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聴診器

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月報「聴診器」9月号発行しました!

月報 「聴診器」 2019/09/01
今年はめまぐるしい夏でしたね。雨の7月が終わって、8月は暑い幕開けとなりました。しかし、意外に短い夏でしたね。月末には大雨などで急に気温も下がりましたね。月末には雨の中、強引に「ゆーゆープール」に行きましたが、閑散としたなか、寒さに耐えて泳ぎました。9月はどうなるか、まったくわかりませんね。

26 循環器トピックス⑩ おまけ 分子生物学的治療について
今回は、循環器トピックスではなく、医学界で大ブームの分子生物学的治療についてです。分子生物学とは、生物を化学物質の総体として考える学問です。ワトソン/クリックがDNAの二重らせん構造を発見したのは50年以上前ですが、当初はたんぱく質や遺伝物質の構造解明や作用機序の理解が中心でした。その後、徐々に進歩を遂げ、遺伝子診断やゲノム解析などが行われるようになっています。また、遺伝子を編集することや、特定のたんぱく質を阻害する物質を作ることも可能になっており、新しい治療が続々と登場しています。昨年、ノーベル賞を受賞された本庶祐先生の活躍も記憶に新しいと思います。
この分野は、まず抗がん剤の進歩をもたらしています。例えば、慢性骨髄性白血病は長らく不治の病でしたが、今や治療可能な病気になっています。慢性骨髄性白血病では特殊な染色体変異が特殊なたんぱく質を作りますが、このたんぱく質が骨髄の細胞を刺激し、異常白血球を増やしていきます。グリベックという薬はこのたんぱく質を阻害する作用があります。この薬を飲むことで慢性骨髄性白血病はコントロール可能な病気となりました。また、乳がんに対するハーセプチンや悪性リンパ腫に対するリツキサンなども特定のたんぱくを阻害することで劇的な効果を上げています。がん細胞は、血管新生因子を放出して自分を養う血管を作ることをします。アバスチンはこの血管新生因子を阻害する薬です。この薬を併用することで固形がんの治療成績も改善しています。本庶先生たちはPD-1という白血球細胞表面分子を発見しています。ある種のがん細胞はPDL-1というたんぱく質を発現し、PD-1にくっつきます。するとがん細胞は、生体の免疫システムをだまして、攻撃をすり抜けることができます。ニボルマブという薬はこのPD-1を阻害して、がん細胞が免疫をだませないようにします。
がん以外には、リウマチや膠原病に対する薬もたくさん開発されています。これらの病気にはTNFやIL-6といった炎症性サイトカインがかかわっています。最近ではこれのサイトカインにたいする抗体が開発され、治療効果を上げています。
そのほかにも、C型肝炎の治療薬、骨粗しょう症のくすりなどあらゆる分野で分子生物学的製剤は成功を収めています。今年には、人工的に改造された、いわばサイボーグ白血球による治療も認可されています。学生のころは、臨床とは程遠い学問と思っていた分子生物学ですが、今やこんなにも花開くとは、僕には想像できませんでした。
ただし、循環器の分野ではあまり分子生物学的治療は活躍できていません。コレステロールを減らすPCSK9製剤があるぐらいです。少し悔しい気もしますが、これからの進歩に期待したいと思います。                       上野循環器科・内科医院  上野一弘

 

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