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月報「聴診器」12月号発行しました!

月報 「聴診器」 2025/12/01

今年は比較的早めにインフルエンザが流行しています。そのせいか、例年になくインフルエンザワクチンの希望が多かったようです。昨年よりも多めにワクチンを準備しましたが、すでに予約でいっぱいになってしまいました。すいません。

書評 ⑦ 『奏鳴曲(ソナタ)』海堂尊

今回取り上げるのは、医師であり『チーム・バチスタの栄光』などの医療ミステリーで知られる海堂尊氏の『奏鳴曲(ソナタ)』です。海堂氏は医療制度や医学史への深い問題意識を背景に、フィクションの枠組みを使って現代にも通じるテーマを描く作家ですが、本作でもその持ち味が存分に発揮されています。前作『白い航跡』では脚気論争をめぐる森鷗外の姿が厳しい筆致で描かれていましたが、本作はその延長線上にあり、北里柴三郎と鷗外の対比をさらに鮮明に浮かび上がらせています。

北里柴三郎は、2024年から新しい千円札の肖像となり、皆さんもなじみ深い人物と思います。熊本県小国町出身で、熊本医学校から東京大学医学部へ進み、さらにドイツに渡ってロベルト・コッホの研究室で世界的な業績を挙げました。破傷風菌の純粋培養などの成果は、当時の医学界を驚かせ、ノーベル賞最終候補にも挙がるほどの実力だったそうです。帰国後は伝染病研究所(のちの医科研)を創設し、日本の感染症学や公衆衛生の基盤を築きました。また、慶應義塾大学医学部の設立、日本医師会初代会長としての活動など、研究・教育・行政のすべてに足跡を残した医学界の巨人です。さらに、北里がマンスフィールドやコッホなどの恩師を生涯大切にし続けた点は、彼の人柄をよく示していると感じました。

一方の森鷗外(森林太郎)ですが、こちらは前回の月報で扱った『白い航跡』でその“官僚としての顔”がかなり厳しく描かれていました。本作では森の人生にも光を当て、その秀才ぶりや論戦好きな面を詳しく描写しています。さらに、脚気に対して細菌説に固執し、陸軍で多数の犠牲者を出してしまう様子を赤裸々にされています。

この二人は東京大学医学部で在学期間が重なっていたそうです。その後も、内務省衛生研究所やドイツ留学でつかず離れずの関係が続きます。脚気や感染研究所の主導権争いでは激しく対立する二人ですが、それだけではなくある時期には協力したり認めあったりする姿が物語に深みを与えています。まさに『奏鳴曲』にふさわしい内容です。ただし、森に対して扱いはやや厳しい過ぎるように感じました。脚気論争では政治的思惑から細菌説にこだわったように描かれ、ドイツで知り合った恋人エリスを捨てるくだりでは残酷なエゴイストとして描写されています。もちろん、北里に対しても結核治療の失敗や艶福家であった面も取り合えていますが、医師としても人間的にも北里に軍配を上げているように感じました。

本作ではこの二人のほかにも福沢諭吉や後藤新平など明治の魅力的でエネルギッシュな人物が登場します。医学史に興味がなくとも純粋なエンターテインメントとしてもおすすめできる作品です。

上野循環器科・内科医院  上野一弘

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