月報 「聴診器」 2015/07/01
先日、弟がテレビに出ました。夕方の情報番組、ももち浜ストアの「福岡ケンジンを探せ」というコーナーです。弟は石川県輪島で漆器の職人をしています。漆器に細く溝を掘り、金を埋め込んで模様を描く工程です。小さいころから絵をかくのが好きで、たどり着いた仕事でした。いろいろ、苦労は多いようですが、しっかり頑張っているようです。
20 狭心症2 ①狭心症とは
前回、この「聴診器」で狭心症の話を書いたのは、11年前でした。月日が経つのは早いですね!!
狭心症は心臓の代表的な病気です。普段はどうもなくても、発作が出ると胸が苦しくなる病気です。典型的には、階段や坂道を上ると左胸が漠然と苦しくなり、冷や汗を伴います。狭心症の症状はバリエーションが多く、「歯が浮く感じがする。」「胃が痛い」「左手がしびれる」などの症状で発症する場合もあります。発作の出るときも、労作時だけでなく、夜間や早朝安静時に出る場合もあります。
心臓は体中に血液を送っている大切な臓器です。心臓が止まってしまえば生命を維持することができず、死亡します。心臓は筋肉でできた袋になっており、筋肉が収縮すると袋が小さくなって、血液を押し出します。心臓の筋肉が動くためには酸素や栄養が必要です。そのために、心筋を養う血管があります。これが冠動脈です。冠動脈は右に一本、左に二本あり、カンムリのように心臓を取り囲んでいます。冠動脈は、大動脈が心臓を出てすぐの場所から分枝します。右の一本と、左に二本と述べましたが、左の二本は一つ穴から始まり、左主幹動脈を経由して二本に分かれます。つまり、左主幹動脈は心臓の3分の2を養っていることになります。この冠動脈がつまってしまえば、心臓の筋肉は死んでしまいます。これが心筋梗塞です。冠動脈が狭くなって、血流が乏しくなると狭心症になります。安静時は心臓もたくさんは働きませんので必要とする酸素もすくなくてすみます。乏しい血流でも十分まかなえます。しかし、坂道をのぼるなどの労作がかかると、心臓もたくさん働かねばならなくなり、多くの酸素を必要とします。乏しい血流では、この時の需要をまかなえませんので、心臓が苦しくなります。これが狭心症です。
血管が狭くなる原因のほとんどは動脈硬化です。動脈硬化が進むと血管がつまったり、細くなったりします。高コレステロール、高血圧、糖尿病、喫煙など動脈硬化を進行させる病気は狭心症や心筋梗塞の原因となります。しかし、動脈硬化がそれほどなくても、狭心症が起こる場合があります。血管のけいれんによる狭心症です。
血管はただの管ではなく細胞と筋肉でできた臓器です。必要に応じで拡張したり収縮するようにできています。冠動脈の拡張や収縮は血管内皮細胞と自律神経によって調節されています。加齢や喫煙などの影響で、この調節機能が障害されると、何かのはずみで血管が異常に収縮します。場合によってはほとんど詰まったようになり、安静時でも胸が痛くなります。これは、冠攣縮性狭心症と呼ばれます。とくに、自律神経が不安定になる早朝に発作が多いことが知られています。このタイプの狭心症ではニトロなどの血管拡張剤が非常に有効です。
余談ですが、ニトロは、狭心症以外には効きません。不整脈や、喘息などには無効ですので、なんにでもニトロを欲しがらないようにしてください。
上野循環器科・内科医院 上野一弘