月報 「聴診器」 2011/07/01
当院は平成15年7月に父の「上野内科医院」を継ぐ形でスタートしました。早いもので8年もたちます。その間、来院される方の数も、一人一人の情報も増えてきました。スペースの狭さについては一昨年に新診療棟を建てることで対処しました。情報量への対処としては、この7月から電子カルテを導入することとしました。
情報の電子化には、良い面もあれば、悪い面もあります。情報を形通りに処理するのは得意ですが、柔軟な対応は苦手のようです。特に、我々のように初めて電子カルテを使用するケースではうまくいかないことも多いと思います。しばらくは、診察や会計処理に時間をいただくかもしれません。
13 検査 ⑦放射線検査 CTスキャン
前回はX線検査について説明しました。X線検査を劇的に改善した検査がCTスキャンです。CTスキャンはComputed Tomographyの略で、コンピューターを使用して体の断面写真を構成する方法です。1971年、ハウンズフィールドとコーマックによって発明されました。彼らはノーベル医学賞を授与されています。
体のまわり180度からX線をぐるりと照射し、対側でX線吸収値を測定します。体の断面を多数のブロックに分け、それぞれのX線吸収値を仮想し演算を組み立て、コンピューターで計算をします。各ブロックのX線吸収値がわかれば、それを画面に再構成します。こうして、体の輪切りを見ているような画像が得られます。こうすると、骨などは白く描出され、水や空気は黒っぽく描出されます。
CTを使用すると、構造的な異常がよくわかるようになります。脳や肺の異常もよくわかるようになります。特に脳外科では、出血や腫瘍の早期診断に大変有用です。ずっと昔は神経所見だけで腫瘍の場所を見つけていたそうですが、さぞ大変だったろうと思います。造影剤を使用すればさらに詳細な情報が得られます。造影剤はX線吸収値が高い薬剤で、CTでは白く写ります。このため、造影剤を使用すると血管が白く写ります。血管の大きさや、走行がよくわかります。たとえば、動脈瘤のチェックなども可能になります。血流が豊富な部分は白っぽく写ります。たとえば腫瘍が見つかった時に、造影検査をすると腫瘍が血流の豊富なタイプか、血流の乏しいタイプかがわかります。白くなり具合によって腫瘍の種類がわかることもあります。また、造影剤を流してからCTをp撮るまでの時間を変えることで、異なる画像を得ることもできます。最初は動脈が白く写り、組織が白くなり、最後に静脈が白くなります。異なる画像を調べることで、異常の検出力が上がります。
CT機器の進歩は目覚ましいものがあります。最近では一度で複数のスライスを撮影する方法が可能になっています。この方法を使用すれば、撮影時間は短くなり、画像は精密になります。画像を重ね合わせて三次元的に表示する方法も可能です。頭蓋骨のように複雑な構造物も、三次元表示をすることで、異常がわかりやすくなります。心臓のように動く臓器でも詳細な構造がわかります。以前は狭心症の精密検査のためにはカテーテルで冠動脈造影検査をしていましたが、今ではある程度まではCTで分かるようになってきました。症例や病院によってはまずCTで冠動脈の検査をしたうえで、狭心症が疑わしい場合にだけカテーテル検査をするようになってきています。当初は16列同時撮影の装置でしたが、最新式の機種では320列同時撮影のものも出てきています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘