• お気軽にご来院・ご相談ください。
  • FAX:0940-33-3614
  • 福岡県宗像市須恵1丁目16-19

新着情報

infomation

MENU
  • 月報 「聴診器」 2008/7

    月報 「聴診器」 2008/7/1

     

    なんだか、肌寒い天気が続きます。空もどんより暗く、雨も降ったりやんだり。今年は梅雨が長いようです。

     

    9 糖尿病③ 糖尿病の検査

    糖尿病は血糖値が高くなる病気です。そのため、糖尿病の診断は高血糖を証明することでなされます。ただし、血糖値は状況によって大きく変化するものです。ご飯を食べていなければ血糖値は低くなり、ご飯を食べれば血糖値は高くなります。熱がでたり、大きな怪我をしたりしたときにも血糖値は上がります。正常では空腹時血糖は110mg/dl未満、食後の一番高いときで140mg/dl未満とされています。日本糖尿病学会の基準では空腹時血糖126mg/dl以上、食後血糖値が200mg/dlを越せば糖尿病と診断されます。その間、空腹時血糖110~126mg/dl、食後血糖140~200mg/dlの場合は「境界型糖尿病」として扱われます。俗に言う「糖尿病予備軍」のことで、放置しておくと糖尿病移行することが多い方々です。血糖値が高いといわれると「今、ご飯食べたばかりだから。」といわれる方も多いのですが、正常であれば140mg/dlを超えることはありません。どんなに甘いものを食べていたとしても、140mg/dlを超えていれば糖尿病予備軍であり、200mg/dlを超えていれば糖尿病です。

    上述のように血糖値は食事によって変動します。しかし、平均的に血糖値が上がっているのか、正常範囲なのかも重要な情報です。ここで、HbA1cというものを測定します。HbA1cは、測定時からさかのぼること一ヶ月間の平均血糖を反映します。平均血糖が高ければHbA1cは高値になり、平均血糖が低くなればHbA1cも下がります。たとえば、日ごろは甘いものをよく食べていて、受診日だけ粗食にして来院される場合があります。このような時には、血糖値が低くてもHbA1cが高くなります。HbA1cの正常値は5.8%未満です。HbA1c 6.5%以上であれば、糖尿病と診断されます。ただし、HbA1cが6.5%未満でも糖尿病は否定できません。

    空腹時血糖やHbA1cが正常値に近くても糖尿病の場合があります。食事をした後にだけ血糖値が上昇するような場合です。このような場合には、十分な量の糖分を摂取後、血糖値の一番高い時に測定する必要があります。これを「糖負荷試験」といいます。一般に行われている方法では、75gのブドウ糖の入ったジュースを飲んだ後、30分後、60分後、90分後、120分後に血糖値をチェックして行います。正常型では120分後の血糖値は140mg/dlを肥えません。120分後血糖値が200mg/dlを越していれば糖尿病と診断します。140~200mg/dlでは境界型と診断します。ただし正常型であっても1時間後の血糖値が180mg/dlを超えていれば、糖尿病に移行する可能性が高いため、境界型として扱います。

    膵臓からインスリンがちゃんと出ているか、逆にインスリンが効きにくい体になっていないかをチェックするためにインスリン値も測定します。全身状態の把握のために腎機能、肝機能などの血液検査や心電図、レントゲンなども行います。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/6

    月報 「聴診器」 2008/6/1

     

    歩いて通勤をしていると、よくヘビを見かけるようになりました。途中の池ではカタツムリが大発生していました。子供たちの足はますます臭くなってきました。梅雨の始まりですね。

     

    9 糖尿病③ 糖尿病のタイプ

    血糖値が高くなる病気が糖尿病です。血糖値が高くなる原因はいろいろあり、原因によって糖尿病のタイプも分かれます。

    1. I型糖尿病。以前はIDDM(Insulin Dependent Diabetes Mellitus)と呼ばれていました。日本語では「インスリン依存性糖尿病」との意味です。これは、膵臓からインスリンが出なくなる病気です。膵臓にはランゲルハンス島とういう組織があり、そこにはβ細胞というものがあります。このβ細胞からインスリンは出ていますが、I型糖尿病ではβ細胞が障害を受け、インスリンが出なくなってしまっています。このため、糖を臓器に取り込むことが出来ずに、血糖値が上昇します。治療にはインスリンが不可欠なので「インスリン依存性」と呼ばれていました。β細胞が障害を受ける原因は長い間不明でしたが、最近は自己免疫によるものと考えられています。β細胞を攻撃するような抗体を自分の体がつくり出してしまう病態です。I型糖尿病は、若年者に多く、ある日突然発症します。発症原因として、食生活や生活習慣の影響は全くありません。多い疾患ではありませんが、生活習慣が原因となるII型糖尿病とは病因全く異なることは、もっと知られるべきだと思います。
    2. II型糖尿。以前はNIDDM(Non Insulin Dependent Diabetes Mellitus)と呼ばれていました。日本語では「非インスリン依存性糖尿病」との意味です。I型糖尿病がインスリンの絶対的不足によって引き起こされるのに対して、II型糖尿病はインスリンの相対的不足によって引き起こされます。カロリーが体内に取り込まれ血糖値が上昇し始めると、インスリンが分泌されて血糖値が正常化します。しかし、正常の膵臓でもインスリンの分泌能には限界があるので、過食などにより多すぎるカロリーが体内に入り、インスリンの処理能力を上回ってしまうと、血糖値が異常に上昇します。血糖値の上昇が続けば、高血糖によりインスリンの効きが弱くなったり、インスリンの分泌が低下したりします。このため、更に血糖値は上がり病態を悪化させていきます。病因としては、遺伝的背景の影響もありますが、主たるものは過食や運動不足による生活習慣の悪化です
    3. 続発性糖尿病。ほかの病気や、薬によって引き起こされる糖尿病です。クッシング病などの病気では血糖値を上げるホルモンが多量に分泌されるために糖尿病を発症します。重症膵炎では膵臓からインスリンが分泌されなくなり血糖値が上がります。ステロイドホルモンを多量に長期間摂取すると糖尿病を発症しやすくなります。 上野循環器科・内科医院  上野一弘
  • 月報 「聴診器」 2008/5

    月報 「聴診器」 2008/5/1

     

    急に暑くなってきましたね。天気がいいことはうれしいのですが、確か去年は黄砂がひどく、のどを痛めた方が多かったように思います。今年は、まだ光化学スモッグは確認されていないようですが、警戒をしなければなりませんね。

     

    9 糖尿病② 糖の代謝

    前回から、糖尿病の話を始めています。糖尿とは血液中の糖が多くなりすぎる病気です。血液中の糖分が多すぎると、動脈硬化が進行したり、免疫が弱ったりするので、さまざまな合併症に苦しむことになります。しかし、本来糖分は体にとって必要なものです。臓器が活動するためにはエネルギーを消費しますが、このエネルギーの供給源の大部分は糖分が占めています。特に脳は、糖分のみをエネルギー源としています。多すぎる糖分は問題ですが、糖分自体は生存に不可欠な栄養素です。

    糖は炭水化物の一種で、炭素と酸素、水素によって構成されています。「糖」にはさまざまな種類があります。糖を構成している炭素の数で「5炭糖」「6炭糖」と分けたり、結合している分子の数によって単糖や多糖とわけたりします。さらに、それぞれに分子的特徴の差によって多くの名前がつけられています。グルコース、フルクトース、ガラクースなどが有名ですね。このうち、エネルギー源として重要なのはグルコース(ブドウ糖)です。一般に生体で「糖」という言葉を使う場合は、グルコース(ブドウ糖)のことをさすと思ってください。

    糖は口から食物の形で摂取されます。代表的なものは、でんぷんとショ糖です。でんぷんは、ブドウ糖が3000個ぐらいつながっている多糖類です。ショ糖は、グルコースとフルクトースがつながっている2糖類です。食物は消化管内で細かい分子に分解され、グルコースの形で小腸から吸収されます。吸収された糖は門脈という特別な血管を通って肝臓に運ばれます。ここで、糖の一部はグリコーゲンの形で肝臓に蓄えられます。一部の糖はそのまま、血中に移行します。血管を流れて臓器に運ばれますが、そのままでは糖は臓器内に入って行きません。臓器は細胞の集まりでできていますが、細胞には細胞膜があるため、自然に糖がしみこんではいかないのです。細胞膜に多種の穴が開いています。その中には、糖を通す穴もありますが、この穴は普段は閉じています。ここに、インスリンというホルモンがやってくると、穴が開いて糖が細胞に取り込まれるのです。細胞に取り込まれた糖はさらに分解され、水と二酸化炭素になりますが、その過程で多量のエネルギーを放出し、細胞の活動を支えるのです。

    インスリンは膵臓という肝臓と胃のそばにある臓器から放出されます。インスリンは常時微量に放出されていますが、食後、門脈の糖分が多くなると、多量に放出されます。インスリンは、細胞に糖分を取り込ませて、血糖値を下げる働きがあります。インスリンは、糖の代謝に重要な働きをしますので、糖尿病の病態に密接に関わってくるホルモンです。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/ 4

    月報 「聴診器」 2008/ 4/1

     

    やっと春ですね。暖かくなったかと油断すると、また寒くなったりでかえって体調が悪い人が多くなったような気がします。人の移動も多くなり、何かと落ち着かない時期ですね。

     

    9 糖尿病① 糖尿病とは?

    さて、今回からは糖尿病について説明していきましょう。「循環器なのに、なぜ糖尿病の話?」と疑問に思われる方も多いかもしれませんが、循環器医にとっては無視できない病気の一つです。心筋梗塞や狭心症などの病気は、動脈硬化の進行によって発症しますが、糖尿病は動脈硬化を進行させる原因の一つなのです。

    糖尿病とは、読んで字のごとく「尿に糖が出てくる病気」のことです。この病気の存在は古くから知られており、西洋では紀元前のギリシャで、蜜のような尿が多量にでる病気として記録されています。日本では、「消渇病」と呼ばれており、藤原道長がこの病気であったと「大鏡」に記録されています。なお、藤原道長は糖尿病の合併症である糖尿病性網膜症と皮膚感染症があったようです。近代では夏目漱石も有名ですね。

    糖尿病は、昔は珍しい病気だったようです。今のように糖尿病の患者さんが増えたのはごく最近のことのようで、昭和初期までは数千人に一人程度の珍しい病気だったようです。ところが、最近の統計では、日本には約1200万人の患者さんがいるそうです。10人に一人が糖尿病という状態です。まさに、現代の国民病です。

    糖尿病は血糖値が高くなり、その結果として尿中に糖が出てくる病気です。尿量が増え、疲れやすくなり、感染症に弱くなります。あまりにも血糖が高い場合は倒れることもあります。しかし、初期の段階で症状が出る人はそれほど多くはありません。怖いのは合併症です。高い血糖が続くと全身の血管に動脈硬化が進んできます。目の動脈硬化が進めば、目が見えなくなります。腎臓の血管に障害が起これば、尿が出なくなり、人工透析が必要になります。心臓の血管の動脈硬化が進めば狭心症や心筋梗塞になります。脳の血管に動脈硬化が起これば、脳梗塞となります。糖尿病による、失明や人工透析、寝たきり患者さんは激増しており、医療費高騰の原因となっているともいわれ、社会問題化しています。このため、国も糖尿病発症予防を「健康日本21」という国家プロジェクトをスタートし、健全な生活習慣をするように勧めています。

    糖尿病は大きく3種類あります。膵臓からインスリンが出なくなるために血糖値が上がる「I型糖尿病」。膵臓からインスリンは出てはいるが、相対的に量が少なかったり、インスリンが効きにくくなっているために血糖値が高くなる「II型糖尿病」。薬や腫瘍のために血糖値が上昇して起こる「続発性糖尿病」。このうち、食生活の乱れや運動不足によって引き起こされるのはII型糖尿病です。I型糖尿病や続発性糖尿病は、珍しい病気ですが、健全な生活習慣をしていても発症してしまいます。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/ 3

    月報 「聴診器」 2008/ 3/ 1

     

    今年の冬は寒かったですね。雪も多かったようです。3月は平年よりも暖かいとの予想ですが、果たしてどうなることでしょう。寒い日が続きますね。そろそろインフルエンザが流行ってきそうですね。年末から引き続き感染性腸炎(俗に言う「嘔吐下痢」)もはやっているようです。お腹の調子が悪いかな?と思ったらお腹に優しい食事をするようにしてください。

     

    8 高血圧⑫ 高血圧の検査

    高血圧症の合併症の一つに動脈硬化があります。血管は血液を送る管で、水道管のように全身にくまなく広がっています。血管の壁にコレステロールなどが積もってくると、血管が硬くなったり、もろくなったりします。また、血管の壁が肥厚してきますので血管が詰まったりもします。動脈硬化が心臓の栄養血管(冠動脈)で起これば狭心症や心筋梗塞を起こします。脳の血管に動脈硬化が起これば、脳梗塞や脳血管性認知症を起こします。大動脈に動脈硬化が進むと動脈が腫れたり裂けたりする、大動脈瘤となります。この動脈硬化の進行は一方通行で、動脈硬化が進めば二度と正常な血管には戻りません。ただし、動脈硬化は特定の人に起こるわけではなく、人類すべてに起こります。いわば、血管の老化現象です。年とともに動脈硬化は進みますが、その進むスピードが人によって異なります。30代で血管がボロボロになっている人もいれば、90歳でも比較的若々しい血管を保っている人がいます。動脈硬化を進ませる要因には喫煙、糖尿病、コレステロール、遺伝などがありますが、高血圧も重要な要素の一つです。

    動脈硬化の検査としては当院では二つの検査を行っています。一つは脈波測定です。手足の血圧と心電図を同時に測定することで、血管の硬さと血管のつまり具合を見ることが出来ます。血管の硬さはCAVIという指標であらわされます。一般に9以上で「硬い」と表現しますが、年齢との比較が大切です。血管の詰まり具合はABIという指標であらわされます。これは「足の血圧」割る「手の血圧」で求められます。普通は足の血圧のほうが手の血圧より高いので、ABIは1を超えます。しかし、下半身の血管が狭くなると足の血圧が低下し、ABIが下がります。ABIが0.8以下では下半身の血管が狭いと考えます。

    もう一つは、頸部血管エコーです。超音波を使って、首の血管を画像で見る検査です。血管そのものを見ながら、血管の壁の厚さを測ります。0.8mm以上あれば、動脈硬化が進んでいると考えます。時々、血管の壁が小さな山のように盛り上がっていることもあります。これは、プラークと呼ばれ、動脈硬化がかなり進んだ結果です。プラークは繊維や白血球の死骸、脂質などで出来ています。油分の多いプラークは破れやすく、破れるとそこで血液が固まって脳梗塞の原因となります。プラークのある症例では、厳格に血圧やコレステロールを下げる必要があります。あまりにプラークが大きすぎて、血管が詰まりそうな場合には、脳外科で手術をする場合もあります。

    8 高血圧⑬ 二次性高血圧

    高血圧症の原因のほとんどは、本態性高血圧症とよばれる体質的なものです。これに対しては、特別な治療はなく、減塩と降圧薬が治療の中心となります。一方、二次性高血圧症と呼ばれる病態があります。体質性以外の原因、腎臓病や腫瘍によって血圧が高くなる病態です。代表的なものを少し説明します。

    • 腎動脈狭窄症:腎臓は左右にある臓器で、腹部大動脈から腎動脈を通って血液が流れ込んでいます。この血液を濾過して尿にしています。腎動脈が動脈硬化などの原因で狭窄すると腎臓に流れる血液の量が減ってしまいます。腎臓の血流が悪化すれば、腎臓は血圧を上げるホルモンを多量に放出する機能を持っていますので、結果的に血圧が上がります。この、腎動脈狭窄症による高血圧は、心臓や腎臓にかかる負担が大きく、予後が悪いといわれます。エコーやCTで診断を行います。治療は足から入れた細い管を使ってできるようになって来ました。
    • 原発性アルドステロン症:腎臓の上には副腎という小さな臓器がついています。小さな臓器ですが、様々なホルモンを分泌しているとても大切な臓器です。分泌しているホルモンのひとつにアルドステロンというものがあります。アルドステロンは、腎臓に作用して塩分の再吸収を促すなどの作用で、血圧を上げます。原発性アルドステロン症は、副腎に腫瘍ができ、この腫瘍がアルドステロンを多量に分泌する病気です。このため、血圧が高くなります。病気の特徴としてはカリウムが低くなることが知られていますが、最近ではカリウム値があまり低くならないタイプも多いことが分かってきました。治療は手術で副腎の腫瘍をとることになります。
    • 褐色細胞腫:これも副腎の腫瘍です。副腎が分泌しているホルモンのうちに、カテコールアミンと呼ばれるものがあります。褐色細胞腫は副腎にカテコールアミンを多量に放出する腫瘍ができる病気です。高血糖、高血圧の原因となり、突発的に血圧が上がることが知られています。治療はやはり手術です。

    薬剤性高血圧:様々な薬で血圧が上がることが知られています。よくあるのが、漢方薬による高血圧です。漢方薬の多くには甘草というものが入っていますが、甘草にはグリチルリチンという物質が含まれています。グリチルリチンは、前述のアルドステロンと同じような作用を来たすため血圧が上がります。ただし、甘草による悦圧上昇は個人差が大きいようです。治療は原因薬剤の中止です。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/ 2

    月報 「聴診器」 2008/ 2/ 1

     

    寒い日が続きますね。そろそろインフルエンザが流行ってきそうですね。年末から引き続き感染性腸炎(俗に言う「嘔吐下痢」)もはやっているようです。お腹の調子が悪いかな?と思ったらお腹に優しい食事をするようにしてください。

     

    8 高血圧⑫ 高血圧の検査

    高血圧症の合併症の一つに動脈硬化があります。血管は血液を送る管で、水道管のように全身にくまなく広がっています。血管の壁にコレステロールなどが積もってくると、血管が硬くなったり、もろくなったりします。また、血管の壁が肥厚してきますので血管が詰まったりもします。動脈硬化が心臓の栄養血管(冠動脈)で起これば狭心症や心筋梗塞を起こします。脳の血管に動脈硬化が起これば、脳梗塞や脳血管性認知症を起こします。大動脈に動脈硬化が進むと動脈が腫れたり裂けたりする、大動脈瘤となります。この動脈硬化の進行は一方通行で、動脈硬化が進めば二度と正常な血管には戻りません。ただし、動脈硬化は特定の人に起こるわけではなく、人類すべてに起こります。いわば、血管の老化現象です。年とともに動脈硬化は進みますが、その進むスピードが人によって異なります。30代で血管がボロボロになっている人もいれば、90歳でも比較的若々しい血管を保っている人がいます。動脈硬化を進ませる要因には喫煙、糖尿病、コレステロール、遺伝などがありますが、高血圧も重要な要素の一つです。

    動脈硬化の検査としては当院では二つの検査を行っています。一つは脈波測定です。手足の血圧と心電図を同時に測定することで、血管の硬さと血管のつまり具合を見ることが出来ます。血管の硬さはCAVIという指標であらわされます。一般に9以上で「硬い」と表現しますが、年齢との比較が大切です。血管の詰まり具合はABIという指標であらわされます。これは「足の血圧」割る「手の血圧」で求められます。普通は足の血圧のほうが手の血圧より高いので、ABIは1を超えます。しかし、下半身の血管が狭くなると足の血圧が低下し、ABIが下がります。ABIが0.8以下では下半身の血管が狭いと考えます。

    もう一つは、頸部血管エコーです。超音波を使って、首の血管を画像で見る検査です。血管そのものを見ながら、血管の壁の厚さを測ります。0.8mm以上あれば、動脈硬化が進んでいると考えます。時々、血管の壁が小さな山のように盛り上がっていることもあります。これは、プラークと呼ばれ、動脈硬化がかなり進んだ結果です。プラークは繊維や白血球の死骸、脂質などで出来ています。油分の多いプラークは破れやすく、破れるとそこで血液が固まって脳梗塞の原因となります。プラークのある症例では、厳格に血圧やコレステロールを下げる必要があります。あまりにプラークが大きすぎて、血管が詰まりそうな場合には、脳外科で手術をする場合もあります。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2008/ 1

    月報 「聴診器」 2008/ 1/ 1

     

    明けましておめでとうございます。暮れから急に冷え込んできましたね。おかげで、休み中は風邪をひいていました。皆様はどんな年明けだったでしょうか。楽しい一年だったらよいですね。

     

    8 高血圧⑪ 高血圧の検査

    今回からは高血圧患者様を診るときに行う検査について説明していきます。高血圧症に対する検査は大きく二つに分けられます。高血圧の原因に対する検査と、高血圧の結果に対する検査です。日本では高血圧症のうち8割以上が本態性高血圧症という、いわば体質的な高血圧ですが、1割程度二次性高血圧症がいるといわれています。これは、腫瘍や血管病変によって高血圧になるような病態です。このような二次性高血圧症は一般的な検査ではなかなか見つからないために、血圧を上げるホルモンを測定したり、血管の検査を行ったりします。これらについては、別項で説明するようにします。

    高血圧が命を縮めるのはその合併症のためです。合併症がどの程度、どの臓器あるかによって治療の必要性や目標も変わってきます。胸部レントゲン写真では心臓の大きさと、大動脈の影を見ます。高血圧が長く続いて心臓に負担がかかっていれば心臓が大きくなっていることがあります。大動脈の動脈硬化がひどければ動脈の壁が石のようにかたくなってレントゲンに写るようになります。また、動脈が曲がったり、膨らんだりしているが分かる場合もあります。心電図もやはり心臓の負担を見ますが、心臓での電気のとおり方を調べます。心臓が弱っていれば、心臓での電気のとおり方が変化したり、不整脈が出現したりします。胸部レントゲン写真や心電図で異常が見られたり、聴診で心雑音が聞かれる場合には心エコーを行います。心エコーでは心臓の壁の厚さ、心臓の動きや硬さを見ます。弁膜症が見つかる場合もあります。検尿では主に蛋白尿をチェックします。高血圧によって腎臓が悪くなると、尿に蛋白質がもれ出てきます。蛋白尿が認められれば、すでに高度の腎障害があるはずなのでなるべく早めに厳格な降圧が必要になってきます。採血検査では腎機能障害を中心に見ていますが、肝機能や電解質(イオンのバランス)もチェックが必要です。肝機能障害がひどければ、使う薬に制約がでてきます。降圧薬によってはカリウム値が高くなるものもあるので、カリウム値が高めの症例では使用を控えるようにしています。また、異常にカリウム値が低い例では二次性高血圧症の可能性があるので精査を行うようにしています。脂質異常症や糖尿病など、ほかの動脈硬化促進因子のチェックも大切です。

    以上は一般的行う検査です。これらの検査で合併症が見つかれば早期に治療が必要となります。合併症の多くは動脈硬化に由来するものです。動脈硬化そのものを調べる検査も行います。これは、少し長くなるので来月にお話します。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/12

    月報 「聴診器」 2007/12/1

     

    もう12月。一年はあっという間ですね。でも振り返ってみれば、いろいろなことがありました。来年はどんな一年になるでしょうか。

     

    8 高血圧⑩ 高血圧の薬物治療 中枢神経抑制薬 利尿薬

    今回で降圧薬の説明は最終回です。これまで、カルシウム拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、βブロッカー、αブロッカーについて説明してきました。今回は中枢神経抑制薬と利尿薬について説明します。

    前回は交換神経をブロックする薬を紹介しましたが、これは主に末梢神経のレベルで働く薬です。中枢神経抑制薬は神経の働くおおもと、つまり脳みそに作用することで血圧を下げる薬です。作用の仕方は、交感神経の受容体をふさいで神経の命令が伝わるのを邪魔したり、偽者の物質を紛れ込ませて交感神経の働きを弱めたりします。ワイテンスやアルドメットなどの薬がこの仲間に当たります。特徴はあまりなく降圧効果もそれほど強くないので、他の種類の降圧薬に比べて使われる機会があまりありません。ただしアルドメットは、胎児に悪影響が少ないので、妊娠中の高血圧には好んで使われたりします。

    利尿薬はかなり昔から使用されていた薬です。降圧薬の中では一番古い種類になります。高血圧の原因の一つに塩分過多の状態があります。体内の余分な水分と塩分は腎臓から尿として排泄されます。この時、まず腎臓は多量の尿(原尿)を作り途中で塩分と水分を再吸収するようにしています。利尿薬は、この再吸収を抑制することで塩分と水分の排泄量を増やします。特に、日本人のように塩分摂取が多いタイプには有効なことが多いようです。ラシックス、アルダクトン、フルイトランなどがこれにあたります。心不全のコントロールにも使用しています。しかし、尿酸値が高くなったり、糖尿病が悪化することが多いため、様々な降圧薬が開発されると使用が敬遠されるようになって来ました。

    ところが、最近再び利尿薬の使用量が増えてきました。きっかけは「ALLHAT」というアメリカでの研究結果でした。これは製薬会社の関与を出来るだけ排除した研究で、「どの降圧薬でいくつまで下げたらよいか」との疑問に答えるために行われたものです。それまでは、新開発の薬のほうが有利な結果が出るような研究が多かったのですが、ALLHATでは①血圧は低ければ低いほどよい、②降圧薬の種類は何でもいい、③利尿剤で悪いことはない、との結果が得られました。研究は背景や手法がそれぞれ異なるのでALLHATの結果がすべての症例に適応できるわけではありませんが、利尿薬はおおいに見直されることになりました。特に、アンギオテンシン受容体拮抗薬やアンギオテンシン変換酵素阻害薬で十分な降圧効果が得られない症例に対しては、非常に有効であるといわれています。

    僕も、なかなか血圧が下がらない方には利尿薬を処方していますが、副作用の出現をチェックするように努めています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/11

    月報 「聴診器」 2007/11/1

     

    もう11月、晩秋ですね。それにしては、暖かい日が多いようにも思えます。今年は暖冬なんでしょうか。

     

    8 高血圧⑩ 高血圧の薬物治療 βブロッカーとαブロッカー

    降圧薬の説明が続きます。これまで、カルシウム拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬について説明してきました。今回はβブロッカーとαブロッカーについて説明します。

    体には、血圧を調節するさまざまな仕組みがあります。前回登場したレニン・アンギオテンシン系もそのひとつです。そのほかに、自律神経でも血圧は調節されています。自立神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は活動時に優位になる神経です。交感神経が興奮すると、血圧が上がり、脈拍が速くなります。運動時は交感神経が興奮する代表的な状態です。逆に副交感神経は、血圧を下げ、脈拍を遅くさせます。睡眠時は副交感神経が優位となる代表的な状態です。交感神経と副交感神経はシーソーのように調節しながら、周期的にバランスを変えています。通常は、朝、目がさめると交感神経が優位になり始め、日中の活動時には交感神経優位な状態が続きます。夜になり就寝すると交感神経の活動が下がり、副交感神経が優位となります。交感神経は運動以外にも、感情的興奮やストレスなどでも活性化されます。副交感神経は腸管刺激や過緊張などでも優位になります。一般に高血圧症では交感神経が優位な状態となっています。この交感神経をブロックする薬がβブロッカーとαブロッカーです。

    交感神経にはα作用とβ作用があります。α作用は主に血管に働き、血管を収縮することで血圧を上昇させます。β作用は主に心臓に作用して心拍を早くしたり、心臓の収縮を強くしたりします。また、β作用は腎臓に働いて、レニン・アンギオテンシン系を刺激して血圧を上げる作用もあります。

    αブロッカーはα作用を阻害することで血管を広げ血圧を下げる薬です。早朝高血圧を伴う症例などに有効といわれています。カルデナリンやデタントールなどがこれにあたります。大きな副作用はありませんが、立ちくらみが出やすいのが特徴です。起立時には交感神経のα作用で血管が収縮し頭に血液を上げるような仕組みになっていますが、これを薬が阻害するためです。

    βブロッカーはβ作用を阻害することで血圧を下げる薬です。心拍数が早めの症例などに有効です。また心不全の治療効果もあります。アーチストやメインテートがこれにあたります。脈拍が遅くなったり、喘息がでたりすることがあるので、使用に注意を要する薬でもあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2007/10

    月報 「聴診器」 2007/10/1

     

    空も高くなり、朝夕はずいぶん涼しくなってきました。過ごしやすくなってきましたが、その分、食べすぎで体重が増えたり、血糖値が上がったりする方が多いようです。気持ちは良くわかりますが、お互い気をつけましょう。

     

    8 高血圧⑨ 高血圧の薬物治療 アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬

    前回は降圧薬の大まかな分類とカルシウム拮抗薬について説明しました。今回はアンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬について説明します。ちょっと、名前が長いので、アンギオテンシン変換酵素阻害薬を「ACE阻害薬」、アンギオテンシン受容体拮抗薬を「ARB」と表記します。

    血圧は様々なホルモンでコントロールされています。そのうち、代表的なもののひとつがレニン・アンギオテンシン系です。レニンは主に腎臓で作られるホルモンです。これが、アンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンIに変えます。次にアンギオテンシン変換酵素(ACE)がアンギオテンシンIをアンギオテンシンIIに変えます。アンギオテンシンIIは直接血管を収縮させて血圧を上げますが、腎臓の細胞に働きアルドステロンというホルモンを増やします。アルドステロンは、腎臓での塩分と水分の再吸収を増加させ血圧を上げます。また、アンギオテンシンIIとアルドステロンは直接心臓や腎臓に作用し、臓器を障害します。

    ACE阻害薬はこのレニン・アンギオテンシン系を阻害する薬です。レニベースやタナトリルなどの商品名がこれにあたります。ACE阻害薬はアンギオテンシンIがアンギオテンシンIIになるのを抑え、血中のアンギオテンシンIIを減少させ血圧が下げます。また、アンギオテンシンIIやアルドステロンの臓器障害作用を邪魔することで、臓器を保護する作用も持っています。高血圧や弁膜症で心臓の機能が衰えると心不全を発症します。心不全は予後不良の疾患の一つですが、このACE阻害薬は心不全の人の寿命を延ばすことが知られています。また、腎臓内の血圧を下げる作用が強いため、腎不全の予後改善効果も期待されています。したがって、心機能が低下している症例や高血圧性腎臓病がある場合には積極的に投与を検討します。ただし、血中カリウムが上昇したり、咳が出るなどの副作用があります。特に咳は良く見る副作用で、この薬の最大の問題です。

    ARBもやはりレニン・アンギオテンシン系を阻害する薬です。ブロプレス、ニューロタン、ミカルディスなどがこれにあたります。ARBはアンギオテンシンIIが作用するのをブロックする薬です。アンギオテンシンIIの濃度自体は変わりませんが、アンギオテンシンIIが血管や腎臓に作用するのを邪魔しますので血圧が下がります。ACE阻害薬と同様に、臓器保護作用がありますので心不全や腎不全の予後改善効果が期待できます。やはりカリウムが上昇するなどの副作用がありますが、咳の副作用はほとんどでないため、大変使いやすい薬となっています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

発熱や風邪症状のある方は、来院前に電話でご連絡をお願いします。

お電話
WEB予約