月報 「聴診器」 2013/04/01
一気に春になりましたね。暖かくなって体調がよくなるかと思っていましたが、今年はそうでもないようです。インフルエンザはかなり減りましたが、肺炎などの呼吸器疾患の方が増えた印象があります。また、一時下火になっていた感染性腸炎も再び増えてきています。もともと、春は気分の変調を訴える方が多い時期ですが、今年はより慎重になる必要がありそうです。
16 不整脈2 ⑦危険な不整脈 心室頻拍
これまで説明してきた頻拍症は動悸をおこしたり、心不全や脳梗塞の原因となったりするものでした。それは、それで注意すべきことですが、発症してすぐ命にかかわるものではありません。しかし、不整脈の中には即、命にかかわるものがあります。
心室頻拍は危険な不整脈の一つです。メインポンプである心室で異常な放電が発生し心拍が早くなります。動悸や胸痛を自覚したり、失神を来すこともあります。最悪の場合は突然死をおこします。心室頻拍の原因として心筋障害がある場合とない場合があります。心筋障害とは心筋梗塞などで心室の筋肉がいたんでいる状態です。例えば、心筋梗塞では心筋の一部が壊死しています。正常心筋は電気を流す性質がありますが、壊死した心筋は電気を流しません。また、障害は受けたけけど完全には壊死していない心筋では電気はゆっくり流れます。心筋梗塞を起こした部位では一様に心筋が壊死をしているわけではありません。完全に壊死した心筋と障害は受けたけど完全には壊死してない心筋が複雑に混ざっています。この配置によっては電気がグルグル回ることがあります。以前に述べたリエントリーが起きるわけです。この狭い部位で起こった異常旋回電気信号が正常心筋に伝わると心室が収縮し心室頻拍を起こします。拡張型心筋症や肥大型心筋症などでも同様の機序で心室頻拍が起こります。場合によっては一分間に200回転以上の異常放電が発生し、とても早い心室頻拍が起きることがあります。心筋障害が有れば元々の心機能が低下していることも多いので、心室頻拍があまりに早いと心室収縮が追いつかず、十分な心拍出量が確保できなくなります。こうなると、脳血流が足らなくなり意識を失います。更に、心拍出量が乏しくなれば、呼吸が停止し、そのうち心臓も止まってしまいます。
明らかな構造的な異常がなくても電気の流れ方に微妙な異常がある病気もあります。QT延長症候群では電気の流れ方にばらつきがあり、電気が流れきってしまった心筋との間で珍しいリエントリーが起きる場合があります。この時には波形が次々に変化するような「トルサル・デ・ポアン」と呼ばれる特徴的な心室頻拍が起きます。カテコールアミン感受性多形性心室頻拍症(CPVT)では運動時に心室頻拍が起こることが知られています。これらのタイプの心室頻拍も失神や胸痛の原因となります。自然停止することが多いのですが、まれに突然死を起こすこともあります。
心筋障害がない場合には、少し場合が異なります。例えば、右脚ブロック左軸偏位型心室頻拍症では正常伝導路の一部が電気的旋回路に含まれています。また、女性に多いタイプの右室流出路から起こる心室頻拍がありますが、これは電気的興奮の名残が次の電気的興奮を起こす「トリガード・アクティビティ」という機序によるものです。これらのタイプでは、意識が遠くなることはありますが、突然死を起こすことはほとんどありません。なお、このタイプの心室頻拍ではカテーテルによる治療が有効なことが知られています。
上野循環器科・内科医院 上野一弘