが、未遂者の調査からは飲酒した後に自殺を決断することが多いようです。これは、飲酒が絶望感・孤独感・憂鬱気分を増強するからであろうといわれています。また、アルコールによって攻撃性が高まり、その攻撃性が自分に向けられているためとの意見もあります。
習慣的な飲酒が自殺率を高めるとのデータもあります。アルコール依存症では自殺の危険性が6倍に高くなるそうです。アルコール依存症の診断がされていなくても多量飲酒の習慣があれば自殺の危険性は2.3倍になります。
不眠の解消のためにアコールを摂取する方がいますが、これは逆効果です。アルコールによる酩酊で一見寝つきがよくなったように思えますが、その眠りは浅く、早朝覚醒の原因となります。時にアルコールと睡眠薬を併用する人がいますが、これは大変危険な行為です。相乗効果により一時的な記憶障害や、異常行動の原因となります。認知症発症の危険性も増します。
気分の落ち込みや、不眠の解消のためにアルコールを摂取するのは地獄の悪循環の始まりです。冒頭の「星の王子様」の話は、飲酒による気分障害と、さらなる飲酒による悪循環を見事に表現していると思います。
上野循環器科・内科医院 上野一弘