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  • 月報 「聴診器」 2013/06

    月報 「聴診器」 2013/0 6/01

    先日、仙台に行ってきました。初めて訪れたのですが、街並みがきれいで感心しました。偏西風が山を越えてくるせいか、空気が澄んでいて遠くの山までくっきり見ることができました。少し、海沿いに行くと、荒涼たる風景が広がっていました。崩れた家屋こそありませんでしたが、取り残された家の土台だけが道路沿いにずうっと並んでいました。なぎ倒された木々や電柱はまだ撤去されてないものもたくさんありました。それでも、新しいビニールハウスが並び、高速道路は延長工事が行われています。真新しい電信柱は、これまでのものよりかなり背が高く、幹線道路沿いに何百本も立てられていました。海岸線は目の届く範囲にわたって堤防工事が行われていました。

    患者さんの中にも、被災地域に仕事で行かれている方が多々おられます。粛々とした人間の営みに頭が下がります。

    16 不整脈2 ⑨いろんな心電図

    これまで不整脈のことを話してきました。不整脈の検査の基本は心電図です。心臓には電気が流れていますが、これを体の表面から記録したものが心電図です。四肢と胸部に電極をつけ、右手を陰極左手や左足を陽極にした双極誘導、四肢誘導から仮想のゼロポイントを設定し電極を陽極とした単極誘導などを記録します。12種類の誘導を記録する方法が一般的です。もっとたくさんの電極を付ければもっと詳細な記録ができます。体表面に100個ほどの電極を取り付け記録する体表面マッピング心電図というものもあります。ベクトル心電図は仮想ゼロポイントからある時点での電位の方向と大きさをベクトルで表現したものです。ベクトルの先端を経時的につなげた曲線で表現されます。たくさんの心電図波形を重ねて記録するものもあります。加算平均心電図と呼ばれます。通常の心電図の記録では陽性と陰性の波が記録されます。これを二乗して強制的に陽性とし、100-300発の波形を重ね合わせます。波形を重ね合わせると微小な電位も記録することができます。心室頻拍症などの致死性不整脈を起こす心臓では、障害心筋を電気がゆっくり流れています。加算平均心電図ではこの異常電流をLP(late potential)として記録できます。例えば肥大型心筋症でLPが陽性ならば突然死のリスクが高いと考えられます。T波の変化に注目した機械もあります。心臓に電気が流れて、ふたたび静止状態に戻る時期を再分極過程と呼びます。致死性不整脈ではこの再分極過程の不安定さがきっかけとなることもあります。再分極過程は心電図ではT波に反映されますので、T波の変化具合を見れば再分極の不安定さが推測できるというわけです。これはTWA(T Wave Alternans)という機械です。当院でも加算平均心電図やTWAがほしいのですが、残念ながら手に入れられていません。小倉記念病院にはあるようです。うらやましいですね。

    不整脈の診断では、発作時の心電図記録が必要になってきます。都合よく検査時に発作が起きることはまれなので、長時間の記録をすることになります。有名なのはホルター心電図です。携帯電話程度の機械を一日ぶら下げてもらって心電図記録をします。しかし、一か月に1度程度しか起きない発作ではホルター心電図でも記録できないことがよくあります。症状がはっきりしていて数分以上続くような場合はイベントレコーダーを使用します。発作時に自分で心電図をとってもらう機械です。症状が短時間だったり失神をする場合には超長時間記録器を使用します。これは板ガムぐらいの大きさの機械を皮下に植え込み一年ぐらい記録するものです。侵襲的な検査になりますが、症状が重篤の場合には、有用な検査だと思います。

    上野循環器科・内科医院 上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2013/05

    月報 「聴診器」 2013/0 5/01

    先日のニュースで、「パワーヘルス」の販売会社が消費者庁に立ち入り検査を受けたと報じられていました。パワーヘルスは電位医療機器の一種で、体を高電位で包み込むことで治療効果を期待している機械です。一般に広く知られていますが、実際には健康には何の効果もありません。おまじないの一種です。しかし、「血液が綺麗になる」「がんが治る」「高血圧や糖尿病に治療効果がある」などと虚偽の説明をして販売したため、今回の摘発となったようです。

    健康は人間の強い願望です。しかし、医学にできるとこはごくわずかしかありません。願望と医学にできることには大きな隔たりがあります。怪しい治療法はそこを狙って忍び込んできます。パワーヘルスだけではありません。ほかにも詐欺まがいの治療を勧められた話をよく聞きます。皆様もご注意ください。

     

    16 不整脈2 ⑧危険な不整脈 心室細動

    前回説明した心室頻拍に似た不整脈に心室細動があります。心室頻拍では非常に速い放電が心室で発生し、心室が異常に速い収縮を起こします。心室細動では放電がさらに速くなったり不規則になったりで、収縮自体をしなくなります。心室はぶるぶる震えるだけで有効な心拍出量はゼロになります。つまり、心停止と同じ状態になります。まれに、心室細動が自然停止をすることがありますが、多くは死に至ります。

    心室細動の原因として多いのは、心筋梗塞などの基礎心疾患がある場合です。心室内の異常放電が心室頻拍を起こすと、心室筋がさらにダメージをうけ心室細動に移行します。特に急性心筋梗塞では心室細動による死亡が最も危惧されます。心筋梗塞以外にも拡張型心筋症や肥大型心筋症がその原因となり得ます。

    明らかな基礎心疾患を持たない場合もあります。有名なのがブルガダ症候群です。1992年にホセ・ブルガダとペドロ・ブルガダの兄弟が突然死に関する論文を発表しました。心臓病の既往がないのにもかかわらず突然死をおこした症例の中に、特徴的な心電図変化を持っている人が多いとの報告でした。これは今では「ブルガダ症候群」とよばれ、突然死を起こす疾患として知られるようになりました。同じような病気はアジアでも見られ、日本での「ぽっくり病」やタイの「ライ・タイ」などはブルガダ症候群の類似疾患と考えられています。珍しい例では心臓振盪があります。スポーツなどで心臓に強い物理的ショックが加わると、タイミングによっては心室細動が起こることがあります。

    心室細動が起これば高率に死に至ります。心室細動の治療は電気ショックしかありません。強力な直流電流を流して強制的に心拍をリセットする方法で、直流除細動と呼ばれます。薬は効きません。心室細動は心停止と同義なので、除細動ができるまでは心臓マッサージをして時間を稼ぐしかありません。また、予防に有効な薬もありません。心室細動が予想される患者さんには小型の自動除細動器を体内に植え込んでもらいます。予期できない心室細動、初回の心筋梗塞や心臓振盪にともなう心室細動については有効な予防手段はありません。そばにいる人ができるだけ早く心臓マッサージを開始し、できるだけ早くAED(自動型除細動器)を使用するのが一番良い方法です。もし、みなさんがその場に居合わせたら、是非救命のために手を出してください。

    上野循環器科・内科医院 上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2013/04

    月報 「聴診器」 2013/04/01

    一気に春になりましたね。暖かくなって体調がよくなるかと思っていましたが、今年はそうでもないようです。インフルエンザはかなり減りましたが、肺炎などの呼吸器疾患の方が増えた印象があります。また、一時下火になっていた感染性腸炎も再び増えてきています。もともと、春は気分の変調を訴える方が多い時期ですが、今年はより慎重になる必要がありそうです。

     

    16 不整脈2 ⑦危険な不整脈 心室頻拍

    これまで説明してきた頻拍症は動悸をおこしたり、心不全や脳梗塞の原因となったりするものでした。それは、それで注意すべきことですが、発症してすぐ命にかかわるものではありません。しかし、不整脈の中には即、命にかかわるものがあります。

    心室頻拍は危険な不整脈の一つです。メインポンプである心室で異常な放電が発生し心拍が早くなります。動悸や胸痛を自覚したり、失神を来すこともあります。最悪の場合は突然死をおこします。心室頻拍の原因として心筋障害がある場合とない場合があります。心筋障害とは心筋梗塞などで心室の筋肉がいたんでいる状態です。例えば、心筋梗塞では心筋の一部が壊死しています。正常心筋は電気を流す性質がありますが、壊死した心筋は電気を流しません。また、障害は受けたけけど完全には壊死していない心筋では電気はゆっくり流れます。心筋梗塞を起こした部位では一様に心筋が壊死をしているわけではありません。完全に壊死した心筋と障害は受けたけど完全には壊死してない心筋が複雑に混ざっています。この配置によっては電気がグルグル回ることがあります。以前に述べたリエントリーが起きるわけです。この狭い部位で起こった異常旋回電気信号が正常心筋に伝わると心室が収縮し心室頻拍を起こします。拡張型心筋症や肥大型心筋症などでも同様の機序で心室頻拍が起こります。場合によっては一分間に200回転以上の異常放電が発生し、とても早い心室頻拍が起きることがあります。心筋障害が有れば元々の心機能が低下していることも多いので、心室頻拍があまりに早いと心室収縮が追いつかず、十分な心拍出量が確保できなくなります。こうなると、脳血流が足らなくなり意識を失います。更に、心拍出量が乏しくなれば、呼吸が停止し、そのうち心臓も止まってしまいます。

    明らかな構造的な異常がなくても電気の流れ方に微妙な異常がある病気もあります。QT延長症候群では電気の流れ方にばらつきがあり、電気が流れきってしまった心筋との間で珍しいリエントリーが起きる場合があります。この時には波形が次々に変化するような「トルサル・デ・ポアン」と呼ばれる特徴的な心室頻拍が起きます。カテコールアミン感受性多形性心室頻拍症(CPVT)では運動時に心室頻拍が起こることが知られています。これらのタイプの心室頻拍も失神や胸痛の原因となります。自然停止することが多いのですが、まれに突然死を起こすこともあります。

    心筋障害がない場合には、少し場合が異なります。例えば、右脚ブロック左軸偏位型心室頻拍症では正常伝導路の一部が電気的旋回路に含まれています。また、女性に多いタイプの右室流出路から起こる心室頻拍がありますが、これは電気的興奮の名残が次の電気的興奮を起こす「トリガード・アクティビティ」という機序によるものです。これらのタイプでは、意識が遠くなることはありますが、突然死を起こすことはほとんどありません。なお、このタイプの心室頻拍ではカテーテルによる治療が有効なことが知られています。

    上野循環器科・内科医院 上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2013/03

    月報 「聴診器」 2013/03/01

    超音波検査の機械を買い換えました。開業当初から10年以上同じ機器を使用していました。まだまだ使用できるのですが、より良い検査をするために最新・最高のものを置くことにしました。GEメディカル社製のVivid E9という機種で、県内では小倉記念病院など少数の医療機関しか所有していません。心臓の様子がすごくよく見えますし、3D検査や高度な解析も可能です。その分、使用者側にも高い知識と技能が要求されます。機械に負けないように技師さんともども一生懸命に頑張ります。

     

    16 不整脈2 ⑥脈が速い 発作性上室性頻拍症

    頻拍症の中には特徴的な症状を呈するものがあります。①突然始まり、②規則正しい頻拍で、③急に止まる場合は「発作性上室性頻拍症」かもしれません。発作性上室性頻拍症は名前の意味からは、発作性心房細動など心房由来の発作性頻拍すべてを含みそうですが、習慣的には房室回帰性頻拍と房室結節リエントリー性頻拍を意味します。

    心臓の中では、電気が一方向性に流れ、脈拍を調節しています。洞房結節>>心房>>房室結節>>心室のように電気は伝導します。ここで重要なのは心房と心室の間には、房室結節しか伝導部位がないことです。しかし、心房と心室の間にもう一本、電気を流すものがあればどうでしょう。心室に伝わった電気が再び心房に伝わることも可能です。条件が整えば心房に伝わった電気が房室結節を通って心室に伝わります。さらに、心室からもう一本の伝導路を通って心房に電気が伝わり・・・・とぐるぐると電気が旋回することが可能になります。これも前回説明したリエントリー現象の一種です。これは、房室回帰性頻拍症と呼ばれます。正常の心臓には余分な伝道路はありませんが、臓器の発達段階で心房と心室の間にもう一本の伝導路ができることがあります。これは、心筋と似た構造を持ち、副伝導路と呼ばれます。副伝導路の伝導性には心房>>心室しかない場合、心室>>心房の場合、心房>>心室と心室>>心房の両方の伝導性がある場合があります。副伝導路があれば必ず房室回帰性頻拍をおこすわけではありません。副伝導路の伝導性や房室結節の性格が条件に合うと房室回帰性頻拍症を起こします。

    似たような頻拍に、房室結節リエントリー性頻拍症があります。これは、副伝導路のようなよけな伝導路が房室結節にひげのようにくっ付いて起こる頻拍症です。この髭のようなものは、電気がゆっくり流れるのでslow pathwayと呼ばれます。多くの場合では電気はslow pathwayを降りて、正常伝導路逆行します。その後、再びslow pathwayを降りて、電気がぐるぐる回ります。

    房室回帰性頻拍症や房室結節リエントリー性頻拍症は期外収縮などがきっかけで突然起こります。同じ回路を電気がぐるぐる回り続けるので頻拍のリズムは規則正しくなります。頻拍中に電気の流れがブロックすると、頻拍は突然止まります。そのため、上記①②③のような特徴的な症状になるのです。発作性上室性頻拍症では命に関わることはほとんどありません。ただし、長時間発作が続けば心不全を起こす場合も有ります。発作が短時間でも頻拍中の脈拍が早ければ、血圧が下がって頭がふらふらしたり、ひどい場合には失神することもあります。

    発作性上室性頻拍症はカテーテルでの治療が有効な不整脈です。有効率は95%程度と言われます。薬での治療も可能ですが有効性が低く、副作用の問題もあるため第一選択としては勧められません。                        上野循環器科・内科医院 上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2013/02

    月報 「聴診器」 2013/02/01

    昨年末から厳しい寒さが続いています。毎朝、霜に包まれた車にお湯をかけています。雪もたびたび降っていますね。こんなに積もったのは久しぶりではないでしょうか。雪が降った日は、息子たちは大喜びではしゃいでいました。一方、犬はプルプル震えてすぐに家の中に入り、ストーブの前でじいっとしていました。歌とは大分違いますね。

     

    16 不整脈2 ⑤脈が速い 心房粗動

    前回は心房細動について説明をしました。脈拍がばらばらに早くなる病気です。似たような名前の病気に「心房粗動」というものがあります。こちらも脈が速くなりますが、比較的規則正しい脈が特徴です。心房細動では、心房のあちらこちらで放電が起こりますが、心房粗動では一定の場所から一分間に240-280回程度放電が起きます。このうち半分が心室に伝わり、一分間に120-140回程度の頻拍になります。心房粗動の多くでは、右心房の中を電気が旋回して発生します。これは通常型心房粗動と呼ばれます。ところで、旋回ってなんでしょうか?

    心臓の筋肉は電気が流れるようになっています。これは心房も一緒ですが、通常では心房内を電気が伝わっても、電気が旋回することはありません。薄い金属の板を想像してみてください。端から電気を流しても、逆の端に伝わればそれでおしまいです。しかし、板の真ん中をくりぬけばどうでしょう。条件さえ合えば、電気は穴の周りをぐるぐる回ることが可能です。この現象はリエントリーと呼ばれます。心臓でリエントリー現象が証明される前に、発光クラゲで生体におけるリエントリー現象が証明されています。発光クラゲは刺激を受けると光る性質があります。クラゲの端をたたくとまずそこが光ります。その後、波のように光る部位が広がり、反対側で消えます。この発光クラゲの真ん中をくりぬいて、一方向に刺激を加えると光が穴の周りをぐるぐる回り始めます。

    心房粗動では同じことが心房で起きています。右心房にはもともと右心室へ血液を送る穴があります。この穴には三尖弁が位置しています。この三尖弁の周りを電気が反時計方向に旋回し、通常型心房粗動が発生します。心房細動に対して抗不整脈薬を使用していると、電気の通り道が制限されて心房粗動になることもしばしばあります。

    心房細動に比べ心房粗動は持続しやすく、心拍数コントロールも困難です。心不全をおこすこともあります。薬が効きにくいのも特徴です。また、安易に抗不整脈薬を使用するとかえって重症化することもあります。例えば、心房内での旋回リズムが280回/分の心房粗動を考えてみましょう。心房と心室の中継点(房室結節)は少し伝導性が鈍くなっていますので、心房波の半分を心室に伝え、心室は140回/分で収縮します。抗不整脈薬を使用し心房内のリズムが220回/分になったとします。心房のリズムが220回/分では房室結節が刺激を全部心室に伝えてしまうことがあります。心室が220回で収縮すれば、激しい胸痛や失神発作を起こします。心房粗動に薬を使用する場合は、まず房室結節の伝導性を落とす薬を使用することが重要です。

    通常型心房粗動では旋回路が同定しやすいので、カテーテルでの治療が比較的容易です。弁膜症や、心臓手術後では思わぬところに電気の通らない場所ができ、その周りを電気が旋回することがあります。これは非通常型心房粗動と呼ばれ旋回路の同定が困難で、カテーテルでの治療が困難です。難しい三次元パズルを解くようなもので、逆にカテーテル治療専門医の能力の見せどころでもあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2013/01

    月報 「聴診器」 2013/01/01

    明けましておめでとうございます。今年の冬はじめじめした寒さが続きます。各地から寒波を知らせるニュースを見るとこちらも身が縮こまる思いがします。12月には千葉県でボートを練習中の高校生が突風で転覆し、川に落ちています。僕も学生時代はボート部でしたが、何回も転覆して水に落ちていました。それでも、僕らは、秋までしか船を出さなかったので、そんなに寒い思いはしていませんでした。今回のニュースを聞いて、「冬でも水上練習をしているんだ!!」と驚くとともに、身を切られるような冷たさを想像しました。全員無事に救出されて本当に良かったです。

     

    16 不整脈2 ④脈が速い 心房細動

    前回は脈が飛ぶときの病気を説明しました。次に多い症状は「脈が速い」ではないでしょうか。脈が速くなる不整脈には心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍症、心室頻拍症などがあります。しかし、前々回説明したように正常な反応として心拍が早くなることも多々あります。明確なラインはありませんが、脈拍が100以下では不整脈でないことが多いと思います。また、運動や喧嘩をしたときに脈が速くなるのは問題ないと思ってよいと思います。安静時に、時計の秒針の2倍以上の速さの脈であれば不整脈を考えたほうがよいと思います。

    脈拍が早く、不規則であれば心房細動を考えます。正常では洞結節で放電が起こり、心房⇒心室と収縮します。心房細動では、心房内のあちらこちらで放電が起こっています。総じて一分間に300回ほど放電が起きています。これだけ頻回に電気刺激が来ると心房は収縮せず震えたようになります。これを「細動」と表現したのです。心房のあちらこちらで電気が起きますので、心室にはランダムに刺激が伝えられます。このため、心室は不定期に収縮し、脈がばらばらになります。

    心房細動は動悸などの症状、心不全、脳梗塞を起こすことがあります。昔は、不整脈の薬を工夫して心房細動が止まれば、症状もなくなり、心不全も起こさなくなり、脳梗塞も防げて、患者さんが長生きすると考えられていました。ところが21世紀になって、不整脈の薬では予後は改善しないことが報告されました。不整脈の薬を投与すると、症状がおさまり、患者さんも医者も「心房細動が治療できた。これで脳梗塞の予防薬はいらない。バンザイ!!」と思って脳梗塞の予防薬を中止していました。ところが、心房細動はこっそり起きていることがあります。心房細動があっても症状がないことが、わりとあるのです。不思議なことに、同じ患者さんでも心房細動の症状がある時とないときがあります。結局、気づかないうちに起きた心房細動で脳梗塞が起きてしまうのです。この報告は、大きなショックをもたらしました。日本でも有名な医師がこぞって「その報告はおかしい。きちんとした研究を日本でやれば違う結果が出るはずだ。」と述べていました。しかし、日本で行った研究でも不整脈の薬で予後は改善されませんでした。心房細動にとって大事だったのは不整脈そのものの治療ではなく、脳梗塞の予防だったのです。

    調査では心房細動の患者さんは年に約10%の確率で脳梗塞を発症します。脳梗塞の予防薬を飲むことで1%程度に発症率を減らすことができます。高齢者、糖尿病、高血圧、心臓病、脳梗塞の既往がある人などでは特に注意が必要といわれています。症状のコントロールに心拍数を抑える薬や不整脈の薬を使用します。薬が効きにくく、症状が強い場合にはカテーテルでの手術をする場合もあります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/12

    月報 「聴診器」 2012/12/12

    早いもので今年も終わりに近づいてきました。今季は暖冬との予測もありますが、どうなることでしょう。電力の問題もあり、穏やかな天候だといいですね。

     

    16 不整脈2 ③脈が飛ぶ

    前回は脈の増減のメカニズムについて説明しました。おおざっぱにいえば、心拍数が変動するのは当たり前ということです。ところが、明らかにリズムに変調がある場合があります。これは不整脈が原因のことがあります。

    日常診療で一番多く遭遇する脈の異常は「脈が飛ぶ」との症状です。手首で脈をとっていると一拍脈が抜けたように感じる症状です。これは期外収縮という不整脈が原因のことが大多数です。正常での心拍は一定のリズムを刻んでいるので、心拍から心拍の間はほぼ一定です。期外収縮はこの一定のリズムに割り込むように入ってきます。「ドクン、ドクン、ドクン」が「ドクン、ドクドクン、ドックン」となります。しゃっくりのようなものを想像してください。予想される周れて収縮するため期外収縮と呼ばれます。これは、洞結節以外の場所からの放電が原因で心臓が収縮する現象です。洞結節の一定のリズムとは無関係に放電が起きるのでリズムが乱れるのです。心拍は一拍過剰になりますが、続けざまに起こる二つの心拍は、一つの脈拍しか形成できません。したがって、期外収縮が出ているときに脈を測ると一拍抜けたように感じるのです。

    期外収縮には上室性期外収縮と心室性期外収縮があります。これは異常放電がどこから起きるかによって区別されています。余計な放電を起こす細胞が心房などになれば上室性期外収縮となり、心室にあれば心室性期外収縮となります。期外収縮の予後は良好で、特に治療は必要ではありません。しかし、心臓の構造的な病気が原因となっている場合もあるので、基本的な検査は必要です。特に心室性期外収縮は心筋症や心不全、虚血性心疾患が原因の時もありますので心エコーはしておいたほうがいいと思います。また、心室性期外収縮が連続して起こり、心室頻拍症という不整脈に発展している場合は治療が必要になります。このため、一度はホルター心電図での検査も勧めています。

    洞機能不全症や房室ブロックなどの病気も脈が飛ぶ原因となります。これらは、心拍そのものが抜けてしまう病態で治療が必要な場合があります。洞機能不全症候群では洞結節の機能が劣化し定期的な放電ができなくなってしまいます。洞結節からの放電が来ないので、心房も心室も収縮せず心拍が消失します。洞機能不全症候群で心臓が止まったまま死んでしまうことは、あまりありませんが、3秒以上の心停止があれば気を失うことがあります。房室ブロックでは心室と心房の間をつないでいる房室結節が途絶しています。このため、心房は収縮しますが、心室は収縮せず、心拍が消失します。房室ブロックで心拍が消失している場合は、一過性であっても予後が悪いと考えられ、治療が勧められます。洞機能不全症や房室ブロックに対する治療はペースメーカーが使用されます。

    脈が飛ぶ場合には、まず症状がある時の心電図を調べます。期外収縮が原因で心エコーでも異常がなければ、とりあえずは安心していてよいと思います。器質的な疾患があったり、洞機能不全症や房室ブロックなどがあれば、治療を検討が必要です。

     

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/11

    月報 「聴診器」 2012/11/01

    感冒で受診する方が増えました。寒暖の差が激しいせいでしょう。風邪はウイルス性の感染症で安静にしておけば自然に軽快します。しかし、こじらせて肺炎を併発すると厄介です。今季も肺炎が増えだしています。風邪をひいたら薬を飲むことよりも、安静を第一にしておいてください。もちろん、禁煙禁酒です。

     

    16 不整脈2 ②脈の増減

    前回は心臓の大まかな構造と、電気の伝わり方を説明しました。洞結節で起きた電気が心房から心室に伝わり心拍を形成しています。洞結節で一回放電が起これば、一回の心拍が生まれます。つまり、洞結節のリズムが心拍のリズムなのです。それでは、洞結節の放電リズムはどうやって決まっているのでしょうか。これには、二つの要因があります。心臓そのものに由来する要因と、自律神経による要因です。

    腕を動かしたり歩いたりする場合には脳が意識的に命令を出して、神経がそれを伝えています。一方、汗を出したり血圧を調節することも神経が行っていますが、これらは特に意識して行われるわけではありません。生体に必要な機能を無意識に調節している神経系があり自律神経と呼ばれています。自律神経には交感神経と副交感神経の二種類があります。活動時に優位になるのが交感神経で、安静時に優位になるのが副交感神経です。交感神経が刺激されれば洞結節の放電周期が短くなり、心拍数が上昇します。逆に副交感神経が有意な時は心拍数が少なくなります。激しく動いたり、ストレスが強ければ心拍数が増えるのはこの仕組みのためです。逆に寝ていれば心拍数は少なくなります。これらは正常な反応であり病気ではありません。

    洞結節はそれ自体で、独立した固有のリズムを持っています。心臓だけを取り出して自律神経の関与をとってしまっても、栄養が補給されていれば一定のリズムで動き続けます。これは洞結節が自律的に放電を行っているからです。洞結節は3つの陽イオンを出し入れすることで固有の放電リズムを維持しています。なお、房室結節や心室筋も固有の放電リズムを持っていますが、通常は洞結節のリズムよりも遅いため、洞結節のリズムに支配されています。この洞結節自体のリズムが、加齢や電解質の異常などで変わることがあります。また、薬やホルモンの影響を受けてもリズムが変化します。

    貧血や肺炎では交感神経が刺激されて心拍が早くなりますが、これは心臓そのものの異常ではありません。悩み事があったり、過労や睡眠不足でも脈拍が早くなりますがこれも交感神経の働きによるものです。また、交感神経をブロックする薬を飲んでいると心拍が遅くなります。認知症の薬では副交感神経を刺激して脈拍が遅くなることがあります。痛みがあれば交感神経が刺激されて脈拍が早くなりますが、強い痛みを我慢していると急に交感神経が優位になって脈拍と血圧が急に低下することがあります。急激に脈拍と血圧が低下すると失神する場合もあります。甲状腺機能低下症では心拍が遅くなることが知られています。逆に甲状腺機能亢進症では心拍数が増加します。カルシウム拮抗剤という薬の中には脈拍が遅くなるものがあります。強心剤にも心拍が遅くなる作用をもつものがあります。血管を広げる薬には心拍数が早くなるものもあります。

    脈拍数の異常から心臓病を心配して相談される方も多いのですが、心臓病以外が原因の時もあります。                        上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/10

    月報 「聴診器」 2012/10/01

    夏が過ぎたら、急に涼しくなってきました。朝晩は寒いくらいですね。風邪で受診する人も急に増えた感じがします。

    インフルエンザの予防接種を10月中旬から行う予定です。早い時間は込み合いますので、申し訳ありませんが11時から接種をさせていただくつもりです。予約制ですので希望の方はスタッフに声をかけてください。

     

    16 不整脈2 ①正常の心臓

    平成16年からこの「聴診器」は書き始めました。病気や医学のことをできるだけわかりやすく説明できたらいいなと思っての試みでした。8年たって僕の分野のことはだいたい書いた気がします。ただし、今初めのことを読み返してみると、書き足りてないことも多々あるようです。今回からは以前に書いた内容をセルフカバーしてみようと思います。最初は不整脈の話です。

    正常の心臓は胸の真ん中に位置しています。こぶしぐらいの大きさでやや左に傾いています。上部は背側に位置し食道と接しています。下部は前方にせり出しています。胸骨のやや左側に拍動をふれることができます。右心房、左心房、右心室、左心室の4つの部屋に分かれています。足や腹部からの血液は体幹背側やや右よりの下大静脈をとおって右心房に流れます。頭や腕の血液は胸部背側やや右にある上大静脈をとおって右心房に注がれます。血液は右心房から右心室へ運ばれ肺動脈をとおって肺で酸素をもらいます。その後、肺静脈から左心房に入り左心室から全身に血液が送られます。この流れで分かるように、右心房と左心房は心室に血液を送り込む補助的な役割しか果たしていません。血行動態的に主たるものは心室です、さらに言えば、肺循環と体循環では負荷量が大きく異なりますので、心臓のかなめは左心室といえます。現に、心房が停止してもそれ程大事には至りません。また、特殊な手術で右心室を飛ばしても生命の維持は可能とわかっています。逆に左心室が止まれば、心房が動いていても死亡します。

    心臓は全体してみれば筋肉でできた袋になっています。筋肉は電気が流れると収縮します。心臓では規則的に電気が流れることで、正常な心拍を刻んでいます。右心房の上部に「洞」と呼ばれる部位があります。この洞に、自律的に放電をする細胞群があります。これは「洞結節」と呼ばれます。洞結節で放電が起これば電気は心房壁を伝わり、右心房と左心房に流れます。ここで心房が収縮をします。しかし、心房と心室の間には絶縁体が挟まっており、直接心筋を通じて心房と心室の間に電気は流れません。心房と心室の間には「房室結節」という中継点があり、ここをとおって電気は心室に伝わります。房室結節からはプルキンエ繊維という電線のようなものが数本出ており、電気はまずここを流れます。その後、ほぼ同時に心筋に電気が流れ心室が収縮します。電気は洞結節>>心房筋>>房室結節>>プルキンエ繊維>>心室筋と流れていきます。洞結節は定期的に放電をしていますので、心臓は心房>>心室の順に規則正しく収縮をしています。

    洞結節は固有のリズムで放電をしています。しかし、自律神経やホルモン、薬物などもリズムに影響を与えます。緊張したり、運動をすると交感神経が高まり放電のリズムが速くなります。逆に安静時や睡眠中はリズムは遅くなります。大きく息を吸って止めたり、顔を水につけてもリズムは遅くなります。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

  • 月報 「聴診器」 2012/09

    月報 「聴診器」 2012/09/01

    暑い夏もやっと終わりが見えてきました。危惧されていた電力不足も何とか乗り切れそうです。計画停電も実施されずに済みました。皆さんの節電努力のおかげだと思います。また、忘れてならないのは大飯原発です。再稼働のおかげで関西地区の電力に余力ができ、中国四国地方から九州への電力供給が確保できたようです。再稼働には多くの反対意見がありましたが、再稼働のおかげで夏を乗り切れたことは事実と思います。福井県の決断には頭が下がります。

     

    15 医師列伝④

    前回までは医学全体に功績のあった人物を紹介していました。今回は、不整脈界の有名人を紹介します。僕には面白い話ですが、皆さんには全く役に立たない知識と思います。

    セニング:アメリカの心臓外科医です。房室ブロックや洞機能不全症候群では失神を繰り返すことがあります。特に有効な薬物療法ないため、昔は寝たきりの生活を余儀なくされたそうです。1958年にセニング先生が植え込み型ペースメーカーを初めて臨床的に使用しました。これによって、重度の不整脈があっても、通常の生活ができるようになりました。

    シュワルツ:心臓の筋肉には電気が流れています。これは細胞膜にある小さな穴をナトリウムイオンやカリウムイオンが出たり入ったりすることで伝わっていきます。この穴に異常があると電気の通り方がおかしくなり、重度の不整脈が出現します。この穴の特性についてよく調べ、QT延長症候群という病気の発症原因について、美しく解説し分類してくれたのがシュワルツ先生です。シュワルツ先生の仕事をきっかけに様々な病気の原因が解明されつつあります。

    ブルガダ兄弟:ホセ、ペドロ、ラモン3人兄弟です。1992年にホセとペドロの連名で突然死に関する論文を発表しました。心臓病の既往がないのにもかかわらず突然死をおこした症例の中に、特徴的な心電図変化を持っている人が多いとの報告でした。これは今では「Brugada症候群」とよばれ、突然死を起こす疾患として知られるようになりました。20世紀も終わり近くになり、心電図変化だけを指標に新しい病気を発見したことは驚きをもって受け止められました。なお、兄弟はそれぞれ世界的に活躍していますが、混同されることが多いそうです。一度、「我々を混同しないで」との論文が医学の一流誌に載ったこともあります。

    コックス:心房細動という不整脈があります。罹患患者も多く、中には薬が効かないこともあります。僧房弁狭窄症などの弁膜症に合併しやすいことも特徴です。1991年にアメリカのコックス教授が心房に切開線を入れることで、心房細動を治療する手術を開発しました。迷路のように切るのでMAZE手術と名付けられました。今ではカテーテル手術が進歩して、MAZE手術を単独で行うことは少なくなりました。ただし、心房細動を合併した弁膜症の手術では、MAZE手術が並行して行われています。

    熊谷浩一郎:修猷館高校の出身です。前述の開胸的心房細動手術と並行して1990年代から心房細動のカテーテル手術を研究しはじめ、この分野では日本の第一人者と言われています。以前は、心房細動に対するカテーテル手術は、可能性も需要もないと思われていました。ところが、熊谷先生やフランスのハイサゲール先生が手術方法を確立すると、瞬く間に世界中に広がっていきました。今では、症状が強く、薬が効きにくい症例に対してはカテーテル治療が勧められています。

    上野循環器科・内科医院  上野一弘

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