月報 「聴診器」 2017/11/01
10月28日-29日には鹿児島で心臓リハビリテーション学会の九州地方会が行われました。ちょうど台風が来てしまいましたが、何とか無事に開催されました。僕も発表演題があり、スタッフ数人と参加しましたが、興味深い演題を聞くことができ、今後のリハビリテーションのヒントをたくさんもらいました。スタッフも熱心に勉強していましたよ。僕の演題は「右心機能と運動耐容能」というものでした。大学の先輩に座長をしていただきましたが、「レベル高い内容だけど、マニアックだね」とお褒めの(?)言葉をいただきました。
24 心不全⑤ 心不全の治療 生活習慣
前回まで心不全治療についてのお話をしてきました。ACE阻害剤やベーターブロッカーの導入で心不全の治療は劇的に改善しました。しかし、どんなに薬をつかっても生活習慣が悪ければ、心不全はどんどん悪化してしまいます。逆に生活習慣が改善すれば予後も改善します。
生活習慣でまず大切なのは減塩です。塩分摂取量が多くなると、腎臓や心臓に負担がかかります。血圧も上がり、心不全が悪化しやすくなります。実際、入院して病院食を食べているだけでも血圧が下がり心不全も軽快します。病院食は塩分が少ないからですね。入院中に状態が良くなれば不要な薬は減らしていきますが、退院してすぐに心不全が悪化することもあります。これは、退院して食事が元に戻り、塩分量が増えるためです。
現在、日本人の平均塩分摂取量は11g/日程度と言われています。高血圧の人では6g以下が目標となっています。心不全があれば4g程度にすべきとの意見もありますが、現実的には非常にむつかしい目標だと思います。普通に生活をしている日本人が塩分6gの食事にすると、非常に薄く感じます。4gではほとんど味を感じなくなります。はっきり言えば、まずいわけですね。特に高齢者では、現代よりも塩分が濃い時代の影響を受けており、若年者よりも塩分が濃い食事が普通になっています。さらに、高齢になるにしたがって味覚が衰え、より濃い塩分でないと感じないようになってきます。高齢になればなるだけ、減塩の指導はむつかしいと感じます。
多くの患者さんは「減塩はしています。我が家の味付けは薄味です」と言われます。しかし、実際に食べているものを調べるとかなり塩分をとっています。病院食と比べてみるとその差は歴然とすると思います。よく「病院食はまずい」と言われますが、その主たる原因は塩分を減らしているためでしょう。漬物、お茶漬け、鍋物、梅干し、昆布茶、お寿司、明太子は要注意です。
アルコールについては微妙です。少量であれば、あまり心不全に悪影響を与えません。多量にとれば、直接的に心筋を傷害し、心不全は悪化します。毎晩飲むのはやめた方がいいでしょう。タバコは直接的に心機能を低下はさせません。しかし、呼吸機能を低下させるため間接的に心不全を悪化させます。また、動脈硬化を促進するので、心筋梗塞や狭心症の引き金となります。
是非行ってほしいのは体重を測定する習慣です。心不全が悪化し入院する際には、重症化する数日前から体重が増加することがわかっています。大体、安定時よりも2-3kg体重が増えると入院が必要な状態になりますが、1kg増えた時点で治療介入できれば入院や死亡を避けることができます。心不全が増悪する因子としては、塩分過多が最も多いので、体重が増えてきた時点で食生活を見直すことが大事です。それでも体重が減らなければ、症状がなくとも受診をしてください。
上野循環器科・内科医院 上野一弘