月報 「聴診器」 2023/12/01
これを書いているのは11月の末ですが、インフルエンザが猛威を振るっています。医師会からは毎日のように学級閉鎖・学年閉鎖の報告がされています。当初は福津が中心でしたが、11月後半からは宗像市内でも学級閉鎖が多くなりました。コロナ禍では子供たちもマスクをして過ごしていたので、インフルエンザやほかの感染症が流行しませんでしたが、その分免疫が低下していたのかもしれません。今更マスク生活に戻るのに抵抗を感じる方も多いと思いますが、感染症の流行時期はマスクや手洗いで身を守ることは有効だと思います。
また、急に寒くなってくると血圧も上がり、心臓発作や脳出血、大動脈瘤破裂が増えてきます。これらの疾患は致死的で重篤な後遺症を残しますが、血圧を下げていればある程度は防げます。
32 検査2 心電図検査②
前回は心電図検査の話をしました。これは一般的な12誘導心電図の話をしましたが、ほかにも応用的な心電図検査があります。
ホルター心電図は長時間記録できる心電計です。普通の心電図では10-30秒程度しか記録ができないため、発作的な疾患の検出には向いていません。ホルター心電図はカードぐらいの大きさの記録機を携帯していただき、24時間の心電図を記録できます。装着中に異常が出れば診断が可能になります。ただし、装着中にイベントが起きなければ診断はできなくなります。最近では記録できる期間を2週間まで延長した機種も出てきているので、こうしたものを使えば検出能力は上がります。失神などの重篤なイベントで、どうしても検出がむつかしい場合には、植え込み型の記録装置を使用する場合もあります。これは、胸部の皮下に5cm弱の記録装置を植え込みます。装置はループ型デジタルメモリーで心電図を記録し、必要に応じて磁気を介して情報を体外に取り出せます。僕が医者になったころは、ホルター心電図は弁当箱ぐらいの大きさで。記録媒体はオープンリールのテープでした。それが今では植え込みが可能になるまで小さくなっています。技術の進歩は素晴らしいですね。ちなみに、ホルター心電図の「ホルター」は、機械を開発したDr. Holterからきています。時々「ホルダー心電図」と間違って覚えている人がいますので注意してください。
加算平均心電図というものもあります。心電図の波形を300個ぐらい重ねると小さな波形が見えるようになります。この時、電位を二乗して電位をすべてプラスの値にして加算しているのが工夫ですね。心筋に障害があり電気の流れが遅延している部位があれば、これが重症不整脈の原因となることがあります。加算平均心電図では障害電位を心室波形後の微小電位(late potential)として検出できます。
ベクトル心電図は3次元的に心臓の電気的活動を見る検査です。ある時間における心臓の電位は方向と量を持つベクトルとして表せます。このベクトルの先端は経時的に3次元空間内を移動します。ベクトルの先端部分の軌跡を表したものがベクトル心電図です。なんだかすごそうな検査ですが、臨床的に行っている施設はあまりありません。
マッピング心電図はさらにマイナーな存在です。体表面に50-200個の電極を貼り、より詳細に心臓の電気的活動を記録する装置です。大きな病院でも行っている施設はわずかで、存在を知らない医師も多いと思います。
上野循環器科・内科医院 上野一弘