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  • 月報 「聴診器」 2011/02

    月報 「聴診器」 2011/02/01

    寒い日が続きますね。インフルエンザがかなり多くなっています。風邪や肺炎も多いようです。それ以上に心配なのは血圧が上がる人が多いことです。結果的に脳出血や心不全の悪化、心筋梗塞、大動脈解離も増えているようです。感染症は完治することが多いのですが、高血圧に伴う合併症は後遺症を伴います。寒い季節はより厳格な血圧コントロールが必要と思います。

     

    13 検査 ⑤超音波検査:心エコー

    前回は超音波検査の概要を説明しました。今回からは超音波検査の各論です。まずは、心臓超音波検査の説明です。心臓は胸のやや左側にある臓器でこぶしぐらいの大きさをしています。超音波は肺と肋骨を通りませんので、それらを避けるようにして検査をします。心臓超音波検査をする場合には左側が下になるように寝てもらいます。こうすると、心臓が胸壁に近付いて肺の影響を受けにくくなります。肋骨の隙間から超音波を出したり感知する装置(プローブ)は肋骨の隙間から当てるようにします。最初は胸骨左縁の第三肋間ぐらいから心臓を縦に切るような断面で検査をします。次に心臓を横断するような断面で観察します。ここで、プローブの位置を左わきにずらすと、心臓を下から観察することができます。それぞれの場所から、心臓の形態、動き、血流を観察します。

    まずは、Bモードで形態と動きを観察します。上行大動脈、左心房、左心室の大きさ、左心室の壁の厚さなどを測定します。肥大型心筋症や高血圧では左心室壁が厚くなります。拡張型心筋症で左心室が拡張し収縮が低下します。心筋梗塞では左心室の一部の動きが悪くなります。心室の動きが悪い場所に血栓が見つかるときもあります。弁の異常を認める場合もあります。弁狭窄症では、弁が石のように硬くなっていたり、開きが悪くなっています。弁に異常構造物が付いている場合もあります。感染性心内膜炎では弁に菌の塊がつくことが知られています。腱索断裂ではちぎれた腱索がぴらぴらと見えます。腱索とは弁がはきちんと閉じるようについている紐のことです。弁の枚数が違う場合もあります。正常の大動脈弁は三枚の弁から構成されていますが、大動脈二尖弁症では弁が二枚しかありません。逆に本来二尖弁である僧帽弁に弁が三枚ある場合があります。このときは修正大血管転位症を考えます。先天的に心臓に穴があいているのが見つかる場合もあります。

    左心室の動きは様々な方法で数値化します。よく行われているのはMモードを使用する方法です。Mモードでは時間軸を横に心臓の収縮を縦軸に表示されます。左心室が広がった時の直径と縮んだ時の直径の比をとることで、心臓の収縮率を数値化することができます。ただし、心臓は立体的なものですのでこの方法では正確に測れない場合もあります。断面図を利用しての測定ではもう少し正確に心臓の収縮率を測定できます。Bモードで左心室が広がった時の断面積と収縮時断面積を測定して収縮率を計算します。局所の動きが悪い時には数値化するのが難しいので、コメントを書いて記録に残します。

    ドップラー法では血流を観察します。血液は心臓の中を一方通行で流れますが、逆流を防ぐために四つの弁がついています。弁の閉じが悪ければ、血液は逆流します。ドップラー法では血液の流れている方向が分かるので、弁膜症で血液が逆流しているのを観察することができます。ドップラー法では血液の流れる早さも分かります。早さが分かれば圧格差を知ることもできます。ドップラー法を利用すれば、心エコーで心臓のむくみ具合や弁膜症の程度を知ることができます。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2011/01

    月報 「聴診器」 2011/01/01

    新年明けましておめでとうございます。昨年はどんな一年だったでしょうか。いいことがあった人も、そうでなかった人も、今年は良い年になるといいですね。

     

    13 検査 ⑤超音波検査

    今回からは超音波検査の説明です。俗にエコー検査と呼ばれています。超音波は人間の耳には聞こえない波長の音、つまり空気や水の振動を意味します。人の耳に聞こえる音は20Hzから20KHzと言われていますが、超音波検査では2.5MHzから12MHzのものを利用します。音波はものにあたると反射する性質がありますが、これを利用して物の距離を測ることができます。音を出してから反射が帰ってくるまでの時間を測ることで、対象物までの距離がわかるのです。やまびこで説明すると、山が遠ければやまびこが帰ってくるまで時間がかかりますよね。そのことと一緒です。また、物によって反射の性質も異なります。かたいものは強く反射しますし、柔らかいものは鈍く反射します。以上を利用して体の中を調べる検査が超音波検査です。原理は魚群探知機と一緒です。

    超音波は水の中を良く伝わりますが、空気の中はあまり伝わりません。超音波検査器ができた当初は、超音波を体にうまく当てることができませんでした。体と超音波発生器や受信器との間に空気の層ができてしまうためです。昔は、患者さんを水の入ったドラム缶に入れて超音波検査をしたこともあるそうです。その後、端子の開発や検査用のジェリーの開発が進み端子を直接体に当てて検査ができるようになりました。しかし、当初は一本しか超音波ビームが出ない為、画像表示は直線しか出ませんでした。最初は「A モード」と呼ばれる表示をしていました。対象物までの距離を横軸に、超音波の反射の強さを縦軸にしたものです。これだけみても、「何cm下になにかものがあるんだな」しか分かりません。次に、時間経過を横軸に対象物までの距離を縦軸にして反射波の強さを白黒で表示する方式が考えだされました。我々は「M モード」と呼んでいますが、これで心臓の動きや弁膜症の検査ができるようになりました。しかし、これを解読するには、かなりの解剖学的知識と想像力が必要とされる名人芸でした。その後、超音波ビームを左右に振ったり、同時に多数の超音波ビームを出すことで断面図を表示することができるようになりました。これは、B modeと呼ばれます。一般的に超音波検査の画面はこのB modeで表示します。最近ではさらに超音波ビームを増やし、対象物を三次元で表示する方法も開発されています。まだ、あまり画像は良くありませんが、産婦人科などでよく使用されているようです。

    対象物が動いていると、反射した超音波の性質が変化します。超音波端子から去っていくものは波長が長くなり、近づくものは波長が短くなります。救急車が近付くときにはサイレンが高く聞こえ、通り過ぎるとサイレンが低く聞こえますが、それと同じ理屈です。これはドップラー効果と呼ばれています。この原理を利用すると体内で動いているものがよくわかります。特に血流を調べるのに大変便利です。ドップラー検査を利用すると血流の方向が分かりますので、弁膜症などで血液が逆流している様子がよくわかります。また、どれだけ波長が変化したかを計算すると流速も分かります。このことを利用して血管の狭窄度を知ることができますし、弁の面積や肺の血圧を測定することもできます。最近ではドップラーの精度がさらに良くなり、組織の動きも定量的測定することができるようになってきました。これは、組織ドップラー法と呼ばれています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/11

    月報 「聴診器」 2010/11/01

    急に寒くなったせいで風邪が多いですね。肺炎も時々見られるようになりました。寒暖の差が激しく体が対応できないのでしょうね。

     

    13 検査 ③心電図

    前回までは血液検査について説明していましたが、今回から生理学的検査について説明します。生理学的検査とは身体の機能的なものを測定する検査の総称で、心電図やエコー検査などが含まれます。まずは、心電図から説明していきます。

    心臓は筋肉でできた袋状の臓器で、電気が流れると収縮して血液を全身に送り出します。この心臓に流れている電気を体の表面から記録したのが心電図です。横軸が時間で、縦軸が電位になります。電気の流れを立体的にみるために、沢山の電極をつけます。

    心臓の中での電気の流れを説明します。心臓は心房という補助ポンプのパーツと心室というメインポンプのパーツに分けられます。心房の上のほうには規則正しく放電をする細胞群があり、ここから電気の流れが始まります。電気はまず心房に流れます。心房と心室の間には絶縁体があり、房室結節という一か所の中継地点だけを通って電気が心室に流れます。房室結節での電気の流れは非常に遅いので、心房に電気が流れてから少し間が空いて、心室に電気が流れます。心電図もこの電気の流れに対応した波形が見られます。ます、心房での電気の流れを表す小さな波が出現します。その後、少し間をおいて心室での電気の流れを表す大きな波が見られます。

    心電図をとることで、いろいろなことが分かります。心室波の出かたを見れば、心拍数とリズムが分かります。一分間にいくつ心室波が出ているかを数えれば、心拍数が分かります。心室波の間が短ければ脈が速いと分かりますし、心室波の間が長ければ脈が遅いと分かります。正常では、心室波は規則的に並んでいますが、不整脈が出ると並び方が不規則になります。心臓の中での電気の通り方も分かります。房室結節での電気の流れが悪くなれば、心房波と心室波の間が長くなります。更に流れが悪くなれば時々心室波が出なくなり、完全に電気の流れが途絶えると心房波とは無関係にまばらに心室波が見られるようになります。これは、完全房室ブロックという病気で、非常に危険な状態です。

    一つ一つの波形から、心臓の病気を推測することもできます。心筋梗塞を起こすと、急激に心電図が変化します。心電図は経時的に形を変え、一週間ほどで変化が固定します。心筋梗塞を起こした部位を反映した「傷」として波形を認めます。我々はこれを「異常Q波」と呼んだり、「QSパターン」と呼んだりします。弁膜症や高血圧で心臓が拡張したり心筋が肥厚しても心電図は変化します。この場合は、左室肥大パターンと呼ばれます。心臓の周りに液体がたまると、心臓での電気が体表面に出てきにくくなり、低電位として認識されます。

    心電図に異常があれば心臓病を疑いますが、正常な心臓であっても心電図に異常が出る場合があります。高度の肥満や肺気腫があれば、心臓の位置が変わるため心電図が変化します。カリウムなどのイオン濃度に異常があれば、電気の通り方が変わって、心電図が変化します。脳卒中などの頭の病気でも心電図が変化することがありますが、この原因はよくわかっていません。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/10

    月報 「聴診器」 2010/10/01

    急に涼しくなりました。当初は10月まで暑いといわれていましたが、すごしやすくなってよかったですね。今年の夏は、観測史上に残る猛暑だったそうです。熱中症だけでなく、脱水のため脳梗塞や腎結石も多発した印象でした。

     

    13 検査 ②血液検査 特殊検査

    前回は一般的に行う血液検査について説明しました。今回はあまり一般的でない血液検査について説明します。

    ・甲状腺機能検査は比較的行うことの多い検査です。甲状腺は喉のところにある臓器で甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは体の元気を出すためのホルモンで、足りなくなれば元気がなくなり、むくみが出てきます。甲状腺ホルモンが多すぎると、動悸がしたり痩せたりします。甲状腺の検査ではTSHとf-T4を測定します。TSHは甲状腺刺激ホルモンのことで、f-T4は甲状腺ホルモンのことです。甲状腺ホルモンが低下すれば、TSHが高値になり、f-T4が低値になります。

    ・心筋梗塞の時にはヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)やトロポニン、CPKは高値になります。これらの物質は心筋に豊富に存在し、心筋梗塞では心臓の筋肉が壊れて溶けだし、血液中に多くなるためです。これを測定することで、心筋梗塞の診断がつきます。H-FABPはこの中でも一番早く反応するので、当院でも急性心筋梗塞の診断に使用しています。

    ・BNPは心不全の状態を表します。正常は20以下ですが、高血圧があれば40-80程度にはあがります。BNPが100を超えれば、心不全として治療を行います。

    ・高血圧の大部分は本態性高血圧で体質的なものです。しかし、少数ながら二次性高血圧も存在します。若年性高血圧や重症高血圧で、二次性高血圧を疑う時は、レニン活性、アルドステロン、ドーパミン、アドレナリンなどを測定します。これらは血圧を上げるホルモンです。これらのホルモンを分泌する腫瘍があると血圧が上昇します。

    ・心房細動や人工弁を入れているときにはワーファリンを服用して血栓の予防を行います。ワーファリンは人によって効き方がまちまちなので、採血をして「血栓の出来にくさ」を測定します。PT-INRを測定しますが、これは正常の人に比べて何倍ぐらい血が固まりにくいかを表します。心房細動ではPT-INRは2.0前後を目標とします。弁置換術後ではPT-INR 2.5-3.0程度を目指します。D-ダイマーは血栓が少し溶けるときに出てくる物質です。D-ダイマーの上昇は血栓の存在を示します。肺塞栓や深部静脈血栓症で上昇します。

    ・膠原病は自分の免疫が自分自身の臓器を攻撃して引き起こされる病気です。膠原病の検査では自己抗体を測定します。代表的な自己抗体は坑核抗体です。坑核抗体には坑DS-DNA抗体や坑セントメア抗体など多くの種類があります。坑核抗体のほかにも、ANCA抗体や坑Jo-1抗体などの自己抗体があります。ただし、自己抗体があるから必ずしも膠原病とは限りません。診断は臨床症状やその他の検査所見を総合して行われます。

    ・CEA, CA19-9, PSA, SCCなどは腫瘍マーカーと呼ばれます。がんによって高値になります。ただし、腫瘍マーカーが高ければ必ずがんがあるわけではありませんし、がんだから必ず腫瘍マーカーが高いわけではありません。「腫瘍マーカーが高ければ、がんの可能性がある。」程度に思ってください。                     上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/09

    月報 「聴診器」 2010/09/01

    暑い日が続きますね。そろそろ、暑いのにも飽きてきました。新聞報道によれば10月ごろまで気温は高めに推移するそうです。秋は遠いですね。

     

    13 検査 ①血液検査 一般検査

    今までは病気の話をしていましたが、今回から少し見方を変えて検査の説明をします。まずは、血液検査です。検査項目には、それぞれ複数の意味があり、我々は多くの検査を総合的にみて判断しています。簡単には説明しにくいところもありますが、ここでは、大雑把に説明します。

    TPやアルブミンは栄養状態を表します。食事量が足りなかったり、病気で体が消耗すると減ってきます。GOT, GPT, LDH, ALP. γ-GTPなどは肝臓の状態を表します。これらの物質は肝臓に含まれており、肝臓が炎症を起こしてこわれると血液中に漏れ出てきます。GOT, GPT,LDHは肝臓の中心的な部位の障害を表し、肝炎や肝不全の指標になります。ただしLDHは、ほかの臓器にも含まれ、特異度が低い検査です。γ-GTPやALPは胆管周囲の障害を表し、胆管炎やアルコール性肝障害の指標になります。ビリルビンは肝臓から排泄される赤血球の残骸で、黄疸の原因になります。肝臓が悪くなればこのビリルビンが排泄されなくなるため血液中の多く含まれ、高値になります。ChEは肝臓で作られるたんぱく質で肝臓の合成能力を反映します。栄養不足や高度の肝機能低下で低値になります。逆に脂肪肝などでは高値になります。

    コレステロールや中性脂肪は血液中の脂質を表します。高値の場合は脂質異常症の可能性があります。食後は正常の人でも中性脂肪は高値になります。中性脂肪値を正確に知るためには9時間程度の絶食が必要と言われています。

    Cr, BUNは腎機能を反映します。脱水などでも高値になる場合があります。UAは尿酸のことです。UAが高い状態が続くと、痛風や腎臓病になったり、動脈硬化が進んだりします。Na,K,Cl,Caは電解質です。これらは微量な金属イオンで血中に一定の割合で存在しています。腎不全やホルモン病でこの割合が崩れます。Naが異常に低値になると意識障害が出現します。Kが低値になると筋肉が動かなくなったり、不整脈が出現します。Kが異常に高くなると心臓が止まることもあります。Caが低下するとこむら返りが多くなります。Caが高くなりすぎるとむかつきが出現します。

    CPKは心筋や骨格筋に含まれる酵素です。激しい運動や、うち身で筋肉が壊れると高値になります。心臓の筋肉にも含まれていますので、心筋梗塞でも高値になります。コレステロールを下げる薬の副作用や甲状腺機能低下症でも高値になります。

    白血球やCRPは感染症や炎症があると高値になります。白血球が15000以上、CRPが10以上の時は肺炎などの激しい細菌感染症を疑います。ウイルス感染では白血球は正常であったり下がったりします。赤血球やHbは貧血の指標になります。血小板は止血時に働きますが、重症感染症や膵炎で低下します。

    血糖値は文字通り血中の糖を表します。食前は100以下で食後は140程度まで上がります。糖尿病で高値になりますが、骨折や肺炎などひどい病気になった時にも少し上がります。逆に低栄養状態などでは血糖値は下がり、血糖が下がりすぎると意識がなくなることもあります。持続的に血糖値が上がればHbA1cが高くなります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/08

    月報 「聴診器」 2010/08/01

    急に暑くなりましたね。朝から全力で蝉が鳴いていると、じっくり汗が出てきます。先日、昼間に1時間程度草刈りをしたら、頭痛がしてふらふらしました。日射病だったのかも知れません。皆さんも気をつけてください。

     

    12 血管病変 ④ 大動脈炎、急性動脈閉塞

    6月号の月報では「閉塞性動脈硬化症」について説明しました。動脈が動脈硬化により狭くなったり、つまったりする病気です。これと似た病気に「大動脈炎症候群」と「急性動脈閉塞症」があります。大動脈炎症候群とは名前の通り動脈に炎症が起きる疾患です。炎症結果、血管の壁が厚くなり内腔が狭窄します。また、血管の壁が弱くなり異常に拡張することもあります。動脈硬化症と異なり、比較的若い女性に好発します。この場合の「大動脈」は体の中心になる固有名詞の大動脈ではなく、「比較的大きめの動脈」といった程度の意味です。大動脈だけでなく、鎖骨下動脈や頸動脈などにも血管の炎症が起きます。血管の炎症が起きてもあまり症状は出ません。発熱が持続する場合もありますが、発熱以外に症状がなく原因不明の発熱として加療されている場合もあります。その後、次第に血管の形態的変化が起きてきて、さまざまな症状を呈します。鎖骨下動脈という腕に血液を送る血管がせまくなれば、脈が弱くなります。このため、本当は血圧が高いのに腕で血圧を測ると低くなる現象が見られます。さらに血管狭窄が進行し、鎖骨下動脈が詰まってしまうと触れなくなります。脳に血液を送る血管が狭くなるとめまいのなどの症状が出ます。腎臓の血管が狭くなると、血圧が高くなります。腎臓の血流が乏しくなると、腎臓から血圧を上げるホルモンが出るためです。炎症の結果、血管が拡張すれば動脈瘤ができます。炎症は血管だけでなく心臓の弁にも及びます。このため、大動脈弁閉鎖不全症という弁膜症を合併します。大動脈炎症候群は別名「脈なし病」や「高安病」と呼ばれます。炎症が起こっている時期には治療のために抗炎症剤を使用しますが、多くの場合は血管病変が進行してから診断がつきます。この場合は各々の血管病変に応じた治療を行うこととなります。

    急性動脈閉塞症は、何らかの原因で血管の中に塊ができ、この塊が動脈に詰まる病気です。たとえば心房細動という不整脈があれば心臓の中で血液の塊ができます。これは血栓と呼ばれますが、この血栓が血流にのって運ばれ、足の動脈などに詰まります。血管が突然詰まりますので足が突然痛くなり、白くなっていきます。放っておけば足が壊死してしまいます。腎不全を合併して死に至る場合いもあります。脳や腎臓の血管も同じように詰まりますが、この場合は特別に心源性脳塞栓や腎梗塞と呼んでいます。骨折でも急性動脈塞栓が起こります。大きな骨折をした場合には骨の中の脂肪が動脈に流れることがあります。これは脂肪塞栓と呼ばれます。医療行為でも急性動脈塞栓が起きる可能性があります。カテーテル検査で造影剤を動脈に入れる際に誤って空気が入ってしまうと空気の泡が動脈に詰まります。空気はそのうち吸収されますが、一時的に臓器に血液がいかなくなります。このため、手技中は道具の中にいかに空気が入らないようにするか気を使います。なお、静脈に空気少量入った場合は肺で吸収されますのであまり大事にはなりません。多量の空気を入れた場合は肺動脈に空気が詰まって死に至る可能性があります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/07

    月報 「聴診器」 2010/07/01

    ワールドカップは良かったですね。予選リーグで3戦全敗と予想されていましたが、始まってみれば素晴らしい快進撃でしたね。深夜放送で寝不足の人も多かったのではないでしょうか。

     

    12 血管病変 ④ 静脈瘤

    血管には動脈と静脈の二種類があります。心臓から出てきた血液を末梢の臓器まで運ぶ血管が動脈です。血液は各臓器に酸素と栄養を届け、二酸化炭素と老廃物を受け取ります。これが静脈血となり、静脈をとおって心臓まで運ばれます。動脈血は、心臓の収縮する力で押し出されそのまま動脈を流れます。そのため動脈はただの管でも血液が流れます。しかし、静脈までは心臓の収縮力は伝わりません。その代わりに静脈では骨格筋を利用して血液が流れています。静脈の周りには筋肉がありますが、筋肉が収縮すると静脈を外から押す形になります。このままでは、血液は前後に動くだけですが、静脈には動脈には無い「弁」が付いています。この静脈弁があるために血液は、一方向に流れることができます。

    静脈弁の閉まり方がわるいと、静脈血はスムーズに心臓に向かって流れなくなります。特に足では重力にさからって血液が流れなくてはいけないので、静脈弁の役割はより重要となります。足の静脈弁がうまく閉じなければ、血液は静脈に溜まってしまうことになります。この結果、足がむくむことになります。この状態を、深部静脈弁不全症と言います。また、静脈圧が高くなれば、血液は細い血管を流れていくようになります。本来、足の静脈血の大部分は足の奥のほうにある深部静脈を流れます。しかし、静脈弁の閉まりが悪い場合には、表面の細い静脈にも多くの血液が流れます。血流が多くなれば、血管はふくれます。表面の静脈は本来網目状になっていますので、拡張した血管はとぐろをまいた蛇のようになります。これが、静脈瘤です。

    静脈瘤ができると、いろいろな症状が出てきます。深部静脈脈圧が高いことの反映なので、足がむくみやすくなります。静脈の流れが悪く、筋肉の老廃物がうまく流されませんので、足がつりやすくなります。静脈で流れが悪くなるので、血栓ができやすくなります。静脈瘤で血栓ができれば、痛みをともなう「血栓性静脈炎」となります。深部静脈で血栓ができれば「深部静脈血栓」となり、さらに足が腫れ、赤黒くなります。深部静脈弁不全でのむくみは、足を上げていれば軽快しますが、深部静脈血栓症では足を上げてもよくなりません。深部静脈血栓症では、血栓が移動して心臓をとおって肺動脈に詰まることがあります。これは、肺塞栓と呼ばれ命にかかわる病気です。長時間座っていると深部静脈血栓症ができやすくなり、肺塞栓を起こすことも多くなります。飛行機で移動中は長時間座った姿勢で、しかも機内は空気が乾燥しているのでより血栓ができやすくなります。いわゆる、エコノミークラス症候群ですね。大きな手術をしたあとも深部静脈血栓が起きやすい状況です。最近では、予防的に足のマッサージをしたりストッキングをはかせる病院も多いようです。

    治療は、できた静脈瘤を抜き取ったり、薬剤で固める手術をします。最近では、レーザーで手術を行うこともあります。ただし、深部静脈弁不全症事態の根本治療は難しいようです。軽症では弾性ストッキングなどを使用します。

    深部静脈弁不全症や下肢静脈瘤は女性に多いようです。また、遺伝性もあり家族内発生も多く見られます。ちなみに、僕も父も静脈瘤を持っています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/06

    月報 「聴診器」 2010/06/01

    初夏だというのに、なんだか寒々しますね。今年の夏は冷夏でしょうか。

     

    12 血管病変 ③ 閉塞性動脈硬化症

    前回は大動脈瘤の話をしました。動脈瘤は血管がふくれたり破けたりする病気です。血管病変では「狭くなる」「つまる」病態も存在します。心臓の血管が狭くなれば狭心症を起こしますし、脳の血管が詰まれば脳梗塞を起こします。手足の血管が狭くなったりつまったりすれば、閉塞性動脈硬化症と呼ばれる病気になります。

    足の血管に閉塞性動脈硬化症がおこれば、足が痛くなります。典型的な例では、歩行を続けるうちに足が痛くなり、しばらく休むと痛みがなくなります。病気が進行すれば、痛くなるまでの距離や時間が短くなります。さらに進行した場合には安静時でも痛みが出現します。足の血管が狭くなると、足の筋肉に行く血流が低下します。病気の初期で血流低下がそれほどでもないときには、安静時や少しの歩行で消費する程度の血液は流れています。長く歩くと筋肉がたくさん動き血液がたくさん必要になりますが、血管が狭くなっているので相対的に血液不足なります。このため、足の筋肉が痛くなります。狭窄が高度になるほど血流は不足しますので、短い距離でも症状が出現することになります。狭窄がさらにすすめば、安静時の筋肉を養う程度の血流も確保できなくなり、安静時でも痛みが出現することになります。時には皮膚に潰瘍ができることもあります。血管が完全に閉塞してしまうと、筋肉が死んでしまい真黒になります。これは壊疽と呼ばれます。ただし、大きな血管が完全に詰まっても、細い血管がバイパスとして存在し、細々と組織を養い壊疽とならない場合もあります。痛みはなくとも、足が冷たい、片足だけ白いなどの所見で見つかる場合もあります。手や肩の血管が狭くなることもありますが、足の場合に比べて症状が出にくいようです。

    症状から閉塞性動脈硬化症を疑った場合には検査をします。まずは、ABIを計測します。ABIは手足の血圧を同時に測り、血圧の比を調べる検査です。たとえば、右足の血管が細くなっていれば、右足の血圧だけが低くなります。この検査で血管の狭窄が疑われれば血管造影をします。以前はカテーテルでの検査が主流でしたが、今は三次元CTを使うことが多いようです。

    血管の狭窄や閉塞が確認されれば治療を行います。基本はバイパス手術を行います。病変部位より心臓に近い血管からバイパス血管をつなぎ、病変部位をとばしてさらに末梢の血管にバイパス血管をつなぎます。最近ではカテーテルでの治療も多くなってきました。心臓の血管の治療と同じように細い風船を血管の狭窄部に通し、圧力をかけて風船を膨らませると血管も膨らみます。ステントという金属の網を使用する場合もあります。血管が完全に閉塞し、組織が壊死していれば末梢部位の切断が必要になります。

    閉塞性動脈硬化症は糖尿病、高血圧、高コレステロール血症を持つ人に多く見られます。喫煙も重要な危険因子です。喫煙者では閉塞性動脈硬化症のほかにバージャー病という小さな動脈が閉塞する病気も発症しやすくなります。

    薬物での治療では、血液が固まりにくくする薬や、末梢の動脈を拡げる薬を使用します。もちろん動脈硬化そのものの治療が一番大事なので、糖尿病や高血圧の治療もしなければなりません。当然、たばこは禁止になります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/05

    月報 「聴診器」 2010/05/01

    今年の春はいつまでたっても寒かったですね。風邪のかたも多かったですが、肺炎が多いのにびっくりしました。気候の変動が激しかったのに加えて、新年度のスタートで無理をしていた人が多かったからでしょうか。

     

    12 血管病変 ②解離性大動脈瘤

    前回は大動脈瘤の話をしました。今回は解離性大動脈瘤です。解離性大動脈瘤は大動脈瘤の一種ですが、病態が異なるので別に説明します。大動脈の壁は非常に丈夫で、内膜、中膜、外膜から成り立っています。高血圧などがあると、血管の壁が弱くなってきます。このとき、何らかの衝撃で血管内膜に亀裂が入り、中膜がはがれることがあります。こうなると、血管の壁に隙間ができ、血管が二重になります。これが、解離性大動脈瘤です。解離とは血管が裂けることですが、「さきイカ」のように血管が縦に分かれる方向に裂けるのではなく、「バームクーヘン」がはがれるように裂けていきます。ちょっと、分かりにくいですね。この裂けた隙間は偽腔と呼ばれます。偽腔には血圧という圧力受けて血液が流入していきます。このため、裂けている部分はどんどん広がっていくことになります。

    解離性大動脈瘤は急激に発症します。通常は、激しい胸の痛みや背中の痛みが出現します。また、偽腔に血液がたまると、わきから出ている血管を圧迫します。脳に行く血管が圧迫されればふらつきなどの症状が出ます。手足にいく血管が圧迫されれば、手足が真っ白になって、脈が触れなくなります。腎臓に行く血管が圧迫されれば、尿が出なくなります。心臓の近くで解離が起これば、急性大動脈弁閉鎖不全症を発症したり、心臓の周りに血液がたまったりします。このときは、強烈に胸が苦しくなり、意識がもうろうとなります。大きな解離性大動脈瘤は、突然死の原因にもなります。

    激烈な胸痛や背部痛で来院された場合に、心筋梗塞や膵炎が否定されれば、解離性大動脈瘤を疑います。急性大動脈弁閉鎖不全症による心雑音、急激な血圧の低下、脈の触れの左右差があればさらに解離性大動脈瘤の可能性が高くなります。確定診断のためにはCTスキャンが有用です。CTスキャンでは人体の輪切りを見ることができるので、大動脈の断面図も見ることができます。解離性大動脈瘤では、血管が二重になっているように見えます。解離が大きい場合には、胸部レントゲン写真やエコーでも解離性大動脈瘤を見つけることができます。

    解離が大きい場合は、病院にたどりついても致死率が非常に高く、緊急手術の対象になります。解離が小さく生命の危険性が低い場合は、手術はせずに血圧のコントロールを行います。

    解離性大動脈瘤は多くの場合は、高血圧に合併して発症します。しかし、もともとの血管のもろさが発症しやすさに関係していると考えられています。特にマルファン症候群という先天的な血管の病気がある家系では解離性大動脈瘤が高率に発生します。マルファン症候群は高身長、やせ形などの身体的特徴があります。まぁ、僕のような体形ですね。スポーツ選手の中にはマルファン症候群が隠れており、このことがスポーツ選手の突然死の原因の一つになっている可能性があります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2010/04

    月報 「聴診器」 2010/04/01

    前回告白しました検査値の異常は、徐々に良くなってきました。食事制限がよかったようです。しかし、食事制限を続けるのは、つらいですね。僕の目の前で、アイスクリームをパクパク食べる妻と子供たちが憎らしくなりました。

     

    12 血管病変 ①大動脈瘤

    今回から血管病変について説明していきます。これまで、心臓の冠動脈や脳血管の病気については説明してきました。ただし、血管は全身に広がっていますので、どの部位血管でも病気が起こり得ます。まずは、大動脈病変について説明していきます。

    大動脈は胸からお腹まで、体の中心を走っている2cm程度の太い血管です。血液は心臓から大動脈に送り出された後に、いろいろな血管からそれぞれの臓器に到達します。社会の物流に例えると、大動脈は高速道路や国道のようなものです。したがって、大動脈で病変がおこれば、全身に影響し、死に至ることもあります。大動脈の病気で代表的なのは動脈瘤です。動脈がこぶのように膨れてしまう病気です。こぶができた場所によって「胸部大動脈瘤」や「腹部大動脈瘤」と呼ばれます。動脈にこぶができれば、こぶの中で血が固まったり、こぶが他の臓器を圧迫したりします。ただし、動脈瘤の最大の問題は、こぶの破裂です。動脈のこぶの壁は薄くなっているので、非常に破れやすくなっています。こぶは、大きくなればなるほど破れやすくなってきます。こぶが破れれば、多量に出血をして死に至ります。また、胸部大動脈瘤が破裂すれば肺の周りに血液がたまって肺を圧迫します。心臓のすぐそばの動脈瘤が破裂すれば、心臓の周りに血液がたまり、心臓を圧迫します。これは、心タンポナーデと呼ばれる状態です。こういった場合には、すぐに手術などをする必要があります。一般に、こぶが心臓に近ければ近いほど、重症度は増します。

    動脈瘤の原因は、動脈硬化によるものが多数を占めます。感染症や先天性の病気でも動脈瘤を起こしますが、非常にまれです。大動脈瘤は破裂するまでは、基本的に症状はありません。胸部大動脈瘤は胸部レントゲンで見つかることがあります。お腹を診察した際に、拍動を強く感じて見つかることもあります。CTや心エコーなどでほかの部位の検査をしているときに、偶然見つかることもあります。

    動脈瘤が大きくて破裂の危険性がある場合は手術をして、血管を取り換える必要があります。ただし、この手術は大手術になりますので、かなりの危険性が伴います。あまりに年齢が高い場合や、合併症が多い場合は手術ができないこともあります。最近では、ステントという金網を入れる手術も行われるようになっています。

    動脈瘤があまり大きくない場合や、大きくても手術ができない場合は血圧のコントロールを行うこととなります。血圧が低いほうが破裂の危険性が減るためです。目標値は通常より低めの120/80mmhg以下を目指します。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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