月報 「聴診器」 2017/08/01
7月は豪雨で大変でしたね。僕も甘木にボランティアに行きました。今回は医療支援は必要なさそうでしたので、水路の泥出しをしてきました。作業はかなりの街中で、胸の高さぐらいまで水が来ていたそうです。泥は高く堆積していました。水害はどこでも起こりうることを改めて感じました。復興には時間がかかると思いますが、末永く支援をしていきたいですね。
7月15-16日には、岐阜で日本心臓リビリテーション学会が開催されました。当院からは、看護師の田中さんが発表してくれました。自分でデータを分析してスライドを作って、見事な内容でした。当院には、たくさんの有能なスタッフがいます。僕も負けないように頑張らなきゃいけませんね。
24 心不全③ 心不全の検査
症状や身体所見で心不全が疑われれば、検査を行います。まず、一般的なのは心電図と胸部レントゲン写真と心エコーです。心電図では基礎疾患のチェックを行います。不整脈で多いのは心房細動です。心房細動は脈がばらばらに打つ不整脈で、脳梗塞の原因になることが知られています。時に心不全の原因となることもあります。波形の変化から、心筋のダメージを推測できる場合もあります。高血圧や弁膜症が進むと心臓の負担が増して特異的な変化が出ます。忘れてならないのは心筋梗塞です。心筋梗塞は心臓の一部が壊死して心機能が低下する病気で、心不全を起こします。心筋梗塞を発症すると激しい胸の痛みを感じますが、時々胸痛がないまま心筋梗塞を発症している場合があります。こうした、胸痛がない心筋梗塞は高齢の方や糖尿病の方に多いといわれています。心不全を発症して受診し、心電図をとって初めて心筋梗塞とわかったケースもあります。
胸部レントゲン写真では心臓の大きさや、肺のうっ血を見ます。肺は空気が充満した組織なので、レントゲンでは黒っぽく写ります。心不全のために肺がむくむと、肺胞の壁の水分が多くなります。このため、レントゲン写真では肺が白っぽくなります。時には、肺と胸郭の隙間に多量の水がたまることもあります。これは胸水と呼ばれ、レントゲンでは肺の下側の白いスペースとして観察されます。
心エコーでは心臓の大きさや動きが観察できます。ドップラー法を使用すれば弁膜症のチェックもできます。基礎心疾患のチェックのためには欠かせない検査です。肺の血圧や静脈のうっ滞を見ることもできるので心不全の状態の把握も可能な検査です。
採血検査では、基本的な肝機能腎機能などをチェックします。特に、貧血と腎不全は心不全の悪化要因なので重要です。まれに、甲状腺機能亢進症が心不全の原因のこともあります。BNPは良く測定します。BNPは心臓から出るホルモンの一種で、心臓に負担がかかると多量に放出されます。20pg/ml以下が正常とされていますが、臨床的には80pg/ml以上で心不全があると考えます。BNPは個人差が大きく、BNPが高い=重症というわけではありません。ただし、同一の患者さんでBNPが高いほうに変化する場合は、心不全が悪化していると考えます。
運動負荷検査では、虚血性心疾患や運動耐容能のチェックを行います。呼気ガス分析を併用した心肺運動負荷検査では最大酸素や無酸素運動閾値がわかり、心臓に無理が来ない運動量などがわかります。当院でも数年前から心肺運動負荷検査を行っていますが、見た目以上に「体力」が低下している患者さんを発見することができ、病態の把握に有用だと感じています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘