月報 「聴診器」 2019/10/01
9月にはラグビーワールドカップが始まりました。直前の親善試合では心配材料も多かった日本代表もここまで2連勝です。特にアイルランド戦での勝利は素晴らしかったですね。テレビで見ていたら、思わず「ウォーっ」と叫んでしましました。
後半のトライを決めた福岡竪樹選手は福岡高校の出身です。昨年末で閉院された崎村先生のお孫さんに当たります。地元にゆかりのある選手の活躍はとてもうれしいですね。
27 高血圧
前回、月報で高血圧について書いたのは平成19年でした。12年前ですね。月日が経つのは早いです。この間に、ガイドラインも変わりましたので再度書いてみたいと思います。
日本全国では4300万人の高血圧患者さんがいるといわれています。平成19年には3500万人と書いていましたので、12年で800万人増えたということですね。このうち、治療を受けているのは2450万人ほどで、のこりの450万人は高血圧を放置しており、1400万人は高血圧と思っていないようです。確かに、高血圧を放置して、心不全や腎不全を発症して病院に来る方も少なくありません。また、高血圧と分かっていても降圧薬に対して過度にネガティブなイメージを持っている方も多くいらっしゃいます。日本での脳心血管病死は年間10万人といわれていますが、高血圧はその最大の原因となっています。きちんと治療したほうがよいでしょう。では、なぜ高血圧患者さんはこんなに多いのでしょう?それは塩分のためと考えられています。
生命は今から約35億年前に海で誕生したといわれています。海には塩分が豊富にあり、生物はこの塩分を使って生命を維持し活動してきました。それは、単細胞生物から、魚のような複雑な生物になっても続いていました。この時代の生物は、海水から塩分を十分に摂取でき、そのまま排泄していました。ところが、生物が陸上に上がってくると事情が少し違ってきます。陸上には塩分はほとんどなかったのです。そこで、生物は塩分を大切に使う仕組みを発達させたと考えられています。本来腎臓から出て行く塩分を途中で再吸収する仕組みです。少量の塩分摂取で生きられるようになった陸上生物は、その後大繁殖をします。
しかし、我々人類が誕生し文明を生み出すと事情が異なってきました。塩分は生物にとって大切なものです。生物は必要なものをおいしく感じるようにできています。当然、塩分も大変おいしく感じます。お肉でも、野菜でも、穀類でも塩をかけるととてもおいしくなります。おいしいものは沢山欲しくなりますよね。人類は文明の発達によりいつでも食塩が手に入るようになり、沢山塩分をとるようになりました。しかし、体の仕組みは原始人のころとあまり変わっていませんので、必要以上の塩分を摂取することとなってしまいます。過剰な塩分は、循環血漿量の増加となり、血圧の上昇をもたらしてしまいました。逆にニューギニアの奥地などで文明の恩恵を受けていない集団では、塩分摂取量が極端に低く、高血圧症もほとんどいないといわれています。
文明が発達した現代では、いまさら塩分の少ない生活には戻れません。しかし、世界的にみて日本の塩分摂取量は高くなっています。日本では平均で12g/日も摂取しています。厚生省は1日の塩分摂取量を8g以下にするように奨励していますが、なかなか進んでいません。
上野循環器科・内科医院 上野一弘