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月報「聴診器」 3月号発行しました!

月報 「聴診器」 2019/03/01
今年のインフルエンザは一気に広まって、一気に下火になった印象です。基本的に暖冬だった影響かもしれません。香港型とN1H1型が大部分を占めたようですが、これは両方ともA型になります。例年2月ごろまでピークがずれ込みますが、今回は圧倒的にA型が多く、一気に来たのが特徴的です。しかし、以前には3-4月にB型が流行った年もありました。引き続き感染防御は続けた方がよいでしょうね。

26 循環器トピックス⑤  癌治療関連心筋障害
循環器の分野は20年前ぐらいに、次々とイノベーションが行われ、急激な進歩を遂げました。しかしこの10年では進歩は比較的ゆっくりです。一方ここ10年ぐらいでの癌治療、特に抗がん剤の進歩には目を見張るものがあります。特定の異常タンパクをターゲットにした分子生物学的製剤は数々の偉業を成し遂げています。その結果、癌に罹患しても比較的長期の予後が期待できるようになってきました。
そのためか、逆に治療に伴うダメージにも注目が集まっています。ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系の抗がん剤では10%前後に重篤な心筋障害を起こすことが知られています。これは急性期、亜急性期、慢性期の3つのフェーズで見られます。抗がん剤投与後すぐに心毒性が起きる場合は、心不全や不整脈などで発症し予後不良です。しかし、癌の生命予後改善とともに問題になるのは慢性期における心毒性です。これはアントラサイクリン系抗がん剤投与後1年以上経過してみられる心毒性です。症例によっては10-20年後に発症することもあります。心筋細胞が壊死し、左室収縮が著明に低下し、心不全症状を呈するようになります。発症にはアントラサイクリン系抗がん剤の総投与量が関係しているといわれています。700mg/m2以上の投与では慢性期心毒性が40%以上に発症するとの報告もあります。無治療で経過した場合の予後は不良ですが、早期に発見し、治療介入できれば予後は改善できるようです。このため、アントラサイクリン系抗がん剤を使用した場合には時々心臓の検査を行い、早期に異常を見つけることが大事になります。僕は定期的に心エコーを行うのが良いと思います。
最近、話題なのはトラスツズマブです。難治性の乳がんや胃癌ではHER2と呼ばれる異常タンパクが多くみられます。この異常タンパクは癌細胞増殖を促し、急激な腫瘍増大をもたらします。トラスツズマブは選択的にHER2にくっつき無効にすることができます。効果は劇的でHER2(+)タイプの癌の治療にはなくてはならない薬となっています。これまでの抗がん剤はすべての細胞を攻撃していました。癌細胞は増殖が盛んなため、正常細胞よりもダメージが大きくなるのが抗癌作用の機序でした。心毒性もその影響の一部と考えられていました。他方、トラスツズマブは選択的に異常タンパクを阻害するため、正常細胞には無害で、心毒性はないものと期待されていました。しかし、投与した症例が多くなってくると1%程度に心不全を発症することが分かってきました。ただし、トラスツズマブを中止すると正常化することも多く、心筋障害の機序はアントラサイクリン系抗がん剤のような不可逆的な心筋障害ではないのではないかと考えられています。この場合も早期発見、早期対応が大事になります。
これらの問題は軽視すべきではありませんが、逆にいえばそれだけ抗癌剤の生命予後改善効果が絶大なのだろうと思います。              上野循環器科・内科医院  上野一弘

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