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  • 月報 「聴診器」 2012/10

    月報 「聴診器」 2012/10/01

    夏が過ぎたら、急に涼しくなってきました。朝晩は寒いくらいですね。風邪で受診する人も急に増えた感じがします。

    インフルエンザの予防接種を10月中旬から行う予定です。早い時間は込み合いますので、申し訳ありませんが11時から接種をさせていただくつもりです。予約制ですので希望の方はスタッフに声をかけてください。

     

    16 不整脈2 ①正常の心臓

    平成16年からこの「聴診器」は書き始めました。病気や医学のことをできるだけわかりやすく説明できたらいいなと思っての試みでした。8年たって僕の分野のことはだいたい書いた気がします。ただし、今初めのことを読み返してみると、書き足りてないことも多々あるようです。今回からは以前に書いた内容をセルフカバーしてみようと思います。最初は不整脈の話です。

    正常の心臓は胸の真ん中に位置しています。こぶしぐらいの大きさでやや左に傾いています。上部は背側に位置し食道と接しています。下部は前方にせり出しています。胸骨のやや左側に拍動をふれることができます。右心房、左心房、右心室、左心室の4つの部屋に分かれています。足や腹部からの血液は体幹背側やや右よりの下大静脈をとおって右心房に流れます。頭や腕の血液は胸部背側やや右にある上大静脈をとおって右心房に注がれます。血液は右心房から右心室へ運ばれ肺動脈をとおって肺で酸素をもらいます。その後、肺静脈から左心房に入り左心室から全身に血液が送られます。この流れで分かるように、右心房と左心房は心室に血液を送り込む補助的な役割しか果たしていません。血行動態的に主たるものは心室です、さらに言えば、肺循環と体循環では負荷量が大きく異なりますので、心臓のかなめは左心室といえます。現に、心房が停止してもそれ程大事には至りません。また、特殊な手術で右心室を飛ばしても生命の維持は可能とわかっています。逆に左心室が止まれば、心房が動いていても死亡します。

    心臓は全体してみれば筋肉でできた袋になっています。筋肉は電気が流れると収縮します。心臓では規則的に電気が流れることで、正常な心拍を刻んでいます。右心房の上部に「洞」と呼ばれる部位があります。この洞に、自律的に放電をする細胞群があります。これは「洞結節」と呼ばれます。洞結節で放電が起これば電気は心房壁を伝わり、右心房と左心房に流れます。ここで心房が収縮をします。しかし、心房と心室の間には絶縁体が挟まっており、直接心筋を通じて心房と心室の間に電気は流れません。心房と心室の間には「房室結節」という中継点があり、ここをとおって電気は心室に伝わります。房室結節からはプルキンエ繊維という電線のようなものが数本出ており、電気はまずここを流れます。その後、ほぼ同時に心筋に電気が流れ心室が収縮します。電気は洞結節>>心房筋>>房室結節>>プルキンエ繊維>>心室筋と流れていきます。洞結節は定期的に放電をしていますので、心臓は心房>>心室の順に規則正しく収縮をしています。

    洞結節は固有のリズムで放電をしています。しかし、自律神経やホルモン、薬物などもリズムに影響を与えます。緊張したり、運動をすると交感神経が高まり放電のリズムが速くなります。逆に安静時や睡眠中はリズムは遅くなります。大きく息を吸って止めたり、顔を水につけてもリズムは遅くなります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/09

    月報 「聴診器」 2012/09/01

    暑い夏もやっと終わりが見えてきました。危惧されていた電力不足も何とか乗り切れそうです。計画停電も実施されずに済みました。皆さんの節電努力のおかげだと思います。また、忘れてならないのは大飯原発です。再稼働のおかげで関西地区の電力に余力ができ、中国四国地方から九州への電力供給が確保できたようです。再稼働には多くの反対意見がありましたが、再稼働のおかげで夏を乗り切れたことは事実と思います。福井県の決断には頭が下がります。

     

    15 医師列伝④

    前回までは医学全体に功績のあった人物を紹介していました。今回は、不整脈界の有名人を紹介します。僕には面白い話ですが、皆さんには全く役に立たない知識と思います。

    セニング:アメリカの心臓外科医です。房室ブロックや洞機能不全症候群では失神を繰り返すことがあります。特に有効な薬物療法ないため、昔は寝たきりの生活を余儀なくされたそうです。1958年にセニング先生が植え込み型ペースメーカーを初めて臨床的に使用しました。これによって、重度の不整脈があっても、通常の生活ができるようになりました。

    シュワルツ:心臓の筋肉には電気が流れています。これは細胞膜にある小さな穴をナトリウムイオンやカリウムイオンが出たり入ったりすることで伝わっていきます。この穴に異常があると電気の通り方がおかしくなり、重度の不整脈が出現します。この穴の特性についてよく調べ、QT延長症候群という病気の発症原因について、美しく解説し分類してくれたのがシュワルツ先生です。シュワルツ先生の仕事をきっかけに様々な病気の原因が解明されつつあります。

    ブルガダ兄弟:ホセ、ペドロ、ラモン3人兄弟です。1992年にホセとペドロの連名で突然死に関する論文を発表しました。心臓病の既往がないのにもかかわらず突然死をおこした症例の中に、特徴的な心電図変化を持っている人が多いとの報告でした。これは今では「Brugada症候群」とよばれ、突然死を起こす疾患として知られるようになりました。20世紀も終わり近くになり、心電図変化だけを指標に新しい病気を発見したことは驚きをもって受け止められました。なお、兄弟はそれぞれ世界的に活躍していますが、混同されることが多いそうです。一度、「我々を混同しないで」との論文が医学の一流誌に載ったこともあります。

    コックス:心房細動という不整脈があります。罹患患者も多く、中には薬が効かないこともあります。僧房弁狭窄症などの弁膜症に合併しやすいことも特徴です。1991年にアメリカのコックス教授が心房に切開線を入れることで、心房細動を治療する手術を開発しました。迷路のように切るのでMAZE手術と名付けられました。今ではカテーテル手術が進歩して、MAZE手術を単独で行うことは少なくなりました。ただし、心房細動を合併した弁膜症の手術では、MAZE手術が並行して行われています。

    熊谷浩一郎:修猷館高校の出身です。前述の開胸的心房細動手術と並行して1990年代から心房細動のカテーテル手術を研究しはじめ、この分野では日本の第一人者と言われています。以前は、心房細動に対するカテーテル手術は、可能性も需要もないと思われていました。ところが、熊谷先生やフランスのハイサゲール先生が手術方法を確立すると、瞬く間に世界中に広がっていきました。今では、症状が強く、薬が効きにくい症例に対してはカテーテル治療が勧められています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/08

    月報 「聴診器」 2012/09/01

    暑い夏もやっと終わりが見えてきました。7月中旬から急激に暑くなりました。節電の影響もあってか、熱中症が急増しています。全国的には死者も出ているようです。高齢者の方々にはもちろん注意が必要ですが、若い方にも熱中症はみられます。屋内のスポーツでも発症することは珍しくありませんので、水分摂取は十分に行ってください。

     

    15 医師列伝③

    前回までは歴史的な医師を紹介しました。今回は現代の著明人を紹介します。ただし、僕の独断で選んでいますので、人選にすごく偏りがあります。すいません。

    ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック:いわずと知れた、DNA二重らせんモデルの発見者です。厳密には医師ではなく生物学者ですが、医学部では必ず教わる人物です。クリックはもとは物理学者でしたが、戦後に生物学に転向しています。その後、若いワトソンとともにDNA二重らせん構造を発見し名声をえます。なお、DNA三次元構造の解析にはX線解析という方法が用いられていますが、この解析法にはロザリド・フランクリンという女性物理学者が多大な貢献をしています。

    バリー・マーシャル:オーストラリアの医師で、ピロリ菌の発見者です。ある患者さんたちが抗生剤を飲んだ後に胃の調子がよくなると話したのが発見のきっかけだそうです。そこで、ピロリ菌の培養同定を行い、細菌感染が胃潰瘍の原因であるとの仮説を立てました。しかし、当時は、ストレスなどによる胃酸過多が胃潰瘍の原因であると考えられていました。そもそも、たんぱく質を溶かす胃酸のある中で細菌が活動しているとは考えられませんでした。そこで、マーシャル先生は、ピロリ菌を自分で飲みこんで、自ら胃潰瘍を発症させたそうです。後年、ピロリ菌仮説は実証され、胃潰瘍治療を一変させました。2005年にノーベル賞を受賞しています。

    スタンリー・プルシナー:狂牛病の原因が「プリオン」であることを発見した生化学者です。狂牛病は牛が歩けなくなる病気として有名ですが、人間にも同じような病気があります。代表的なものはクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)です。CJDでは脳がスポンジ状になり、体が思うように動かなくなります。そのうち、思考や認知機能も侵され死に至ります。長らく狂牛病やCJDでは原因がわかっていませんでした。感染性疾患のようですが、感染から発症までが非常に長く、原因となる細菌やウイルスも発見されていませんでした。プルシナーは長年の努力で、異常たんぱくが発症原因であることを突き止めます。異常たんぱくは、正常生体内にあるたんぱく質とほぼ同じような形をしています。生体に異常たんぱくが入ると、正常たんぱくも変性し、互いにくっついて蓄積していきます。これが結晶になり脳を破壊しているのです。異常たんぱくはプルシナーが「プリオン」と名付けています。

    遠藤章:日本の生化学者で、コレステロール降下薬の発明者です。もともと、菌の研究をしていたそうですが、アオカビからコレステロール合成を阻害する物質を発見します。この物質からコレステロール合成阻害薬:スタチンが開発され、動脈硬化治療を飛躍的に進歩させました。今ではスタチンは世界で一番売れている薬となっています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/07

    月報 「聴診器」 2012/07/01

    新聞等でもご存知と思いますが、九州電力から夏の計画停電の可能性について広報が出ています。電力がひっ迫すれば、60のサブグループごとに計画停電を実施するそうです。当院でもできる限りの対応をするつもりですが、最悪の場合は臨時休診もあり得ると思います。

     

    15 医師列伝②

    前回は海外の有名な先生を紹介しましたので、今回は日本の医師を紹介します。

    高木兼寛:宮崎県出身の医師で、明治初期に活躍しました。鹿児島医学校をへてイギリスに留学し、帰国後海軍軍医となります。明治初期に日本の医学はドイツ医学へ傾倒しますが、そのためイギリス医学を日本に伝えたウイリアム・ウイリスは鹿児島へ流れていきます。そこで、高木先生はウイリアム・ウイリスと出会い、イギリス医学を引き継いでいくようになります。高木先生の最大の功績は脚気の克服です。当時の日本では脚気は非常に多く、軍隊でも兵力の衰退が危惧されていました。高木先生は疫学的な調査を行い、白米中心の食事が原因だと考えました。そこで海軍では麦を食べさせたり、野菜の入った食事をとらせることで脚気を克服できるようになりました。俗にこれが「海軍カレー」の由来と言われています。高木先生の考えは、ドイツ医学系の医師からは強い反対にあいました。しかし、後年に脚気の原因がビタミンB不足とわかり、高木先生の治療が正しかったことが証明されています。その後、高木先生は慈恵医大を創立しています。

    森鴎外:島根県出身の医師で文豪としても有名ですね。前述した高木先生の評伝では敵役として扱われてしまっていますが、医師としての業績もトップクラスです。東大医学部を最年少で卒業後ドイツに留学し衛生学や細菌学を学んでいます。帰国後、陸軍医となり陸軍医総監まで勤めています。日清戦争、日露戦争に従軍しています。脚気については細菌病因説をとり白米を養護したため陸軍で大量の死者を出したと、後年になって非難されています。一方、世界的に見てかなり早い段階でワクチンの集団接種を行い、疫病による兵員の大量死を防いだといわれています。

    なお、東大医学部は森鴎外のほかにも、阿部公房など多くの文学者も輩出しいています。

    北里柴三郎:熊本県小国町出身の医師です。東大医学部を卒業しドイツに留学、ロベルト・コッホに師事します。細菌学をおさめ、破傷風菌、ペスト菌の発見や血清療法の発見でノーベル賞候補にもなっています。東大と対立し、北里研究所を創立しています。北里大学の前身です。また、福沢諭吉との交流が厚く、慶応大学医学部の創立に尽力し初代学部長となっています。

    吉岡彌生:静岡県出身で日本医科大学を卒業後、日本で27番目の女医となっています。その後、日本医科大学が女性の入学をやめたため、一念発起して東京女子医大を創立しています。東京女子医大は女性医師の育成に大きな貢献がありますが、付属施設には男性医師も多くいます。僕もお世話になりました。

    田原淳:大分県出身の医師で、東大医学部卒業後、ドイツに留学しています。心臓の刺激伝導系の研究を行い、「田原の結節」を発見しています。今は房室結節と呼ばれていますが、海外でも「Tawara’s node」で通じます。日本の不整脈研究の伝説です。帰国後は九大教授を経て、別府温泉病院でも勤務をしています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/06

    月報 「聴診器」 2012/06/01

    院内の設備もだんだんとデジタルものが増えてきました。電子カルテをはじめ、FAXや心電計もデジタル式でネットワークでつながっています。ところが、僕はパソコン関係に疎く人任せで設定しています。基本的なことがわかっていなくて、問題がある時に困ってしまいます。現在、暗中模索で勉強中です。文明についていくのは大変ですね。

     

    15 医師列伝①

    現代の医療はたくさんの偉大な医師によって作られました。僕たちは巨人の背中に乗って仕事をしているようなものです。今回からは、医者の間で有名な先生を紹介してみます。

    ジェームズ・パーキンソン:19世紀初めのイギリスの医師です。「パーキンソン病」の発見者として有名です。パーキンソン病は手足が震え、姿勢が悪くなり、動きが緩慢になる疾患です。モハメッド・アリなどが有名ですね。昔から同様の症状を呈する人はたくさんいたはずですが、だれも病気だとは気づきませんでした。パーキンソン先生は、注意深い観察によって、これは複数の症状を特徴とする一連の病気だと報告したのです。パーキンソン先生の報告が出ると、多くの医師が「確かにこうした特徴をもつ患者はたくさんいる」と納得をしました。当時は日本ではまだ江戸時代。世界的に見ても臨床神経学はまだ確立されていない時期です。しかもパーキンソン先生は大学の研究者や大病院の医師ではなく、一介の開業医です。自分の能力だけで医療の歴史を変えたことには深い感銘を受けます。なお、パーキンソン先生は多彩な方で、化石の収集や社会評論でも有名だそうです。

    ジャン・マルタン・シャルコー:19世紀後半のフランス人医師です。前述のパーキンソン先生の功績を再発見したことでも知られています。「パーキンソン病」と名づけたのもシャルコー先生です。筋委縮側索硬化症や多発性硬化症などの神経難病を数多く発見しています。神経所見の細かな観察と解剖の結果を照らし合わせて体系的に臨床神経医学を確立しています。シャルコー・マリー・トゥースという病気は漫画ブラックジャックにも出てきます。

    ロベルト・コッホ:みなさんご存知のドイツの医師です。炭疽菌、コレラ菌、結核菌の発見者です。それまで、なぜ病気が起きるのかがわかっていませんでしたが、コッホの発見によって細菌が病気を引き起こすことがわかったのです。細菌学の始まりです。このことによって、感染防御の概念が生まれ、後の世代には抗生剤やワクチンの発明につながっていきます。ただし、コッホの弟子たちは細菌病因説にとらわれすぎて、脚気や黄熱病の原因を見誤ったこともありました。脚気はビタミン不足、黄熱病はウイルス感染症ですね。

    ウィリアム・オスラー:19世紀中ごろに生まれたカナダの内科医です。のちにペンシルバニア大学やオクスフォード大学の教授を歴任しています。多くの病気を発見し、オスラー先生の名前の付いた所見や病気もあります。史上最高の内科医と称賛する人もいます。聖路加の日野原先生が師事したことでも有名ですね。医学的功績も素晴らしいのですが、優れた思想家でもあり数々の名言があります。例えば「診断は患者が教えてくれる。」診断に迷った時には思い出すようにしています。もう一つ「たいていの人は剣よりも、飲みすぎ食べ過ぎによって殺される。」耳が痛い人も多いのではないでしょうか。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/05

    月報 「聴診器」 2012/05/01

    冬が終わったとおもったら、急に暑くなりました。それでも、東北では今が桜の時期ですし、北海道ではスキーができます。日本は広いですね。

     

    14 雑談 ⑥がっかり大規模臨床試験その2

    うまくいかなかった大規模臨床試験の続きです。

    (3)ACCORD: 糖尿病を対象にした試験です。糖尿病は血液中の糖分が高くなり、このことが原因で全身の血管に動脈硬化が進む病気です。糖尿病では、全身の臓器の血管が動脈硬化化を起こしますので、目が見えなくなったり、脳梗塞を起こしたりします。こうした合併症を防ぐためには、きちんと血糖値を下げるのがよいとわかっています。具体的には、UKPDS試験ではHbA1c 7.0以下、KUMAMOTO studyではHbA1c 6.4以下にすることで、網膜症、神経障害、人工透析(腎不全)が減ることがわかっていました。それでも、糖尿病がない人に比べると予後はよくありません。「それでは、もっともっと血糖値を下げれば、予後はよくなるのではないか。」と、多くの医者が考えました。ACCORD試験はそんな期待をもとにはじめられた研究です。カナダやアメリカで糖尿病の患者さんを、緩やかに血糖値を下げるグループと徹底的に血糖値を下げるグループに分けて経過が観察されました。ところが、大方の予想に反して、厳格血糖コントールグループのほうで死者が多くなり、試験は途中で中止されました。血糖を徹底的に下げたグループのほうが、予後悪かったのです。このニュースも大きな衝撃をもたらしました。たくさんの疑念も寄せられましたが、ADVANCE試験などのほかの試験でも同様な結果が出ました。詳しい解析では、厳格に血糖コントロール治療を行った際に低血糖発作が多いと予後が悪くなることがわかりました。今のところ、糖尿病はHbA1c(NGSP)7.0以下をめざし、低血糖を起こすほどの治療は望ましくないと考えられています。

    (2)COURAGE:安定狭心症を対象にした試験です。狭心症とは心臓の周りの血管が細いために胸が苦しくなる病気です。長く症状に変化がないものは安定狭心症と呼ばれています。こうした症例では、カテーテルによる治療が行われています。カテーテル治療を行えば、症状がなくなります。また、狭いところはそのうち詰まって心筋梗塞を起こし命を脅かすかもしれません。狭いところを広げれば、心筋梗塞を防げ、寿命が延びるとも期待されていました。COURAGE試験では安定狭心症の治療として、カテーテル治療の薬物治療に対する優位性を確認するために行われました。しかし、結果は、期待に反してカテーテル治療と薬物治療に予後の差が出ませんでした。カテーテル治療を行っても予後の改善にはつながらなかったのです。僕も昔は一生懸命カテーテル治療をしていましたので、この結果にはがっかりしました。どうやら、血管が狭いところがつまるのではなく、一見狭くなさそうな血管でも急に動脈硬化が進行すると、血管がつまってしまうようです。

    この研究からわかったことは、カテーテル治療は安定狭心症の症状をコントロールにするのには役に立つが、予後を改善するには薬物治療が必要ということです。カテーテル治療を行っても、血液をサラサラにする薬やコレステロールを下げる薬は飲み続けたほうがよいということです。もっとも、不安定狭心症や重症多枝病変では話が変わってきます。これらの疾患では、生命の危険がまじかに迫っている状態なので、速やかにカテーテル治療やバイパス手術が必要になります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/04

    月報 「聴診器」 2012/04/01

    4月になりました。やっと暖かくなると同時に、環境が変わる時期です。新しい職場、新しい学校、新しい土地。期待と同時に不安定な時期でもあると思います。まずは、新しい環境に肌がなじむまで、ゆっくり待つのがよいと思います。

     

    14 雑談 ⑤がっかり大規模臨床試験

    前回は大規模臨床試験の成功例を話しました。ところが、もくろみ通りにいかない試験もたくさんあります。このおかげで、医者の思い込みが是正されたこともたくさんあります。大規模臨床試験の結果が期待に反するもので、でこれまでの医療の常識が否定されると、医師は強い衝撃を受け戸惑います。場合によっては「医学」に対する信頼が揺らぐこともあります。ただし、予想に反した結果が出ることこそ、医学が科学的である証拠と思います。おまじないやインチキ医学では期待に反するデータは出てきません。科学とは反証可能な仮説の積み重ねなのです。

    (1)      CAST: 1991年に行われ、多くの医師がびっくりした試験です。それまでに、心筋梗塞後で心室性期外収縮という、それ自体では無害の不整脈が多い人には突然死が多いことがわかっていました。この当時いろいろな抗不整脈薬が開発され、強力な抗不整脈薬を使用すれば、心筋梗塞後の突然死は防げると考えられていました。CAST試験では、心筋梗塞後の人を、抗不整脈薬を飲む群と、飲まない群に分けて予後の調査が行われました。「きっと、抗不整脈薬群のほうが長生きするだろう。」と期待していました。ところが、抗不整脈薬群で突然死が多いことが途中で明らかになり試験は中止されました。良かれと思った方法で死者が増えたのです。みんなショックを受けていました。最近の研究では、心筋梗塞後の人の突然死を減らすためにはICDというペースメーカの一種が有効とわかっています。薬ではアミオダロンという特殊な抗不整脈薬や、βブロッカーなどの心不全治療薬が予後を改善するとわかっています。

    (2)      AFFIRM: 心房細動の予後改善を調べた試験です。心房細動は、動悸を伴い、心不全や脳梗塞をひき起こす不整脈です。発作性心房細動のコントールのために抗不整脈薬をよく使用します。当時は、薬で心房細動が出ないようにすれば、脳梗塞や心不全が減って寿命が延びると専門医の多くは考えていました。一方、不整脈が専門でない医師からは「抗不整脈薬は使用が難しいので、脳梗塞予防薬と心拍数を抑える薬だけでいいのではないか」と言われていました。そこで、抗不整脈の効果を確認するためにAFFIRM試験が企画されました。心房細動の患者さんを、抗不整脈を飲む群と飲まない群に分けて予後調査を行っています。結果は大方の予想を裏切り、両者で予後はほとんど変わりませんでした。むしろ、抗不整脈薬投与群のほうがやや予後が悪い傾向でした。多くの医師は、最初はこの結果を受け入れられませんでした。そこで、あちこちで同じような試験が行われました。日本でも同様の試験が行われました。それらの結果も、同じように「抗不整脈は心房細動の予後を改善しない」との結果でした。これらの試験から明らかになったのは、心房細動の予後改善には大事なのは抗凝固薬であり、抗不整脈薬は自覚症状の改善にしか効果がないということでした。

    「がっかり試験」はまだありますので、来月も続きます。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/03

    月報 「聴診器」 2012/02/01

    3月ですね。震災から一年がたとうとしています。被災地では本当に大変な一年だったと思いますし、いまだに生活はきびしいと思います。被災地には全国から復興のために人が集まっているようです。患者さんの中にも、ボランティアや仕事で現地に赴いた方々がいらっしゃいました。現地に行かずとも後方支援のため、多忙を極めた方もいらっしゃったと思います。皆さんの努力が実を結ぶといいなと願っています。

     

    14 雑談 ④有名な大規模臨床試験

    前回は大規模臨床試験の話をしました。今回は有名な大規模臨床試験をいくつか説明します。

    (1)WOSCOPS:コレステロールの薬の効果を調べた試験です。スコットランドで行われました。コレステロールが高い人たちが、プラバスタチン(商品名メバロチン)を飲むと、心筋梗塞の波発症が3割低下することがわかりました。また、それまで「コレステロールを下げすぎると、がんや自殺が増える」と心配されていましたが、がんや自殺の増加は認められませんでした。この試験を皮切りに以後、続々とコレステロール治療薬の有効性を確認する試験が行われました。

    (2)ALLHAT:降圧薬の効果を調べた試験です。降圧薬にはたくさんのグループがあります。それまで、製薬会社主導の試験では自社の製品が優れている結果ばかりが続いていました。多くの医師がこの結果には懐疑的でした。ALLHAT試験は製薬会社が関与できない形でデザインされました。結果は、降圧薬の種類によらず、血圧を下げれば下げるだけ予後がよいとわかりました。新しくて高い薬も有用ですが、昔からある安い利尿剤も同じように効果的なことが証明されたのです。

    (3)UKPDS:イギリスで行われた糖尿病が対象の試験です。糖尿病では網膜症、神経症、腎症が三大合併症といわれています。UKPDSでは積極的に治療を行い、HbA1cを7.0以下にすれば三大合併症が減ることがわかりました。同じような試験が日本の熊本でも行われました。こちらのほうではHbA1cを6.4以下にすることで合併症がさらに減ることがわかりました。

    (4)CONSENSUS:心不全を対象とした研究です。それまでは、心不全の治療に対して、いろいろな強心剤が使用されていましたが、どれも予後の改善にはつながりませんでした。この研究では降圧薬のエナラプリル(レニベース)を使用すると心不全患者さんの予後が改善することが明らかになりました。その後、類似薬でも同様の効果が確認され、心不全治療の進歩に大きな功績をもたらしました。心不全ではβブロッカーを使用したCOPERNICUS、スピロノラクトンを使用したRALESなども有名です。

    (5)SPAF:心房細動が対象の研究です。心房細動が脳梗塞を起こすことはよく知られています。だいたい10%/年程度の発症率といわれています。脳梗塞の予防薬には、アスピリンとワーファリンの二種類がありました。ワーファリンは人によって投与量が異なり、採血も頻回で、食事制限もあります。医者にとっても患者さんにとっても面倒くさい薬です。その点、アスピリンは投与法が簡単なところが魅力です。SPAFは心房細動の患者さんを対象にした試験で、アスピリンとワーファリンの脳梗塞予防効果を比較しています。結果は、ワーファリンのほうが脳梗塞の予防効果に優れており、副作用も少ないことがわかりました。この後も条件を変えてアスピリンとワーファリンの比較試験がされていますが、すべての試験で、ワーファリンが優れているとの結果が出ています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/02

    月報 「聴診器」 2012/02/01

    あっという間に二月ですね。年の初めは暖い日が続きましたが、1月下旬からは寒くなりましたね。地球温暖化が指摘されていますが、10万年単で見るとそろそろ氷河期に入る時期だそうです。本当でしょうか?

     

    14 雑談 ③大規模臨床試験

    医学は日々進歩し、世界中で新しい治療や研究がされています。「この病気に対して、こういった治療をすればきっとよくなる。」と治療法が提唱されます。では、新しい治療方法はすべて素晴らしいのでしょうか?これは、すぐにはわかりません。新しい治療が、従来の治療より悪いことも多々あります。新しい治療が実際に使用できるようになると、まず、少ない症例で試してみます。その結果、成功することが多ければ多くの症例で効果を確かめます。たとえば、心臓病の新しい治療法を考えたとします。様々な実験や会議を経て臨床への応用が許可されます。まずは、どうしてもこの新しい治療が必要な患者さんに協力してもらい、新しい治療を試してみます。効果があれば、心臓病の人を一万人ぐらい集め、患者さんを二つのグループに分けます。ひとつのグループでは従来の治療を行い、もう一つのグループでは新しい治療を行います。新しい治療をおこなったグループのほうが長生きをすれば、新しい治療がすぐれているとわかるわけです。これが大規模臨床試験の概要です。

    説得力を持った結果をだすためにはいくつかの注意点があります。まず、試す治療法以外の条件をおなじにすることです。例えば、新しい治療を行うグループのほうが、年齢が低くければ、長生きするのは当然の結果となります。二つのグループの年齢は同じ程度にしなければなりません。そのほか、男女比、血圧、喫煙率、心機能なども同じ程度にしなければなりません。

    人間には思い込みというものがあります。効くと信じて薬を飲めば、ただの小麦粉でも効果が感じられますし、悪くなると思って薬を飲むと無害なものでも体調を崩すことがあります。これはプラシボ効果といわれます。ある薬が本当に効くかどうかを確かめるためには、このプラシボ効果を考慮する必要があります。正確な研究では患者さんに本当の薬と、本物そっくりな偽薬を飲んでもらいます。患者さん本人は自分がどっちのグループに割り振られているか、飲んでいる薬が真薬か偽薬かわかりません。こうすれば、プラシボ効果は結果に影響しないと考えられています。また、思い込み効果は医者にもありますので、さらに精度を高めるためには、医者にも偽薬か真薬かわからないようにします。これを二重盲検化と呼んでいます。

    結果を検討する際にも注意が要ります。何となく印象で決めてはいけません。これには統計学を使用します。平均値を求めて差を見るは当然ですが、結果のばらつき程度を考慮しなければなりません。二つのグループの差が、バラつきで想定できる範囲であれば意味がある差とは認められません。バラつきから想定される範囲以上の差をつけた結果が得られれば、優れている治療といえます。これは有意差と呼ばれています。

    医療において、最初に統計学を使用して治療法を検討したのはあのナイチンゲールだったそうです。イギリスでは統計学の先駆者として有名だそうです。白衣の天使として看護師さんの開祖となっていますが、近代医学の創始者の一人でもあったわけですね。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/01

    月報 「聴診器」 2012/01/01

    あけましておめでとうございます。昨年はいろんなことがあって大変でした。当院でも電子カルテの導入に四苦八苦しました。おかげさまでうまく稼働しているようです。診療についてはまだまだやりたいことがたくさんあります。少しずつ実現していきたいですね。

    今年も皆様のお役にたてるように、スタッフ一同で頑張ります。

     

    14 雑談 ②新しい高血圧治療

    先月は新しいカテーテル治療の話をしました。今回はカテーテルで高血圧を治療する話から始めます。今でも、特殊な高血圧では手術やカテーテルの治療を行うこともあります。副腎腫瘍による高血圧では、副腎腫瘍を摘出する手術を行います。腎動脈狭窄症による高血圧では、狭窄した腎動脈をカテーテルで拡張させます。これらは、特殊なケースで、現在の医療で行われている治療です。普通の高血圧の治療には薬を使用します。僕らは、ずっと降圧薬を使用してきましたし、これからもそうだと思っていました。

    2009年にドイツから、「難治性高血圧に対してカテーテルで手術を行った」との報告がありました。いわゆる普通の高血圧症で降圧薬が複数必要な症例に対して、カテーテルで治療行ったそうです。電極付カテーテルを挿入し、腎動脈付近に高周波を当てて熱するそうです。これで、腎交感神経が障害を受けます。腎臓はホルモンや自律神経を介して、全身の血圧をコントロールしていますが、交感神経は血圧を上げるほうに働く自律神経です。この腎交感神経が障害うけると血圧が下がるはずだというわけです。実際の研究では、腎交感神経焼灼術を受けた患者さんは一か月後には血圧が30mmHgほど低下したそうです。その後も1年以上降圧効果が続いているそうです。さらに、インスリンの効きがよくなるため、糖尿病も改善する可能性があるそうです。かなり、インパクトのある報告です。僕を含め多くの医者が「本当かいな」と疑っていましたが、その後の研究でも効果が確認されています。日本でも導入が検討されています。

    2011年にはアメリカからも新しい治療の報告がありました。頸動脈を電気刺激して血圧を下げる方法です。人間は頸動脈に刺激を受けると、血圧と脈拍が低下する性質があります。柔道の絞め技やプロレスのモンゴリアンチョップはこの性質を利用して、相手を失神させています。治療では、ペースメーカーのような電気刺激を出す小さな機械を胸に入れます。電線を頸動脈に巻きつけて、微弱な電気刺激で血圧を下げようという方法です。思ったほどの効果はなかったそうですが、1年後には10mmHgほどの血圧低下が確認されたそうです。

    2011年には日本からも新しい治療の可能性が提唱されました。高血圧のワクチン治療です。体内には、アンギオテンシンという血圧を上げるホルモンがあります。臨床で使用している降圧薬の何種類かはこのアンギオテンシンを阻害して血圧を下げています。アンギオテンシンはAg-II受容体を介して血管を収縮させ、血圧をあげています。このAg-II受容体に似たものを体に入れると、免疫が反応します。結果、Ag-II受容体を攻撃する免疫が成立します。免疫細胞にAg-II受容体を攻撃させ、アンギオテンシンの作用を鈍らせれば、血圧が下がるというわけです。まだまだ動物実験の段階ですが、大阪大学では非常に力を入れて研究しています。

    様々な治療が実現すれば、高血圧治療のパラダイムシフトが起こるかもしれません。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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