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  • 月報 「聴診器」 2006 /1

    月報 「聴診器」 2006/1/1

    新年あけましておめでとうございます。以前から懸案だったテレビをつけてみました。いかがでしょうか。少しでも待ち時間が楽しく過ごせるとよいのですが。

     

    5心筋症④

    前回までは、心臓の筋肉自体の異常で起こる病気、拡張型心筋症や肥大型心筋症についてお話をしてきました。これらの心筋症がなぜ起こるかは正確にはわかっていませんが、遺伝的な異常や感染症が関与していると考えられています。

    ただし、心筋症の中には他の病気に引き続いて起こるものがあります。これを続発性心筋症や二次性心筋症と呼びます。

     

    高血圧性心臓病;続発性心筋症で一番多いものです。血圧が高いとその血圧に対抗して、心臓は収縮をしますので、このため心臓の筋肉が厚く硬くなります。そのまま高血圧が続けば、そのうち心臓の収縮が低下し、心不全を起こすようになります。

     

    サルコイドーシス性心筋症;サルコイドーシスは肺や皮膚、目などに結節を作る病気です。基本的には良性の病気ですが、心臓に結節を作ると不整脈や突然死の原因となったりします。

     

    アミロイドーシス;アミロイドと呼ばれる小さな物質が体の隅々にたまる疾患です。胃腸の粘膜にアミロイドが貯まると下痢や消化不良が続いたりします。神経にたまれば手足がしびれてきたり排尿が困難になったりします。心臓にたまれば、心筋が厚ぼったくなったり脈拍が遅くなったりします。末期には心臓の周りに液体がたまり心不全となります。

     

    筋ジストロフィー;先天的に筋肉が障害を受ける病気です。全身の筋肉が弱ってくるため歩行がしにくくなってきます。病気が心臓にまで波及すると、心臓の動きが悪くなります。

     

    皮膚筋炎;膠原病の一種で、自分の皮膚や筋肉に対する自己抗体が出来て炎症を起こす病気です。全身の筋肉が弱まってきますが、心臓まで波及すれば心臓の収縮が弱くなります。

     

    リンパ腫;血液の病気の一種です。全身のリンパ節が腫大していきます。心臓に腫瘤を形成し、不整脈や心不全の原因となることがあります。

     

    頻拍惹起性心筋症;頻拍性不整脈が続くと心臓が疲れてしまって動きが悪くなります。アブレーションなどで頻拍の治療が出来れば、心臓の動きも元に戻ります。

     

    いずれの続発性心筋症でも源疾患の治療が第一になってきます。心筋症を疑ったときには、これらの疾患をチェックすることも大切です。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」2005/12

    月報 「聴診器」 2005/12/1

    いよいよ師走ですね。今年もあっという間に一年が過ぎました。皆様にとっては良い年だったでしょうか。良かった人も、そうでなかった人も来年はいい年になるといいですね。

     

    5心筋症③

    今回は不整脈源性右室心筋症(Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy: ARVC) についてお話をします。耳慣れない病気と思いますが、確かに非常に珍しい病気です。日本全国でも200名前後しかいないと思います。けれども、以前僕はこの病気の研究をしていたので、ちょっと話をさせていただきます。

    40年ほど前にイタリヤで列車事故がありました。山から下ってきた列車がブレーキをかけずに終点の駅に突っ込んでしまったのです。どうやら運転手が気を失ってブレーキがかけられなかったようです。大勢の人と一緒に運転手も亡くなりましたが、その運転手はこれまで特に病気は指摘されていなかったそうです。遺体を解剖してみると右心室が異常に大きく、心筋に脂肪がたくさん混じっていました。このから、この運転手はARVCで不整脈を発症したために失神し大事故につながったのだろうと推測されました。

    心筋梗塞や弁膜症、拡張型心筋症の存在は早くから知られていました。これらは、左心室の病気です。ふつう、医者が「心臓」や「心機能」というときは「左心室」や「左心室機能」の話をしていることが多いです。心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があります。このうち、左心室は全身に血液を送っている部屋であり、一番大事な部屋です。左心室が止まれば人間は死にますし、動きが悪くなれば心不全を起こします。他の3つの部屋が止まっても、多少の不具合は生じますが、命に別状はきたしません。ところが、原因不明の突然死を起こす人たちの中に、右心室が異常大きく、右心室の心筋に脂肪組織が浸潤した症例が多く存在するのが分かって来ました。このような症例を多く集め、新しい心筋症としてF.Marcus医師とG. Fontane医師が1982年に発表しました。原因不明の突然死の解明につながると注目され、その後同様の症例が世界中で見つかりました。最近では猫や犬にもこの病気が発症することが知られています。

    ARVCでは徐々に右室心筋が障害を受け、脂肪に置き換わっていきます。このため、右心室の収縮力が低下し、右心室が拡張してきます。右心室の筋肉が傷害されているため、そこから不整脈がよく出てきます。特に、心室頻拍などの致死性不整脈が多く見られます。この不整脈が突然死の原因になるのです。しかし、左心室は正常な場合が多く心不全症状などは早期には出現しません。したがって、これまでは無症状であったのに突然不整脈が出現して失神したり、死亡したりすることになります。

    ARVCでは心電図にε波と呼ばれる特徴的な波形が認められ、心エコーでは右心室の拡張が認められます。ただし、こういった特徴的な所見にかける症例もあり、カテーテル検査や心筋生検(心臓の筋肉を少し採ってきて、顕微鏡で調べる検査)が必要な場合もあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」2005/11

    月報 「聴診器」 2005/11/1

    急に寒くなってきましたね。風邪の患者さんも増えてきました。風邪は基本的には粘膜の病気です。粘膜は乾くと弱ってきます。風邪の予防のため、鼻やのどが乾かないようにしてください。

     

    5心筋症②

    前回は、拡張型心筋症の話をしました。拡張型心筋症は心臓がふくらんでくる病気です。心筋症の中には、心臓がふくらまずに、壁が厚くなってくる病気があります。これは肥大型心筋症と呼ばれます。

    肥大型心筋症では、心臓の筋肉自身が病気になり、筋繊維一本一本が太くなってきます。心臓の筋肉が厚ぼったくなると、心臓が硬くなってきます。心臓は血液を送り出すと同時に血液を受け取っていますが、心臓が硬くなってくるとこの血液の受け取りが不得意になってきます。そうすると、一見心臓の収縮はいいのに心不全を起こしやすくなってきます。また、心筋が肥大すると不整脈がよく起きるようになってきます。脈拍は心臓の中に電気が流れることによって調節されていますが、心臓の筋肉がダメージを受けた状態では、この電気の流れが乱れて不整脈が起きやすくなっているのです。特に肥大型心筋症では、あまり病気が進んでない段階でも危険な不整脈が出ることがあります。中には、遺伝的に肥大型心筋症があり、突然死が多い家系も見つかっています。

    肥大型心筋症の中でも閉塞性肥大型心筋症と呼ばれるものは予後があまりよくありません。これは、左心室の出口部分が狭くなって心臓に負担がかかる疾患です。左心室は大動脈から全身に血液を送り出しています。その左心室から大動脈へ向かう部分の筋肉が厚くなることがあります。厚くなると出口が狭くなってきます。狭くなってくると左心室が血液を送り出すのに余計圧力をかけなければいけなくなり、心臓の中の圧力が極端に高くなります。たとえば、全身の血圧が120mmHgぐらいでも心臓の中では200mmHg以上ある場合があります。圧力が高すぎると心臓が収縮できなくて動かなくなることもあります。この閉塞性肥大型心筋症に対しては、いろいろな薬物や、ペースメーカーで治療を行います。それでも、治療が困難な場合は手術で肥大した部位を切り取ります。最近では、カテーテルを使って肥大した部位を除去する方法も開発されています。

    心電図異常や不整脈の患者さんに心エコーをすると心肥大が見つかることがあります。ただし、心肥大があればすべてが肥大型心筋症ではありません。多くは高血圧による心肥大で肥大型心筋症とは肥大のパターンがやや異なります。他にも、アミロイドーシスや弁膜症との鑑別も必要です。診断が難しい場合は、カテーテル検査や心筋生検を行う場合もあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」2005/10

    月報 「聴診器」 2005/10/1

    ようやく、涼しい風もときおり吹くようになってきましたね。今年の夏は、無事に過ごせたでしょうか。気候がよくなり、食べ物がおいしくなってくると糖尿病やコレステロールの値が悪化してくるかたもいらっしゃいます。「スポーツの秋」、「読書の秋」がいいですね。

     

    5心筋症①

    これまで、不整脈や心筋梗塞、弁膜症で、心臓の力が弱まる話をしてきました。では、それらの疾患が無ければ心臓の力が弱まらないかといえば、そんなことはありません。「心筋症」という病気があり、これによって心臓の力が弱まることもあるのです。

    心臓というのは、筋肉で出来た袋です。この袋が、筋肉の力で縮むことによって血液を押し出しているのです。ところが、様々な原因でこの筋肉が弱れば、縮む力も弱くなり、心臓の機能が損なわれてしまいます。この、心臓の筋肉自身が弱っていく病気を「心筋症」といいます。心筋症は「特発性心筋症」と「続発性心筋症」に分けられます。「特発性心筋症」とは、特にはっきりした原因疾患が無いのに心臓の筋肉が弱っていく病気です。「続発性心筋症」とは、いろいろな病気、例えばサルコイドーシス症やアミロイドーシなど、が原因で心臓の筋肉が弱ってしまう病気です。「特発性心筋症」は、その形態的差から「拡張型心筋症」と「肥大型心筋症」と「拘束型心筋症」に分けられます。

    拡張型心筋症はその名のとおり、心臓が大きくなっていく心筋症です。心臓の筋肉自身がダメージを受けて、収縮力が弱くなってくると、心臓は拡張を始めます、ここで注意しなければならないのは「拡張」と「肥大」の言葉の違いです。心臓の内腔が大きくなることは「拡張」と呼ばれ、心臓の筋肉自信が厚くなることは「肥大」と呼ばれます。拡張と肥大が同時に起こることもありますが、拡張型心筋症では拡張だけが起こり、肥大は起こりません。むしろ、心臓の筋肉は薄くなっていきます。一度、拡張が始まれば、弁膜症が悪化したり、心臓に無理がかかったりして更なる拡張を招きます。拡張型心筋症が進んだ患者さんでは、心臓の大きさが倍以上になり、収縮力が半分以下になったりします。拡張型心筋症が進行すれば、体に十分な血液を送れなくなり心不全状態となります。また、不整脈も頻発するようになります。脈拍は心臓の中に電気が流れることによって調節されていますが、心臓の筋肉がダメージを受けた状態では、この電気の流れが乱れて不整脈が起きやすくなっているのです。

    拡張型心筋症ではなぜ心臓の筋肉が弱っていくのかあまりよく分かっていません。心臓の筋肉の感染症が原因であるといわれたり、遺伝的に心臓の筋肉が弱いといわれたりしています。また、その病態も、急速に進行するものから、徐々にしか進行しないものまで様々です。現在では、いろいろな原因による、いろいろな心臓の筋肉の病気が、同じような形態をとってしまったのではないかと考えられています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2005/9/1

    月報 「聴診器」 2005/9/1

    暑い日が続きますが、朝晩は少し涼しい風が吹いてきました。いつのまにか、蝉の声も「ジージー」から「ツクツクホーシ」に代わっています。少しずつ秋の気配ですね。

     

    4弁膜症④ 症状、検査、治療

    前回まで、僧帽弁疾患、大動脈弁疾患のだいたいのところを説明しました。では、これらの弁膜症ではどんな症状が出てくるでしょうか。僕たち循環器医が弁膜症を疑うのは、①心不全症状がある場合、②不整脈・心電図異常がある場合、③心雑音を指摘された場合、④重症感染の場合です。心不全症状は、弁膜症などで心臓の機能が衰えてくると出てくる症状です。手足がむくんだり、動くと息苦しくなったり、ひどい場合には横になると息苦しくなるため座ったまま寝ていることもあります。弁膜症が不整脈の原因になっている場合があります。不整脈自体はたいしたことの無いものであっても、調べてみるとひどい弁膜症がある場合もあります。また、重症の弁膜症では心臓の形が変形したり、心臓の筋肉が弱ったりして心電図が変化することもあります。ただし弁膜症であれば、必ず心電図変化や症状が出てくるわけではありません。検診や他の疾患で受診していただいたときに、たまたま見つかる場合があります。この場合は軽症なものがほとんどですが、中には定期的な観察が必要な例もありました。重症感染症の場合は、弁膜症がばい菌の巣になっている場合があります。前回述べた感染性心内膜炎ですね。

    さて、弁膜症を疑った場合、次に検査をします。検査の一番初めは、聴診です。医師にとって聴診は基本ですが、検査機器が進歩しすぎたせいでしょうか、最近ではあまり大事にされていないようです。これに関しては、昔の医師のほうが優秀で心雑音だけで細かい診断や、重症度が分かる先生もいらっしゃいました。次に弁膜症の検査で欠かせないのは心臓エコーです。エコーは超音波を利用した検査で、痛みや体に負担をかけることの無い検査です。エコーでは、心臓の形、動き、血流などがわかります。心臓エコーでは、心臓の大きさ、壁の厚さ、収縮の様子、血液の流れを見ます。逆流や加速血流が容易に分かるので、弁膜症の検査にはうってつけです。そのほか、弁の固さや、心臓の中の圧力などもわかります。これらを総合して心臓エコーで重症度を判定することができます。重症であれば、カテーテル検査をします。これは細い管を心臓に入れて行う検査で、入院が必要です。心臓の中に入れた管から圧力をはかったり、造影剤を入れて逆流の様子を観察したりします。

    弁膜症は程度により、軽症、中症、重症に大別されます。このうち、軽症の場合は定期的に心エコーで観察のみおこないます。中程度以上では、内服薬で心臓の負担をとる治療をします。重症例では弁置換術や弁形成術などの手術が行われます。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」2005/8

    月報 「聴診器」 2005/8/1

    暑いですね。芝生の雑草がわらわらと伸びだして大変です。雑草って強いですね。見習いたいものです。

     

    4弁膜症④ 感染性心内膜炎

    弁膜症と密接に関係する病気が感染性心内膜炎です。感染性心内膜炎は心臓の中にばい菌がつく疾患で、重症感染症のひとつです。汚れた傷口があれば、血液にばい菌が入ることがあります。健全な状態であれば、このばい菌にたいして免疫機能が働き、ばい菌は速やかに駆除されます。しかし、抵抗力が弱っていたり、弁膜症があったりすれば、ばい菌は心臓に巣を作ってしまいます。ばい菌は心臓に巣を作るだけでなく、心臓の構造を破壊していきます。特に心臓の弁は、ばい菌が好む場所で、ばい菌の塊がつくと弁に穴が開いたり、弁をつないでいる紐(腱索)が切れたりします。その結果、急速に血液に逆流が進み、心不全となります。

    熱がなかなか引かず、心不全を疑わせる症状のある患者さんがこられれば、僕たちは、感染性心内膜炎を疑います。聴診で心雑音があればなおさら感染性心内膜炎の可能性が高くなります。レントゲンや心電図、採血検査も重要ですが、まず行う検査は心エコーです。心エコーで血液の逆流や、弁の破壊を見ます。エコーで、ばい菌の巣(vegetation)が見つかれば診断は確実になります。ばい菌の巣が無くても、白血球が上昇し、血液の逆流があり、検尿で異常があり、他に肺炎など無ければ、やはり感染性心内膜炎を強く疑います。

    感染性心内膜炎の治療は、原則、入院です。ばい菌の巣は血液の塊や繊維で出来ていて、ばい菌を殺す薬(抗生剤)が中に入り込みにくくなっています。このため、治療には多量の抗生剤を長期間使用する必要が出てきます。弁膜症が重症で、手術が必要な場合は抗生剤投与後、ばい菌がいなくなったのを確認してから行います。ただし、心不全がひどい場合や、後述の脳合併症を繰り返す場合には手術を早めに行う場合もあります。

    心臓は全身に血液を送っている臓器ですので、心臓にばい菌がつくと、ばい菌は血液に混ざって全身に運ばれます。腎臓や脳にもばい菌は運ばれますが、特に心配なのが脳の血管です。脳の細い血管にばい菌がつくと動脈瘤を形成し最悪の場合、脳出血をおこします。また、心臓からばい菌の巣の一部がちぎれて流れてくると、脳の血管をふさいで脳梗塞を起こします。

    弁膜症は感染性心内膜炎の原因となることもありますし、結果となる場合もあります。感染性心内膜炎は治療が遅れれば、様々な合併症が起こり予後不良となる疾患です。熱がでてなかなか下がらない場合、むくみや呼吸困難を伴う場合、抜歯や外傷後に熱が続く場合などは、感染性心内膜炎を疑って、医療機関を受診するようにしてください。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2005/7

    月報 「聴診器」 2005/7/1

    天気が続きますね。釣川の水は大丈夫でしょうか。皆様も脱水に気をつけてください。

     

    4弁膜症③ 大動脈弁疾患

    今回は大動脈弁の病気です。大動脈弁は左心室と大動脈の間にある弁です。左心室が収縮して血液を送り出すときには大動脈弁は開き、左心室が拡張している間はしまっています。大動脈弁は三枚の弁で構成されていて、閉じたときにはお尻のような形になります。

    この、大動脈弁の開きが悪くなると左心室から大動脈に血液がスムーズに流れなくなってきます。大動脈弁狭窄症です。出口が狭くなっていますので、左心室の中の圧力と、大動脈の圧力に差が出てきます。たとえば、左心室が200mHgの力で押していても、実際の血圧は120mmHgぐらいだったりします。すると、左心室に大きな負担がかかりますので、左心室の壁が厚くなってきます。狭窄がひどくなれば、左心室は疲れきってしまい心不全や、突然死をきたすこともあります。また、左心室の中より血圧は低くなりますので、ひどい場合には頭の血流が低下して失神をしたりもします。

    大動脈弁の閉じが悪くなる病気が、大動脈弁閉鎖不全症です。左心室が収縮して血液を大動脈に送っても、大動脈から左心室に血液が戻ってきてしまいます。たとえば、左心室が100mlの血液を送り出しても、50mlが逆流してしまうのです。左心室には、左心房から来る血液と、大動脈から逆流してくる血液が流入してきますので、左心室はどんどん大きくなってきます。大動脈弁閉鎖不全症も重症になれば、失神、心不全、突然死をきたします。

    大動脈弁狭窄症や閉鎖不全症の原因はいろいろあります。子供のころのリウマチ熱によるものや、高血圧なども原因となります。特に注意したいのは、感染性心内膜炎です。歯を抜いたり、傷にばい菌が入ったりした場合になどに、心臓にばい菌がついてしまうことがあります。ばい菌は、心臓の弁を破壊しながら増えていきますので、急速に弁膜症が進み心不全をきたします。そのほかにも、大動脈が進行性に拡張する病気(AAE)や動脈瘤、大動脈炎症候群、大動脈二尖弁なども大動脈弁疾患の原因となります。

    治療は、軽症では薬物療法を行い、重症であれば手術を行います。ただし、左心室の機能があまりにも悪くなると手術が難しくなるため、僧帽弁疾患より、やや早めに手術をする必要があります。手術は弁を取り替える、弁置換術が主流ですが、最近は可能であれば弁を修復する手術も多くなってきています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2005/6

    月報 「聴診器」 2005/6/1

    アッと言う間に6月ですね。蒸し暑くなってきましたね。食中毒がはやりだす季節です。ご注意ください。

     

    4弁膜症② 僧帽弁疾患

    前回は、弁膜症についてその概要をお話しました。心臓には、逆流を防ぐために弁が4つあります。それぞれの弁が不調になると弁膜症になります。今回は、左心房と左心室の間にある僧帽弁について考えてみましょう。

    僧帽弁では、左心房が収縮して左心室に血液を送るときは、弁が開いて血液が流れるようにします。次に、左心室が収縮して血液を大動脈に送ります。このとき、僧帽弁が閉じて血液が左心房に逆流するのを防ぎます。僧帽弁の開きが悪くなると、血液の流れが悪くなり、心臓に負担がかかります。「僧帽弁狭窄症」という病気です。

    僧帽狭窄症になると左心房から左心室へ血液がスムーズに流れませんので、左心房が腫れてきます。左心房の腫れがひどくなると、肺もはれてきて息苦しくなります。心不全です。また、左心房に負担がかかるため、不整脈がよく出るようになります。僧帽弁狭窄症に合併する不整脈の代表は心房細動です。心房細動では血栓を作り脳梗塞を起こすことがありますが、僧帽弁狭窄症では左心房が大きくなっているため、血栓がよりできやすくなります。軽症の僧帽弁狭窄症では、内服薬で心不全や不整脈、血栓症のコントロールを行いますが、重症例では手術が必要になってきます。手術は、心臓を切り開いて弁を取り替える場合や、足からカテーテルを使って行う方法などがあります。

    逆に僧帽弁の閉じ方が悪くなってしまう病気もあります。僧帽弁閉鎖不全症です。僧帽弁閉鎖不全症では左心房から左心室に血液が流れるときには、ちゃんと、弁が開きますが、左心室が収縮して血液を大動脈に送り出すときには、血液が左心房に逆流してしまいます。左心室が収縮するときには、強い力がかかり、左心室内は高圧になります。本来ならば、僧帽弁がこの圧力に負けないように、きちんと閉じて血液の逆流を防いでいます。しかし、僧帽弁閉鎖不全症では僧帽弁がきちんと閉じないため、圧力の高い左心室から圧力の低い左心房に血液が逆流してしまうのです。逆流量が多ければ、やはり、左心房に負担がかかり、左心房が拡大します。また、結果的に左心房から左心室へ行く血液も多くなりますので左心室も拡大していきます。重症例では左心室の収縮も悪くなります。左心房への逆流量が多ければ、肺の血管までむくんできます。特に急激に僧帽弁の閉じが悪くなれば、急激に肺がむくんで呼吸困難になります。たとえば、僧帽弁をつないでいるヒモ(腱索)が切れると、急性僧帽弁閉鎖不全症を来たし、急性心不全となります。以前、H元首相がこの「検索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全による、急性心不全」のため緊急手術を受けています。他にも、感染症や弁のずれ、リウマチ熱などが僧帽弁疾患の原因となってきます。

    実は、軽症の僧帽弁閉鎖不全症は非常に多く認めます。エコーをすれば10人中5人ぐらいは軽度の僧帽弁閉鎖不全症が見つかります。ただし、これの病的意義は余りありません。重症になれば手術が必要ですが、軽症から中症であれば薬物治療で十分です。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報「聴診器」2005/5

    月報 「聴診器」 2005/5/1

    5月になると、急に暑くなってきましたね。連休はいかがだったでしょうか。

     

    4弁膜症①

    今回からは、弁膜症の話です。弁膜症も、狭心症や心筋梗塞と同じぐらいよくある病気ですが、全く問題の無いものからすぐに手術が必要なものまで、重症度がさまざまです。

    心臓は筋肉で出来た袋のような構造になっています。この袋が、収縮をしてポンプのように血液を送り出しています。心臓には部屋が4つあり、それぞれ右心房、右心室、左心房、左心室と呼ばれています。血液は、頭や筋肉などの臓器で使用された後は静脈血となり、静脈から心臓に帰ってきます。静脈血はまず、右心房に入り次に右心室に送られます。右心室からは肺動脈が出ており、血液はここを通って肺に行きます。血液は肺で酸素を十分取り込み動脈血となります。酸素を取り込み、動脈血となった血液は左心房に入り込み、次いで左心室に送られます。左心室からは大動脈が出ており、ここから全身に血液が送られます。

    血液はこの経路を一定方向に流れています。そのため、心臓には弁がついており血液が逆流しないようになっています。心臓には4つ弁があり、右心房と右心室の間には三尖弁があり、右心室と肺動脈の間には肺動脈弁があり、左心房と左心室の間には僧房弁があり、左心室と大動脈の間には大動脈弁があります。たとえば、僧房弁では、左心房が収縮して左心室に血液を送るときは、弁が開いて血液が流れるようにします。次に、左心室が収縮して血液を大動脈に送ります。このとき、僧房弁が閉じて血液が左心房に逆流するのを防ぎます。このように、心臓は4つの弁がきちんと開いて、きちんと閉じることで効率よく動いているのです。しかし、この弁が何らかの原因で、しまりが悪くなったり、開かなくなったりすると、心臓が効率よく動かなくなり、ひどい場合には心不全を起こします。弁が動かなくなる原因は、先天性、心筋梗塞、感染性心内膜炎(心臓にばい菌がつく病気)、腱索断裂、リウマチ熱、膠原病、高血圧など多数あります。弁膜症は軽症の場合は、経過監査で十分ですが、中等症以上になれば薬で心臓の負担を軽くする必要があります。重症の場合には手術が必要となります。                                                    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報「聴診器」2005/4

    月報 「聴診器」 2005/4/1

    やっと暖かくなってきましたね。4月です。僕も、後輩が技術を覚えてくれたので、木曜日に少しは診療できるようになりました。これからは、木曜日の9時から11時まで診療をします。今までご迷惑をおかけしました。

    3.心筋梗塞⑥ 心筋梗塞、慢性期の治療

    これまでは、主に心筋梗塞の急性期の治療について説明して来ました。急性期の治療がひと段落し無事退院しても継続的な治療が必要になってきます。

    心筋梗塞を起こした心臓には慢性期にも様々な心配が出てきます。心臓の動きが悪いため、全身の臓器が血液不足になったり、体がむくんだりします。心不全です。心臓の一部が動かなくなると重症の不整脈を起こすこともあります。また、一度心筋梗塞を起こした心臓は、再び心筋梗塞を起こすことが多くなってきます。これら、①心不全、②致死性不整脈、③再梗塞が心筋梗塞慢性期の主な死因となります。

    心不全の予防、治療のためには様々な試みがされてきました。当初は、心臓の収縮力を増す薬が使用されてきました。強心剤です。しかし、様々な研究から、強心剤の使用はかえって寿命を短くすることがわかってきました。最近では、血管を拡げて血圧を下げることで心臓の負担を減らす治療が効果を挙げています。弱った心臓は鞭打つのではなく、仕事を減らして長持ちさせるほうが良かったんですね。その中でも、ACE阻害剤、ARB、ベータブロッカー、アルドステロン拮抗剤などの薬に優れた効果があることが知られています。

    不整脈については、当初は通常の抗不整脈薬を使うことで致死性不整脈を防げると思われてきました。しかし、これも間違えだったことがわかってきました。心筋梗塞の慢性期に普通の抗不整脈薬を、漫然と使うと帰って寿命が短くなってしまったのです。その後、アミオダロンという薬とベータブロッカーにある程度、致死性不整脈を予防する効果があるのがわかってきました。しかし、致死性不整脈に対しては、薬よりも植え込み型除細動器(ICD)の使用が劇的な効果をあげています。ICDは名刺ぐらいの大きさの機械で通常胸に埋め込みます。リード線がついていて、血管の中を通して心臓まで達しています。このリード線を通じて心臓の動きを見張っていますが、重症不整脈が起これば、電気ショックをかけて脈拍を正常化します。心筋梗塞以外の重症不整脈を有する疾患でもこのICDが威力を発揮します。一度でも重症不整脈を起こしたことのある人は、ICDを入れたほうが良いといわれています。特に心筋梗塞を起こした人では危険性が高まりますので、ホルター心電図などで不整脈のチェックをする必要があります。

    一度心筋梗塞を起こした人は、再び心筋梗塞を起こすことがよく有ります。これは、体質的に動脈硬化が進みやすいためです。ただし、動脈硬化の進行には体質だけでなく、他の要因もかかわってきます。糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、肥満や喫煙です。心筋梗塞の再発予防には、これらの病気のコントロールとともに禁煙、減量が大事になってきます。最近では、コレステロールがあまり高くない人も、コレステロールの薬を飲むことで再発が減るといわれています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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