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  • 月報 「聴診器」 2006/11

    月報 「聴診器」 2006/11/1

     

    11月から診療時間が少し変わります。木曜日は11時まででしたが、少し余裕が出てきたので12時半まで行います。また、駐車場の拡張工事も終わりましたので、どうぞご利用ください。

     

    7 先天性心疾患③ 心室中隔欠損症

    前回は心房中隔欠損症について説明しました。右心房と左心房のあいだの壁に穴が開いている病気です。心室中隔欠損症では右心室と左心室の間の壁に穴が開いている病気です。

    正常では、酸素の少ない静脈血は右心房に還り右心室に入ります。隣の左心室には肺で酸素をもらった動脈血が満ちています。極端に言えば、上水道と下水道のようなものです。この二種類の血液が混じらないように、右心室と左心室の間に壁があります。この壁が「心室中隔」です。胎児の心臓には最初この心室中隔はありません。胎児期のおわりごろに徐々に壁ができてきます。ところがこの壁が不十分なまま生まれてくる場合があります。これが「心室中隔欠損症」です。心室中隔欠損症では右心室と左心室の間の壁に穴が開いていますので、両方の血液が混じってしまいます。普通は左心室のほうの圧力が高いので、左心室から右心室に血液が流れます。右心室には全身から還ってきた静脈血と左心室からの動脈血が流入します。右心房の入る血液量が正常より増えるわけです。増えた血液は右心室から肺へ流れ左心房に還ってきます。左心房に還ってきた血液の一部は再び右心室に流れ、残りの血液は大動脈に出て行きます。このため、肺の血流量は増大し血管がいたんだり、肺の血圧が高くなったりしてしまいます。また、体をめぐる血液量はやや減少するため、心不全を起こしたりします。ただし、心室中隔欠損症があれば必ず、心不全や肺高血圧を来たすわけではありません。穴が小さい場合は、少量の血液しか左心室から右心室に流れませんので、肺や全身への負担は小さくなります。自然に閉じて、治癒してしまうこともあります。一般的には肺血流量が2倍以上あれば積極的な治療を勧めます。

    新生児や幼児で、心雑音がしたり心電図や胸部レントゲン写真で異常があったりすれば、先天性心疾患を疑います。心エコーを行い、心室中隔に穴を認めたり、血流検査で左心室から右心室への血流が確認されれば心室中隔欠損症の診断がつきます。その後、カテーテル検査などを行い、心臓の状態を正確に調べます。治療は、手術をして心室中隔の穴を閉じるのが一般的で確立された手技です。最近ではカテーテルを使って、より簡単な方法での治療も開発されつつあります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/10

    月報 「聴診器」 2006/10/1

     

    日中はまだまだ暑い日がありますが、朝晩はかなり寒くなりましたね。寒暖の差が激しく風邪がはやってくるころです。夜は少し厚着をしてすごしてください。

     

    7 先天性心疾患② 心房中隔欠損症

    前回は成人と胎児の血液循環について説明しました。今回からは、具体的な先天性心疾患について説明していきます。先天性心疾患は沢山の種類がありますが、比較的よく見るものもあれば、非常に珍しい世界でも数例というものもあります。心房中隔欠損症は、比較的よくある先天性心疾患のひとつです。

    正常では、酸素の少ない静脈血は右心房に還り、隣の左心房には肺で酸素をもらった動脈血が満ちています。極端に言えば、上水道と下水道のようなものです。この二種類の血液が混じらないように、右心房と左心房の間に壁があります。この壁が「心房中隔」です。胎児の心臓には最初この心房中隔はありません。胎児期のおわりごろに徐々に壁ができてきます。ところがこの壁が不十分なまま生まれてくる場合があります。これが「心房中隔欠損症」です。心房中隔欠損症では右心房と左心房の間に穴が開いていますので、両方の血液が混じってしまいます。普通は左心房のほうの圧力が高いので、左心房から右心房に血液が流れます。右心房には全身から還ってきた静脈血と左心房からの動脈血が流入します。右心房の入る血液量が正常より増えるわけです。増えた血液は右心室から肺へ流れ左心房に還ってきます。左心房に還ってきた血液の一部は再び右心房に流れ、後の血液は左心室から大動脈に出て行きます。このため、肺の血流量は増大し血管がいたんだり、肺の血圧が高くなったりしてしまいます。また、体をめぐる血液量はやや減少するため、心不全を起こしたりします。ただし、心房中隔欠損症があれば必ず、心不全や肺高血圧を来たすわけではありません。穴が小さい場合は、少量の血液しか左心房から右心房に流れませんので、肺や全身への負担は小さくなります。自然に閉じて、治癒してしまうこともあります。一般的には肺血流量が2倍以上あれば積極的な治療を勧めます。

    新生児や幼児で、心雑音がしたり心電図や胸部レントゲン写真で異常があったりすれば、先天性心疾患を疑います。心エコーを行い、心房中隔に穴を認めたり、血流検査で左心房から右心房への血流が確認されれば心房中隔欠損症の診断がつきます。その後、カテーテル検査などを行い、心臓の状態を正確に調べます。治療は、手術をして心房中隔の穴を閉じるのが一般的で確立された手技です。最近ではカテーテルを使って、より簡単な方法での治療も開発されています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/9

    月報 「聴診器」 2006/9/1

    暑かった夏もそろそろ終わりそうですね。朝晩はだいぶ涼しくなったような気がします。気がするだけかもしれませんけど。この時期、クーラーをつけっぱなしにして寝ていると、思わず風邪をひいてしまうことがあります。ご注意ください。

     

    7 先天性心疾患①、正常の血液循環

     

    今回からは、先天性心疾患について書いてみます。先天性心疾患は、生まれたときから心臓の構造に欠陥がある病気です。心臓には四つの部屋がありそれぞれ右心房、右心室、左心房、左心室と呼ばれています。血液は体に酸素を送り届けたあと、二酸化炭素を回収して、静脈血となり右心房に戻ってきます。右心房から三尖弁を通って右心室に流れ、右心室から肺動脈を通って肺に行きます。肺で、二酸化炭素と酸素を交換し動脈血となったあと肺静脈から左心房に還ってきます。その後僧帽弁を通って左心室に運ばれ、大動脈から全身に血液が送られます。ここで大事なのは、右心房、右心室、肺動脈と言った「右心系」と、肺静脈、左心房、左心室、大動脈と言った「左心系」はそれぞれ独立していることです。右心系と左心系は同じ心臓でも、役割や血液の正常が大きく異なります。右心系では血液は二酸化炭素が多く、酸素が少ない、比較的暗い色をした静脈血が流れています。また、右心系の圧力は15-30mHg程度までしかありません。これに対して、左心系では、酸素が豊富で二酸化炭素が少ない、真っ赤な動脈血が流れており、圧力も100-150mmHgぐらいあります。この、二つの血液の流れが混じらないように、心房と心室には左右を区切る壁があり、大動脈と肺動脈もくっつかないようになっています。

    ただし、これは成人の話です。発生の段階からいきなり、ちゃんとした構造が出来上がるわけではなく、生まれてくる直前まで、胎児の心臓は大人とは異なっています。おなかの中で赤ちゃんの心臓は血管からできてきます。血管の一部が膨らんで、部屋を作ります。そのうち、左右の心房心室を分ける壁ができてきます。生まれる直前には心臓はほぼ成人と同じような形なりますが、肺動脈と大動脈はつながっています。誕生前には、胎児は空気のない環境で暮らしています。そこで、必要な酸素は肺からではなく、胎盤から臍帯をとおして取り込んでいます。この臍帯血が胎児のおへそから入ってきて、静脈に合流します。ここで、酸素濃度が上昇した血液は右心房から右心室を経て肺動脈にいきます。胎児では、肺動脈と大動脈の間をつなぐ「動脈管」という血管がありますが、肺動脈に行った血液の大部分は動脈管から大動脈に流れ、全身に運ばれます。誕生後に産声を赤ちゃんが上げると、肺が広がります。このときに、動脈管も閉じて肺動脈と大動脈は分離されます。右心系と左心系がそれぞれ独立し、成人と同じ血液循環になるのです。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/8

    月報 「聴診器」 2006/8/1

    長い梅雨がやっと終わりましたね。しかし、突然の暑さは身にしみます。朝から、灼熱の日差しが容赦なく照り付け、冷房に慣れている体には「つらい」の一言です。文明に甘えていては、弱るばかりですね。

     

    6 心不全④不全の治療:先端医療など つづき

     

    血管新生療法:心不全になる多くの原因は心筋梗塞のなどの虚血性心疾患です。心臓の栄養血管である冠動脈が細くなったり、詰まったりしたために心臓の筋肉がだめになってしまう病気です。通常は、カーテルによる風船治療や、外科的なバイパス術などの血行再建術を行いますが、どうしても血行再建ができない症例があります。このような症例に対して血管新生療法が考えられています。血管新生の方法は、いくつかの案があります。

    レーザーを利用した方法(PMR)は、血流が不足している部位にレーザーで小さな穴を開ける方法です。当初は大きく期待されましたが、いまひとつ効果が上がらずいまではほとんど行われていません。

    体外衝撃波を利用した方法もあります。体の外から特殊な音波をあてて、心臓に小さな穴を開ける方法です。九大病院の循環器内科が行っています。

    再生治療も研究されています。血管内皮前駆細胞(EPC)や骨髄間葉系幹細胞などの細胞を使った方法と、血管内皮成長因子(VEGF)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのサイトカンを利用したものがあります。この治療法は、心筋以外の血流障害、たとえば下肢の動脈閉塞などに対しては効果があることがわかっています。しかし、心臓については評価が分かれており、まだ確立されたものではありません。

     

    心筋再生療法:上述した血管新生療法に似ていますが、目標が心筋細胞そのものになります。心筋梗塞や心筋症でだめになった心臓の筋肉は二度と元に戻りません。心筋再生療法はバイオテクノロジーを利用して、新しい心臓の筋肉を作ろうとする方法です。これにも骨髄間葉系幹細胞を使用したり、骨格筋芽細胞や胚性幹細胞を使用したりします。こちらも、まだまだ研究段階の治療法ですが、大きな期待がもたれています。

     

    全置換型人工心臓:人工心臓には二種類あります。前号で紹介しVASは補助的人工心臓と呼ばれ、弱った心臓に付け加える形で使用します。実際上、補助的人工心臓は一定期間しか使用できませんが、全置換型人工心臓は心臓そのものと交換する形で恒久的な使用を目指しています。アメリカが1950年代から開発を始め、Jarvik 7やAbioCorなどは臨床応用もされました。しかし、血栓症や感染症のために十分な生命予後が得られていません。日本や韓国でも開発が続けられています。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/7

    月報 「聴診器」 2006/7/1

    暑くなったのに、風邪がはやっていますね。天候のせいでしょうか。

     

    6 心不全④不全の治療:先端医療など

    前回まで心不全治療についてのお話をしてきましたが、先端治療にも触れたほうがいいでしょう。ACE阻害剤やベーターブロッカーの導入で心不全の治療は劇的に改善しました。しかし、どんなに薬をつかってもニッチもサッチもいかない症例もあります。こんなときに先端治療を考慮します。

     

    両心室ペーシング:心臓が弱ってくると、心臓内での電気の流れが悪くなります。このため、心臓病が進むと心臓の収縮にばらつきが出てきます。収縮にばらつきが出ると、心筋のパワーを効率よく心拍出量にすることができなくなります。両心室ペーシングは右心室と左心室に電線を入れることで、収縮のばらつきをなくす方法です。特殊な治療なので限られた施設でしか実施されていません。ちなみに、熊本県で最初にこの手術をしたのは僕でした。

     

    バチスタ手術:最近は、ドラマや小説で触れられているのでご存知のかたも多いかもしれません。ブラジルのバチスタ先生が始めた治療法で「左室縮小形成術」とも呼ばれます。心臓の筋肉が弱り、心臓が異常に大きくなってしまうと、大きいためにさらに機能が低下する悪循環が起こってきます。バチスタ手術は大きくなりすぎた心臓の一部を切り取り小さくする手術です。効果については賛否両論分かれています。すべての症例に効果があるわけではありませんが、劇的改善する症例があることも事実です。日本では葉山ハートセンターや京都大学が有名です。

     

    VAS:植え込み型の補助ポンプを使用する方法です。いろんな機種がありますが、多くは左心室にパイプをつけて血液を抜き、ポンプで大動脈に戻す方法です。血液は全身>右心房>右心室>肺>左心房>左心室>補助ポンプ>大動脈と流れます。この方法はポンプに血栓がつきやすく、また感染症のコントロールも大変です。おもに心臓移植までの待ち時間を乗り切るために使用されています。

     

    心移植:心臓そのものを取り替えてしまう方法です。生体間移植、異種間移植が不可能なので、日本ではまだまだ一般的にはなっていません。倫理的な問題、拒絶反応、感染の問題など、未解決な問題が多い方法ですが、根治的な方法でもあります。以前、友人が受け持っていた患者さんが心臓移植を受けましたが、劇的な改善にびっくりしました。九大でも昨年移植手術の第一例目が行われましたね。

     

    もう少しつづきます。残りは来月に。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/6

    月報 「聴診器」 2006/6/1

    なんだか5月は寒かったですね。ようやく暑くなったとおもったらもうすぐ梅雨です。どうも変な気候が続きますが、体調には気をつけてください。

     

    6 心不全④不全の治療:慢性期

    さて、利尿剤や強心剤を使用し急性心不全を乗り切れたら慢性期の治療へと移行します。古くは慢性心不全の治療も急性心不全と同じような考えで進められていました。「心臓の動きが悪いのであれば、良くすればいいじゃないか!!」との発想でさまざまな強心剤が開発されました。ホルモンの刺激剤や心筋内のカルシウム濃度を増やす薬などが次々に開発され大きな期待が寄せられました。しかし、望んだような結果は得られませんでした。投薬により、一時的に症状が改善するのですが、長期的には心不全が悪化してしまったのです。

    この反省からわかってきたことは、「弱った心臓を無理やり動かしても長持ちしない」ということでした。無理やり動かせば、疲れるばっかりだったんですね。そこで「心臓の負担を減らして休ませたら、長持ちするんじゃないだろうか」と考えました。具体的には、血管を拡張させる治療が行われました。これが実にいい結果をもたらし、以後の心不全治療の主流となりました。これを、血管拡張療法といいます。

    ところが、その後さらに新しい考え方が出てきました。心臓は体に血液を送り出すポンプの役目をしていますが、内分泌臓器としても働いています。さまざまなホルモンの影響を受けたり、自分からホルモンを出したりしているのです。心不全の病態についても、単に機械的不具合と言ったことだけでなく、ホルモンバランスの悪化との側面でもとらえられるようになってきました。そこで、心臓に対して悪い作用をもたらすホルモン(レニン・アンギオテンシン系やカテコールアミンなど)をブロックする薬が使用されました。これらの薬はすでに高血圧の薬として使用されているものでしたが、心不全についても劇的に寿命を延ばすことがわかってきました。

    現在の慢性心不全の治療はこのような考えの下に行われています。予後を改善する薬としてはACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、ベーターブロッカーなどが使われます。これらの薬を使用する際、できるだけ血圧を下げて、心臓の負担を減らすことが大切です。ふらつきなどの症状がなければ、90mmHg以下まで血圧を下げて治療することもよくあります。利尿剤は、長期的には腎臓や心臓そのものに影響を与えるので、むくみ具合などを見ながら、必要最小限量で使用するようにしています。

    心不全の治療薬は「高血圧の薬」として売られている場合が多いので、薬局でもそのように説明され、不思議に思っている方もいると思います。しかし、心臓病がある場合には、「心不全の治療薬」として飲んでいただいていますので、安心して内服を続けてください。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/5

    月報 「聴診器」 2006/5/1

    連休はいかがでしたか。僕は家族で海まで遠足に行きました。子供たちは以外にも元気に歩き通してくれました。ただし、パパはダウン寸前で日ごろの運動不足を痛感しました。

     

    6 心不全④不全の治療:急性期

    心不全を思わせる症状があり、検査で心不全とわかれば次は治療です。心不全の治療について大事なのは急性期の治療と慢性期の治療を区別することです。まずは急性期の治療から説明しましょう。

    心臓の機能が衰えると体がむくんだり、息が苦しくなったりします。これが急性心不全です。急性心不全の治療では、まず心機能が低下している原因を治療することが重要となってきます。心機能低下の原因が急性心筋梗塞であれば、カテーテル検査をして早急に血行再建を行います。もし、原因が不整脈であれば抗不整脈薬を投与したり、電気ショックをしたりします。もともと心機能が低下している場合に、体が無理をして急性心不全を起こすことがあります。このときにも、その原因の治療が大事になってきます。たとえば、感染症がきっかけで心不全を発症した場合には抗生剤が必要ですし、貧血があればその治療をします。そして何より安静が一番大事です。

    心不全は心臓による血液の供給と体の需要のバランスが崩れる病態です。したがって、心不全時には組織の血流が低下します。血液はさまざまなものを運んでいますが、一番重要なのは酸素です。そこで、急性心不全の治療ではできるだけ酸素濃度をあげるようにします。

    急性心不全時には心臓のポンプ機能と体の水分バランスが崩れています。多くの場合はポンプ機能に比べて水分量が多すぎる状態になっています。この多すぎる水分が手足をむくませたり、肺にたまって呼吸困難を引き起こしたりします。多すぎる水分を出すためには利尿剤を使用します。利尿剤を投与しても尿が出ない場合には緊急に透析をします。透析ができない環境で急ぐ時には瀉血(血液を抜くこと)をする場合もあります。ただし、心機能が非常に低下している場合には、急に水分量を減らすと血圧が下がってショック状態になることもあるので注意が必要です。

    血圧のコントロールも大事です。高い血圧は心臓に余計な負担をかけ、心不全を悪化させていきます。薬で血管を広げて、心臓が楽に動けるようにします。ただし、血圧が低すぎてもよくありませんので、だいたい90-140mmHg程度になるようにします。

    心機能が非常に低下している場合には、強心剤を使用する場合もあります、最近は漫然とした強心剤の使用について反省されていますが、やはり急性心不全の治療に強心剤は強い味方となります。強心剤の代わりに補助ポンプを使用するときもあります。空気で広がる細長い風船を動脈に入れて補助ポンプにするのです。それでもだめなときには、体外式の補助ポンプを使用します。最重症例では一時的に体外式人工心肺を使用して心臓が動かなくても何とかなる状態にします。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/4

    月報 「聴診器」 2006/4/1

    一暑くなりましたね。宗像では冬から一気に夏になるような気がしますね。

     

    6 心不全④不全の治療

    心不全を思わせる症状があり、検査で心不全とわかれば次は治療です。心不全の治療について大事なのは急性期の治療と慢性期の治療を区別することです。まずは急性期の治療から説明しましょう。

    心臓の機能が衰えると体がむくんだり、息が苦しくなったりします。急性心不全です。急性心不全の治療では、まず心機能が低下している原因を治療することが重要となってきます。心機能低下の原因が急性心筋梗塞であれば、カテーテル検査をして早急に血行再建を行います。もし、原因が不整脈であれば投薬をしたり電気ショックをしたりします。また、もともと心機能が低下している場合に、体が無理をして急性心不全を起こすことがあります。このときにも体が無理をしている原因の治療が大事になってきます。たとえば、感染症がきっかけで心不全を発症した場合には抗生剤が必要ですし、貧血があればその治療をします。何より安静が一番大事です。

    心不全は心臓による血液の供給と体の需要のバランスが崩れる病態です。したがって、心不全時には組織の血流が低下します。血液はさまざまなものを運んでいますが、一番重要なのは酸素です。そこで、急性心不全の治療ではできるだけ酸素濃度をあげるようにします。

    急性心不全時には心臓のポンプ機能と体の水分バランスが崩れています。多くの場合はポンプ機能に比べて水分量が多すぎる状態になっています。この多すぎる水分が手足をむくませたり、肺にたまって呼吸困難を引き起こしたりします。多すぎる水分を出すためには利尿剤を使用します。利尿剤を投与しても尿が出ない場合には緊急に透析をします。透析ができない環境で急ぐ時には瀉血(血液を抜くこと)をする場合もあります。ただし、心機能が非常に低下している場合には、急に水分量を減らすと血圧が下がってショック状態になることもあるので注意が必要です。

    心機能非常に低下している場合には、強心剤を使用する場合もあります、最近は漫然とした強心剤の使用について反省されていますが、やはり急性期の治療には強心剤は強い味方となります。強心剤の代わりに補助ポンプを使用するときもあります。空気で広がる細長い風船を動脈に入れて補助ポンプにするのです。それでもだめなときには、体外式の補助ポンプを使用します。最重症例では一時的に体外式人工心肺を使用して心臓が動かなくても生きて聞ける状態にします。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/3

    月報 「聴診器」 2006/3/1

    ようやく、暖かさの兆しが見えてきましたね。その代わり、花粉が飛び始めました。今年は去年ほどの飛散量は無いそうですが、症状のつらさは変らないようです。花粉症は、花粉の量だけでなく、排気ガスの量や体調にも左右されるようですね。

     

    6 心不全②心不全の症状

    前回は、大まかに心不全の病体について説明しました。では、心不全のときにはどんな症状が出てくるのでしょう。心不全には二つの病態が潜んでいます。拡張不全によるうっ血と、拍出量不足による組織の血流不足です。したがって症状も二種類に分けて考えられます。うっ血のほうでは、症状はむくみとなって現れます。足がむくむとき、顔がむくむときは心不全を疑います。足のむくみは「靴下の痕がはっきり残る」「足が重たい」などの訴えとなることが多いようです。顔のむくみは本人は気がつかないことが多く、家族や医師から指摘されることが多いようです。僕は、診察中には必ずまぶたを見るようにしています。肺がむくめば、酸素を上手に取り込めなくなり息苦しくなります。肺は小さな泡が集まったような構造をしていますが、酸素はこの泡の壁の部分から吸収されます。まず、この壁の部分むくみが始まり、酸素の吸収が低下するのです。むくみが進めば気管支や肺の外側にも水がたまります。

    最初は、無理な運動をすると息苦しく感じますが、心不全が進めば少しの動作で息苦しさを感じるようになります。やがて、じっとしていても息が苦しくなります。心不全のときには寝ると息苦しさが悪化するのが特徴です。これは、寝ることで足の静脈血が胸に帰りやすくなり、結果的に肺のむくみが増悪するからです。このとき、血液中の酸素が低下するため、爪や唇がどす黒くなります。このとき、肺胞から水が染み出してきて痰が多くなりますが、典型的には水っぽいピンク色の痰が出ます。ここまで進めば、救急車で即、入院です。

    また、心不全では心拍出量が減り、全身の臓器に血液が不足します。四肢の血流が不足すれば、手足が異常に冷たくなって色が悪くなります。頭の血流が不足すればフラフラします。腎臓の血流が不足すれば尿が少なくなります。ひどい場合には、冷や汗が出て身の置き所の無いきつさに襲われます。心拍出量の不足によって腎血流が低下すれば、尿が減り、うっ血がひどくなります。また、うっ血がひどくなれば心臓の負担が増え、心拍出量が更に低下します。むくみと、血流不足の悪循環が存在するのです。

    もともと心臓が悪い人が無理をすると、心不全が増悪しやすくなります。たとえば、いきなり力仕事を沢山するとか、感染症にかかるとか、塩分の多い食事をするなどのきっかけで、症状が悪化することが多いようです。症状が軽度の心不全でも、無理が重なれば悪循環が始まれば、瞬く間に増悪していきます。実際、こちらがヒヤリとすることもしばしばです。疑わしい症状があれば、無理せず安静にして早めに受診してください。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2006/2

    月報 「聴診器」 2006/2/1

    寒さも一段楽したようですね。でも、去年はここから寒さがぶり返していましたね。皆様も気を抜かずに体調管理に勤めてください。

     

    6 心不全①心不全とは

    これまで、いろんな心臓の病気の話をしてきました。心筋梗塞や弁膜症、心筋症でさまざまな症状が出ます。その中で特に問題となるのは心不全と突然死です。今回からはまず、この心不全について説明していきます。

    心臓は筋肉で出来たポンプになっています。このポンプは二つの重要な役割をしています。ひとつは静脈から帰ってきた血液を受け取る役割です。もうひとつは、心臓から全身に血液を送り出す役割です。血液は心臓から全身に送られ、全身から心臓に帰ってきます。血液は体に栄養や酸素を届けた後、静脈を通って心臓に帰ってきます。心臓では右心房にまず血液は集められ、ついで右心室に運ばれます。血液は右心室から肺動脈を通って肺に届き、肺で酸素をたっぷり吸って肺静脈から左心房に帰ってきます。そして左心房から左心室に行き、左心室から全身に送られます。

    心臓の働きが悪くなれば、この血液の流れに支障が出ます。心臓が血液を受け取る役目が衰えてくると、肺や全身の血液が心臓に帰ってきにくくなります。静脈が拡張し圧力も高くなってきます。すると、血管から水分が回りに染み出してきます。顔や足に水分が染み出せば、「むくみ」となります。肺に染み出せば「肺水腫」となります。肺水腫になれば、肺に酸素があまり入らなくなり、しかも血液が酸素を取り込みにくくなります。非常に息苦しくなるわけです。肺水腫では寝ると息苦しさが悪化するのが特徴です。これは、寝ることで足の静脈血が胸に帰りやすくなり、結果的に肺のむくみが増悪するからです。これらを「うっ血性心不全(Conjunctive Heart failure: CHF)」と言います。

    心臓が血液を送り出す力が弱ると、全身の臓器に血液が不足します。四肢の血流が不足すれば、手足が異常に冷たくなって色が悪くなります。頭の血流が不足すればフラフラします。腎臓の血流が不足すれば尿が少なくなります。ひどい場合には、冷や汗が出て身の置き所の無いきつさに襲われます。これらを「低心拍出量症候群(Low Output Syndrome :LOS)」といいます。

    正常な心臓でも、処理すべき水分量が過量だとうっ血が起こり、水分量が少なすぎると低心拍出量となります。ただし、正常な心臓では処理可能な水分量の範囲が広く、少々のことではどうもありません。一方、病的な心臓では適正な水分量の範囲が狭く、容易に心不全を起こします。病態に応じた適切な水分量を考えて治療を行っていきます。うっ血性心不全と低心拍出量症候群は別々に起きる場合もありますが、同時に起こることもあります。この場合は治療に大変苦労します。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

     

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